最近、新聞などで「流動性の罠」という言葉を見かけませんか?
経済学で使われる言葉で、イギリスの経済学者ケインズが提唱した理論の中に出てきます。
景気が悪化すると金融政策では金利を下げますね。それにより市場に資金が供給され、それが景気回復につながることが期待される政策です。金融緩和策には利下げだけでなく、過去には日本で、そして最近では米国が続けて行った量的緩和もあります。

金利が下がる⇒市場に資金が増える⇒投資資金が増える⇒景気が回復する
という理論です。金利が下がると資金調達にもコストがかからないため、現金を保有するより投資や消費を選好し、結果として景気回復につながるというもの。

ところが実際は、日本がそうであったように、そして今アメリカで言われているように、資金があふれているのに景気が回復してこないという事態に陥ることがあります。景気回復する見込みはないと投資家が判断するようになれば、投資をするより流動性の高い現金を保有することを選好するようになります。

金利自体はマイナス金利にはできませんから、市場にいくら資金を供給しても「じゃぶじゃぶ」になるだけでそれ以上の金利低下にも景気回復にもつながらず、つまり金融緩和しても金融政策が効かない状態になってしまうのです。
この状態が「流動性の罠」です。

通常、金融緩和策がとられることが予測されると、株価上昇や通貨の売りにつながりますよね。

本来の政策の目的は相場の一時的な反応ではなく、実体経済・景気の回復、失業率の低下(雇用確保)なのですが、「流動性の罠」に陥ってしまっていると、根底には投資家の「景気回復は見込みなし」という心理があるため、市場に流れる憶測やニュースによって相場が振れるだけで終わってしまいがちです。そうしたときに長期的なスタンスで市場に向かうと相場の揺り戻しで大きく火傷をしかねません。

「The Wall Street Journal」のコラム内では、この「流動性の罠」から脱する方法の三つの策の一つとして「通貨の切り下げ」を挙げていました。(あと二つは巨額の財政出動策とインフレ率を上昇させるというもの。)
通貨の切り下げはデフレ対策にもなるため効果は大きいとも言われています。ただし、他国の通貨介入に否定的なスタンスをとってきた米国が、基軸通貨であるドルをあからさまに通貨安奨励することは賢明でないと同コラムはまとめています。

それ以上に、主要ペアであるユーロと円をみれば、ユーロは現在不安要因が多くて買い進められる状況になく、円はこれ以上の大幅な円高は実体経済と乖離が大きくなり、日本経済としても受け入れられず(介入などで断固阻止?)、となればそもそも現時点からのドル安誘導というのは難しいところでしょう。

金融政策一つをみても、その国だけの経済で収まる問題ではないのが今の世界経済です。相場の反応と実体経済もまた、異なることを知った上で市場と向き合っていく必要がありますね。

廣澤 知子

ファイナンシャル・プランナー