相次ぐ映画館の閉鎖
前回の記事では東急(9005)による東急レクリエーション(9631)の株式交換形式での完全子会社化で、映画館を運営する企業がまた1社減ること、映画館の株主優待自体が減少傾向であることを説明しました。
10月19日にも渋谷駅の東口にある渋谷TOEIが閉館するというニュースがありました。東京テアトル(9633)が運営していた大阪梅田の「テアトル梅田」も9月30日に閉館、東京では岩波ホールが7月に閉館しました。マネックス証券の事業所がある八戸市の繁華街のショッピングビルで運営されている映画館「フォーラム八戸」も2023年1月をもって閉館することを発表しています。邦画の場合、その舞台となった地域の映画館では長く上映されるものです。例えば永野芽郁さんが主演で現在上映中の「マイ・ブロークン・マリコ」は八戸や八戸の景勝地である種差海岸などが舞台となっていることもあり、同館では現在も1日2回の上映を続けているようです。映画の舞台を回ることや、現地の映画館で作品を鑑賞することは映画ファンの楽しみの1つでしょうし、映画館は街の顔の1つで、その閉館は郷愁を感じずにはいられないように思います。
コロナ禍まで安定していた興行収入
一方で、映画館の興行収入の落ち込みが続いているわけではありません。日本映画製作者連盟の発表による興行収入を見ると、1983年をピークに減少傾向の続いた興行収入は1996年に底を打ち、1998年にはその1983年を超える水準に達しています。この1998年は「タイタニック」が興行収入を引っ張りました。
興行収入の発表に一本化された2000年以降で見ても、2019年のピークまで興行収入は安定しています。2000年以降の興行収入上位の年は2019年、2016年、2017年の順で、年を追うごとに興行収入が上昇していることが分かるでしょう。
興行通信社によれば、2019年は「天気の子」「アナと雪の女王2」「アラジン」がいずれも100億円を超える興収で、2016年は「君の名は。」が引っ張りました。興行収入上位の作品もベスト10は「タイタニック」、「もののけ姫」以外、すべて2000年以降の作品です。1980年代の作品だと30位以内に「E.T.」(17位)、「南極物語」(30位)が入るのみです。
たしかに、2020年以降のコロナ禍の影響は大きく、2020年は前年の2612億円の興行収入が1433億円と半減近くなり、2021年でも1619億円と低水準が続いています。2020年には国内歴代1位の興行収入となった「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が公開されているので、その追い風があっても非常に厳しい状況だったということです。しかし、コロナ前は上昇傾向が続いており、直近では感染拡大も落ち着いてきて行動規制もなくなっています。映画館には追い風のようにも思えます。
シネコンを中心にスクリーン数は増加傾向
実際、同じ日本映画製作者連盟の発表によれば、映画館のスクリーンの数は増加の一途で2001年には2,585だったものが、2021年には3,648と大きく増加しています。2020年・2021年も前年比で増えているのです。しかし、この増加はほとんどがシネコン形式のものです。
日本映画製作者連盟では同一所在地に5スクリーン以上の映画館をシネコンとしています。前回の記事で取り上げた東急レクリエーションが再開発している東急歌舞伎町タワーに開業予定の109シネマズプレミアム新宿は8スクリーンとされているので、シネコンになります。一方、前身である新宿ミラノ座は2014年の閉鎖時点で3スクリーン、シネマスクエアとうきゅうを合わせても4スクリーンでしたのでシネコンではなかったということになります。渋谷TOEI、テアトル梅田、岩波ホールいずれもシネコンにはあたりません。フォーラム八戸は2003年開業でシネコンの潮流に合わせてか9スクリーンなのでシネコンになります。しかし、9スクリーンはいずれも100席に満たず、競合と言えるTOHOシネマズおいらせ下田が7スクリーンで最大の座席が360(車椅子席2)でいずれも100席を超えるのと比べると大きく異なると言えそうです。
まとめると、スクリーン数の少ない都市部の映画館は閉館する一方、シネコンを中心にスクリーン数は増加傾向で、興行収入自体も(コロナ禍を除いては)増加傾向でした。都市部でも東宝(9602)の旗艦であるTOHOシネマズ日比谷は2018年と最近開業しています。東宝はTOHOシネマズ日比谷の開業に際し、前身が「日本劇場」「日劇東宝」「日劇プラザ」であったTOHOシネマズ日劇を閉館しています。TOHO日劇は3スクリーンで2,136席と大規模なスクリーンが集まっていたのに対し、TOHO日比谷は13スクリーンで約2,800席と各スクリーンは小型化しています。
これは趣味や生活スタイルが多様化する中で、大規模なスクリーンで同じ時間に大勢で観ることが、難しくなり、たとえば同じ作品でも複数のスクリーンで9時開始、9時30分開始と上映時間も分散することが王道になっているのでしょう。プロ野球もテレビでの視聴率は落ちてきており、中継が減る一方で、観客数は増加傾向が続いています。
映画興行会社の業績は不動産関連が中心に
さて、映画館の話が長くなりましたが、映画興行会社の話に戻りましょう。前回の記事で取り上げたような映画興行会社の多くは歴史のある映画興行会社で、どちらかというとシネコンではない都心の大型映画館が中心になっています。東急レクリエーションは109シネマズというシネコン運営にかじを切っていますが、東京テアトルは先ほど取り上げたテアトル梅田以外にも都心の小型館が中心です。
武蔵野興業(9635)も新宿の武蔵野館という小型館運営です。東京楽天地(8842)、きんえい(9636)、オーエス(9637)、中日本興業(9643)は都心型シネコンの運営に業態を変えてきていますが、シネコンを多数展開するような動きは進めていません。国内のシネコンは東宝系のTOHOシネマズ、松竹(9601)系のMOVIX、東映(9605)系のTJOY、小売業系のイオンシネマ、ユナイテッド・シネマなどが中心で、上記の映画興行会社の中でこのような展開をした例は109シネマズくらいで少数でした。
映画興行会社は前述の通り、都心の一般的には好立地に大型館を構えていたため、映画興行に力を入れずとも不動産経営で利益が上がっており、小規模な企業が多いものの、一定の安定があったためシネコンの展開に乗り出さなかったとも言えそうです。実際、直近の各社の業績は不動産関連が中心になっています。
各社とも小さくない不動産事業からの利益を得ています。各社の構成比率が100%を超えているのは、映画事業などが赤字で、それを補っている場合が多いからです。逆に、これらの企業のこのような収益構成は投資家からしても見逃せないものがあるように思います。次回はより詳しく各社の収益構成の内容を見ていきましょう。