世界各国の中央銀行は金融政策正常化の流れへ

新型コロナウイルス感染症への対応で「危機モード」にあった各国中央銀行が相次いで金融政策の正常化に向けて舵を切り始めている。

米国では米連邦準備制度理事会(FRB)がテーパリングの加速を決定し、欧州では欧州中央銀行(ECB)がパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の予定通りの終了を決定した他、英国の中央銀行であるイングランド銀行(BOE)は政策金利の引き上げを決定した。

こうした動きの背景には、新型コロナウイルスの影響がワクチンの普及などもあって一時よりも落ち着いてきていることだけではなく、インフレ率の高進がみられていることが存在している。

いかに新型コロナウイルスの影響が若干和らいだとしても、各国経済はまだ盤石とは言い難く、金融当局としては緩和的な金融政策によって経済回復のサポートを続けたいというのが本音であろう。

FRBも、当初は「一時的」としてインフレへの対処よりも経済サポートを優先したい姿勢をにじませていた。しかしながら、今月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で「一時的」との文言を削除し、テーパリング速度の加速だけではなく2022年の利上げ回数の増加も示唆する決定を行うなど、インフレ対応を急ぐ姿勢に転じたのである。

インフレの影響が小さい日本では、日銀が経済状況に応じた政策対応を推進

そうした意味で、インフレ率が世界的に高進する中にあってインフレ率がさほど高まらず、2%の物価目標にも届かないという状況にある日本においてはインフレの影響は無視可能なレベルであり(もちろん物価目標を達成するという意味では当然インフレ率の影響は受けるが、基本的には緩和方向の圧力となるため新型コロナウイルス感染症の対応とはコンフリクトを起こさない)、金融政策当局としては経済状況に応じたきめ細かい政策対応が可能な状況が継続していると言える。

そうした観点を踏まえつつ、今月の日銀の政策決定内容を見てみると、新型コロナウイルス感染症による影響が和らいだ部分について金融政策の正常化を進めていこうとする姿勢がよく表れており、高く評価できるのではないだろうか。

すなわち、今回、日銀は「新型コロナ対応資金繰り特別支援プログラム」のうち、中小企業向けが主となる新型コロナ対応特別オペに関して、制度融資のバックファイナンスとプロパー融資分については延長を決定した。

その一方で、大企業向けや住宅ローン向け(CP・社債の買い入れ増額措置、特別オペのうち民間債務分など)金融環境が十分に改善していると判断される部分については期限通り2022年3月での終了を決定したのである。
 
新型コロナ対応特別オペとCP・社債買い入れを一緒に終了・延長させるといった施策も可能であったはずである。しかし、そうした中で内容に応じて「新型コロナ対応としての役割」を終えたと判断される部分についてきめ細かに施策内容を精査しつつ終了の措置を講じたことは、ひたすら緩和的であれば正義であるかのような金融政策運営とは一線を画す、極めて理性的かつ優れた対応であると言えるだろう。

2極化する世界経済。日銀の今後の政策対応にも期待

世界に再び目を転じると、2022年はいわゆる経済復興速度における「K字」が国家間でも問題となってくる可能性が高い。

順調に経済が回復を続けインフレ対応のため利上げを進める先進国と、ワクチン普及も遅れ経済の回復が先進国のように進まず引き続き緩和的な金融政策対応を続けたい途上国との間での緊張も予想される。途上国としては為替レートなどに大きな影響を与える米国の利上げなどから自由な政策決定ができないのは言うまでもなく、国内経済と為替との間での政策の板挟みが生じる。

そうした中で、日本はインフレや米国の利上げの影響を受けにくいことから、是々非々での政策対応が可能な、政策当局としては極めて動きやすい環境にあると言える。もちろん日本も米国の金融政策運営の影響は受けるが、その程度は途上国に比べれば軽微であり、また円売りは過度でなければ円安方向に働くためむしろ望ましいとさえ言える。

本丸の物価目標達成ないしは物価目標そのものの見直しの必要性も視野に、日銀には是々非々での政策対応を進めていくことが期待されよう。