続く親会社による子会社の買収

9月14日、東急(9005)が東急レクリエーション(9631)を株式交換により完全子会社化することを発表しました。2023年1月に東急レクリエーション1株に対し、東急3.6株を交付するかたちです。発表直前の株価は東急が1,708円、東急レクが5,050円でした。その時点での株価で考えると東急レクが6,000円強で評価された計算になります。実際に東急レク株はその後大きく買われ、東急との交換比率を前提とした6,000円台で取引されています。(正確な株式交換による評価株価は両社の配当金や後述の株主優待も考慮されることになりますが、それらは誤差の範囲と言えると思います)

【図表1】東急・東急レクの株価と株式交換による評価
出所:マネックス証券(株価は9月13日時点)

今回の買収はもともとグループで過半の株式を保有する親会社による買収です。過去の連載でも取り上げてきたように、親会社による子会社の買収は継続的な流れになっています。

●相次ぐ親会社による子会社の買収、次の注目ポイントは?(2021年11月5日)

●親会社による子会社の買収が増加!自社株保有の目立つ企業をチェック(2021年11月12日)

また、東急レクは現在、新宿歌舞伎町で大型の再開発を行っています。その中心となる東急歌舞伎町タワーと呼ばれる47階建ての高層ビルは2023年4月に開業予定で、高級ホテルに加え、映画館、劇場、ライブホールなどが入る予定です。旧コマ劇(新宿コマ劇場)前の広場に面しており、すでに概ね建設が終わっています。その高層ビルは新宿の様々な場所から見えるくらい目立つ存在です。以下の記事では東京ドームが三井不動産(8801)に買収された際、東京ドームのような不動産保有会社が注目されましたが、この中でも東急レクを取り上げています。

●東京ドーム買収劇の裏側、次に注目される不動産保有銘柄は?(2020年12月4日)

同記事では他にテーオーシー(8841)、東京楽天地(8842)、飯野海運(9119)、日本空港ビルデング(9706)を不動産保有会社として取り上げています。テーオーシーは非上場ですがホテルニューオータニの大谷家がオーナーです。テーオーシーは2027年に向け本拠地の五反田TOCビルの建て替えを進めています。東急レクもまさに新宿歌舞伎町の再開発を進めており、東京ドームもドームのリニューアルを進めるところでした。このような戦略的な転換期に資本関係を整理する動きは考えやすそうです。東京楽天地は楽天地ビルのリニューアルを終えていますが、同社も阪急阪神東宝グループが親会社で注目できるかもしれません。

東急レクリエーション、完全子会社化によって変わる株主優待

さて、そのような再編も注目されますが、東急レクと言えば映画館の株主優待の代表格です。飲食業やサービス業は個人向けのビジネスなので株主優待の主力と言え、特に映画館は株主優待による直接の追加的なコストもかからないことからか、各社とも大盤振る舞いと言えるような株主優待を提供していました。

しかし、各社とも最近では株主優待を抑え気味にしており、その中で東急レクリエーションの株主優待は目立つ存在でした。上記のように映画館の株主優待は直接的な追加コストこそないものの、最近ではチケットショップなどで優待券が流通することもあり、実質的なコストが無視できなくなってきたこともあるかもしれません。

大手映画会社の株主優待は以下のようになっており、(東急による買収が発表されるまでは)100万円程度の必要金額で半年に9回映画館にいける東急レクの株主優待は他の大手に比べよい条件でした。松竹(9601)の場合、8回、東映(9605)で6回、東宝(9602)は50万円程度ですが1回とだいぶ少なくなります。東急の買収発表により、必要金額が120万円程度になっていますが、それでも他の企業より必要金額の割に優待内容がよさそうです。

【図表2】大手映画会社の株主優待(代表例)
出所:マネックス証券、株価は9月26日終値ベース

その東急レクも東急の子会社となることで、映画招待券の株主優待がなくなります。東急は東急レクとの統合に伴い、もともとの東急の鉄道を中心とした株主優待も加え、東急レクの映画チェーンで映画を1,000円で鑑賞できる優待券を半年ごとに4枚提供するとのことです。この他、東急レクは統合時の株主に対し、本来付与する株主優待(上記の映画招待ポイントです)を2023年5月に付与することに加え、2023年11月に追加の付与を行い、さらに先述の歌舞伎町のプレミアム映画館の招待券も贈呈するとしています。現在の株主に対する配慮が窺われる対応ですが、新しい優待では無料で映画館に行くことはできなくなります。実質的に現在の東急レクの株主優待が継続されるわけではないと言えるでしょう。

映画館で使える株主優待、注意すべきポイントは

映画館の株主優待は受難の日々が続いています。2019年にはスバル興業(9632)が運営していた有楽町スバル座の閉館に伴い、従来100株保有者に半年ごとに6回の招待券の株主優待が、1年毎の2,000円のTOHOシネマズギフトカードに変更(保有期間により1,000円分増)されました。従来は1年に12回観られた映画が、1-2回しか観られなくなったことになります。

2020年には東京楽天地(8842)が従来は東宝系(TOHOシネマズなど)の映画館で使える株主優待と自社専用のものを提供していましたが、同社直営の錦糸町の映画館でのみ観られるものに統一しています。それ以前にも東京テアトル(9633)が優待枚数を減らすことや上場廃止となったパルコやノバレーゼの映画の優待がなくなるなど、映画館の株主優待は縮小傾向と言えそうです。

東急レクは時価総額が300億円程度で投資金額は50万円程度と個人株主があまり増えないような属性でした。同水準の湖池屋(2226)の株主は5,193名(2022年3月)、手間いらず(2477)は2,226名(2022年6月)、サトウ食品(2923)は1,786名(2022年4月)、日本精線(5659)は4,920名(2022年3月)といった水準です。これに対して、東急レクは10,277名(2022年6月)となっており、優待目当ての株主が増えていたということは考えられそうです。これは反面では企業のコストになっていた面もあると言えるでしょう。

映画館の株主優待を提供する各社も対策に取り組んでおり、専用カードを発行してそのカードにポイントを付与する形式で転売などを抑止していました。また、利用面でも封切りからしばらくは優待券を使えないようにしています。しかしながら、オークションサイトやチケットショップなどでそのような優待が販売されている状況はあまり変わっていないように見えます。一定の期待損失は気にされていると言ってもいいでしょう。

一方で、現在でも魅力的な映画館の株主優待を提供している企業も少なくありません。特に地域が限定されていると、上記の転売などのコスト想定も限定的と言えるでしょう。現在の映画館の優待を株主数や転売対策などの観点も含めてまとめると以下のようになります。

【図表3】映画館運営会社の映画館の株主優待(代表例)
出所:各社ウェブサイトの情報をもとにマネックス証券が作成

先ほどの東宝などと比べると相対的に必要金額が少なく株主優待を受けられそうです。また、映画割引券を追加で株主優待としている企業もあります。オーエス(9637)は100株だと60ポイントですが、200株だと140ポイントと割合がよくなります。武蔵野興業(9635)は500株で優待証が株主優待となり、何度でも利用できるようになります。一方で一般的には株数が増えるほど100株あたりの株主優待の数が少なくなることにご注意ください。

上記の中では、東京テアトル(9633)が通用する映画館が多く、必要金額も少なくなっています。しかし、その分株主数も多く、企業もコストを気にしている可能性があります。実際、過去には優待枚数を減らしていました。大阪の映画館を閉鎖するなどの動きもあります。それに対し、他の映画館は利用できるところが限定的なこともあってか、株主数がそこまで大きいというわけではなさそうで、利用エリアにお住まいの方は注目してもよさそうです。特に東急レクとエリアが重なるきんえい(9636)やオーエスは金額帯の観点から買い替え需要があってもおかしくなさそうです。

映画館で使える株主優待は各社の経営も含め、まだ興味深い部分がありそうです。その辺りについては今後ご紹介できればと思います。また、本連載では株主優待について以下の記事でも取り上げています。株主優待は大変魅力的な制度ですが、企業の収益などを考慮しないと、優待廃止や優待改悪のリスクがあり、その場合は株価もつられて下落することが少なくありません。映画館で使える株主優待も同様です。株主優待の一般的な注意点をまずは意識していただければよいかと思います。

●JTが株主優待を廃止!優待銘柄選びの注意点とは?(2022年2月15日)

●すかいらーくHDの「株主優待の見直し」でみる個人投資家が注意すべき点(2020年11月6日)