マネックス証券が掲げるブランドビジョン「大切なものに投資をしよう」。そこには、投資の価値を儲けや利益だけでなく、それぞれの未来や夢を実現させるものへと進化させていきたいという思いが込められています。ブランドビジョンを通じて、世界をより良いものに変えるため、自分の好きなこと、やりたいことに邁進する人々の“想い”を発信しています。
今回は、食用コオロギの開発を行う株式会社グリラス代表取締役CEO兼CTO(最高技術責任者)の渡邉崇人さんが目指す未来や価値観をクローズアップします。渡邉さんは徳島大学バイオイノベーション研究所の助教も務める研究者です。もともとはコオロギを使ったゲノム(遺伝子)情報の解析・編集に関する研究で博士号を取得しました。
しかし、コオロギの遺伝子研究だけでは国から十分な研究費を受け取れません。「どうすればお金の心配をせず、自由に研究を続けられるか」という“難問”を解決するため、渡邉さんは食料不足の解決に役立つ食用コオロギの開発に研究の舵を切りました。
2019年には、徳島大学発のフードテックベンチャー企業であるグリラスを創業。コオロギの可能性を社会に実装していくことを目指しました。そして、食品販売も手がける良品計画の「無印良品」と提携。2020年以降にはグリラスが開発したコオロギの粉末パウダーを使用した「コオロギせんべい」「コオロギチョコ」の商品化を実現し、話題を集めました。
世界では人口増加で食料不足が見込まれる中、食用コオロギは貴重なタンパク質と見なされています。また、食品廃棄物を餌に使うなど、フードロスの解決にも役立ちます。
「長い時間を費やす仕事こそが、僕にとって人生の投資です」と語る渡邉さん。情熱を注ぐコオロギの研究費確保のために渡邉さんが始めた食用コオロギの開発は社会の役に立ち、かつ研究者が金銭的な心配をせず自由に研究に打ち込める環境の確保にもつながっているのです。
投資の世界でも、食料問題の解決につながるフードテックやアグリテックは注目を集めています。食用コオロギをはじめとした新食材の開発や、環境に優しく効率的に生産力を高める新農業の普及を観点に投資を考えると、どのようなものが浮かぶでしょうか。
昆虫食の開発など食料不足の解決に向けた動き
少ない餌や水で効率よく生産できる食用コオロギをはじめ、昆虫食は世界の食料問題の解決策の1つと見なされています。食用コオロギの自動飼育システム、食品やうま味素材の開発、ゲノム解析を使った品種改良といった研究に、多くの大企業も参加しています。
人類に有益な昆虫食はコオロギだけではありません。カイコのサナギや水生昆虫のタガメなど、さまざまな昆虫食の開発が進められています。またミドリムシなど環境に負荷をかけず大量生産が可能な代替食も注目されています。
食料問題の解決には、新食材の開発だけでなく、既存の食品流通や農業生産の改善も有効な対策といえるでしょう。生産過程での廃棄や賞味期限切れなどが原因で生じるフードロス解決のため、AIを駆使して食品の需要予測を立てたり、効率的な発注システムを開発したりする動きも広がっています。水不足に悩む地域や土地の少ない都市圏でも食物を生産できる水耕栽培や有機農法に対する関心も高まっています。
国連が採択した「持続可能な開発目標(SDGs : Sustainable Development Goals)」に掲げられた17の目標の12番目は「つくる責任 つかう責任」です。その目標の中には、2030年までに小売店や消費者レベルで捨てられる食品を半分に減らすこと、生産者から小売店に届けられる過程で廃棄されたり、失われる食品を減らすことが具体的なゴールとして掲げられています。
フードテックやアグリテックが世界にもたらすポジティブな効果
昆虫食の普及など、フードテックやアグリテックの開発にはさまざまな企業が参入し、新たな産業分野になりつつあるようです。環境に優しく、飢餓問題の解決につながる食品や農業の新技術は、今後の世界や私たちの食生活にどのような効果をもたらすでしょうか。
幸せ・豊かさ:
昆虫食の普及など新食材の開発が食料不足を緩和し、人々の豊かな食生活の確保につながる。
市場:
環境や健康に配慮した食生活を志向する人が増え、新たな食材の市場が生まれる。
新しい価値観:
地球環境に優しく、人類が共存共栄できる新たな食の価値観が、人々の生活習慣に根づいていく。
成長・発展:
バイオやITの新技術が未来に役立つ食品や食品流通、栽培方法の進化・発展をもたらす。
未来を変える力:
持続可能な食生活に対する意識の高まりが、食料問題や環境問題の深刻化を防ぎ、人類の未来を守る力になる。
昆虫食をはじめ、新食材や食生活の進歩を支える企業
食用コオロギの開発・普及自体に取り組む上場企業も増えています。渡邉崇人さんがCEOを務める株式会社グリラスのコオロギパウダーを使って「コオロギせんべい」を商品化した「無印良品」の運営企業・良品計画がその典型例です。自動車部品を製造するジェイテクトも、グリラスと業務提携してコオロギの自動飼育装置の開発に取り組んでいます。
他にもプリント配線板の絶縁インキで世界首位の太陽ホールディングスは、食糧事業を新たな事業部門に据え、コオロギを使用した昆虫養殖や水耕栽培によるメロンの生産を行っています。冷凍食品のニチレイも、昆虫食市場の草分け的な存在といわれるTAKEO株式会社に出資して、昆虫食の共同開発を進めています。
代替食や人工肉の生産を主力事業にするバイオや食品会社はすでに日米の株式市場に上場しています。フードロス解決に役立つ食品の自動発注システムや収穫の効率化が見込める水耕栽培用具を開発する新興企業も目立つようになりました。
昆虫食をはじめとした食の進化・発展に関わる投資先として、以下のような上場企業が挙げられるでしょう。
・良品計画(7453)
グリラスから供給されたコオロギパウダーを使った「コオロギせんべい」「コオロギチョコ」を販売。商品包装にプラスチックを使わなかったり、環境や人に優しいオーガニックコットンの使用に努めたりするなど、環境に配慮した商品づくりにも力を入れている。
・ジェイテクト(6473)
トヨタ自動車系列の自動車部品メーカー。2020年5月にグリラスと業務提携し、高品質な食用コオロギを量産する自動飼育システムの実用化を推進。ジェイテクト全社からのCo2排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの2035年達成を経営目標に掲げている。
・ユーグレナ(2931)
微細藻類ミドリムシを活用した代替食やバイオジェット燃料の開発を行う。学生時代にバングラデッシュを訪れた創業者・出雲充氏が栄養失調に苦しむ子ども達たちを救いたいと思ったことが創業のきっかけ。「サステナビリティ・ファースト。人と地球を健康にする」を社是として掲げている。
・シノプス (4428)
「世界中の無駄を10%削減する」をスローガンに、フードロスにつながりやすいパンや総菜品の需要予測機能もある自動発注システムを開発している。東京都の環境局と食品ロス削減事業の実証実験を行うなど、官庁や大学とフードロスに関する共同研究も行っている。
上記のようなフードテックに関連する株を株式市場で購入するには、100株単位となるため、10万円以上の高額な資金が必要な場合もあります。ただ、1株単位で少額から購入できる単元未満株で取引できる銘柄もあります。
海外にも、地球環境に配慮した代替食の開発を行うフードテック企業があります。2019年5月に投資家から大きな注目を集めて米国NASDAQ市場に新規上場したのは、大豆由来の人工肉の開発を行うビヨンド・ミート(BYND)です。牛肉の味や食感を再現した「ビヨンドバーガー」が有名です。
水の消費量が少なく、屋内で何層にも栽培棚を積み重ねて、効率的な垂直栽培が行える水耕有機栽培の園芸用具を販売するグロウジェネレーション(GRWG)も、農業の進化に貢献する新興企業です。
2022年2月以降のロシアによるウクライナ侵攻は、両国が小麦など主要穀物の一大生産地であることから、世界的な食料価格の高騰を引き起こしています。そのような中、効率よく、たくさんの穀物を生産するための農機具や肥料関連企業を集めた農業ETFも米国市場に上場しています。
「グローバルX・農業テック&フード・ETF」(KROP)は「ソラクティブ・農業テック&フード・イノベーション・インデックス」という指数への連動を目指すETFです。農業技術の進化に寄与する、米国をはじめとしたアグリテック企業にまとめて投資することができます。
投資の世界でも穀物を取引するコモディティ市場には多額の資金が流れており、さまざまな農業関連企業が有望な投資対象と見なされています。食料問題という人類共通のテーマの視点で、投資を考えてみるのもいいかもしれません。