いつか介護を必要とするようになったら、このまま自宅で「在宅介護」か、あるいは施設に入って「施設介護」か、と思案する人は多いと思います。心身の状態に加え、人それぞれの生き方や考え方、家族構成などにもよるので正解はありません。正解がないからこそ、どう選択するかが難しく、頭を抱えがちです。

今回のコラムでは、それぞれのメリットとデメリット、そして移行のタイミングについて考えてみましょう。

在宅介護のメリット・デメリット

筆者はこれまで多くのシニアの声を聞いてきましたが、「介護が必要になっても、自宅に住み続けたい」という人たちの方が多いように思います。国の調査を見ても、「自宅で介護を受けたい人」は73.5%と高い割合となっています(平成30年版高齢社会白書)。

理由を聞くと、「誰にも気兼ねせず、自由に暮らせる」「愛着のある家や家具に囲まれて、くつろげる」「理由なんてない。ずっとここで暮らしてきたのだから、わが家がいい!」など様々です。

これらの声にあるように、在宅のメリットを端的に表すと、「これまで通り、自分らしく暮らせる」ということでしょう。

しかし、本当にこれまで通りに暮らせるのでしょうか。

例えば、足腰が不自由になると、階段の昇降は負担になることがあります。階段を使わないとしても、ちょっとの段差で転倒してケガをすることも。実際、高齢者の事故は年々増加していますが、事故の発生場所で最も多いのは住宅内なのです。

お風呂に入るにも、トイレに行くにも、一般の家は介護されることを前提に設計されていないので、リフォームでもしない限り不自由が生じます。それに、自分で買い物に行けなくなったり、食事の用意をできなくなったりしたらどうするかという問題も生じます。

介護保険などの居宅サービスを利用することである程度は解決しますが、サービスを駆使しても、ホームヘルパーが自宅にいてくれるのはごく限られた時間です。

サービスを利用していない時間帯については、家族がケアを担うのが一般的です。このことがまさにデメリットと言えます。高齢の夫婦暮らしだったりすると、老々介護となり、共倒れを招きかねません。子どもが介護を担うとなれば介護離職などの問題が生じます。

施設介護のメリット・デメリット

では、施設介護のメリットとデメリットには、どのようなことが考えられるでしょうか。

もうお気づきの方も多いと思いますが、施設介護のそれは、在宅介護の真逆だと言えます。 建物全体がバリアフリーになっており、屋内での危険はかなり軽減されます。もともと介護することを前提に設計されており特に水回りなどは広々としています。しかも介護型の施設であれば、24時間体制でケアされるので、家族の共倒れを心配する必要もありません。

ただし、自宅から移り住むこととなるので、環境は激変します。なかには、馴染めず「家に帰りたい」と言い続ける入居者もいます。「認知症が進行してしまった」という声を聞くこともあります。個室であっても、集団生活なので、他の入居者への気兼ねもあるでしょう。

ただ、他の入居者に気兼ねすることが必ずしも悪いこととは言えません。自宅で1人でいるよりも、多少気兼ねをしても他人との関わりが刺激となったり、楽しみとなったりすることもあります。

在宅での家事負担についても、「誰もやってくれないから、簡単な食事を自分で用意する」ことになり、結果として寝たきり予防につながることも。不自由ながらも自立して生きることにつながるケースもあります。

施設介護に移行するタイミングとは

結局、メリットとデメリットは表裏一体の関係だということです。よく「隣の芝生は青く見える」と言いますが、介護の場所でも、他人の環境はよく見えるものです。けれども、実際には良い点、悪い点が混在しています。

冒頭で述べたように「介護が必要になっても、自宅に住み続けたい」という人が多いのですが、彼らの言葉には続きがあります。「どうしようもなくなったら施設に入る」というものです。

では、この「どうしようもなくなったら」とは、どのような状況を指すのでしょうか。実は、どうしようもなくなった頃には既に本人の判断力は低下しているケースが多いのです。そうすると施設を決める主導権は、通常本人から「子」などの家族に移ります。

施設介護に移行するタイミングで多いのは…
(1)本人が1人でトイレにいけなくなった
(2)火の始末に不安が生じてきた
(3)食事をとらない、転倒するなど、生活に支障が生じてきた
(4)介護を担う家族が共倒れしそう
(5)「要介護4」になった(寝たきりに近い)

筆者は子の立場の人から「どう説得すれば、親は施設に入りますか」という相談を度々受けます。なかには、どうしても納得してもらえず「だまし討ち」のようなかたちで親を入居させたと話す人もいます。彼らは、「親不孝なことをした」と自責の念に苦しめられています。本人にとっても、「施設に入れられた」と思うのは悲しいことです。

本人も、家族もそのときに慌てたり、悲しい思いをしたりすることは、できるだけ避けたいものです。そこで、元気なうちから「もし、介護の必要度合いが進んだらどうするか」について、家族間で話し合っておくことをお勧めします。

話し合うポイント:
(1)どうなったら施設に移るか(移らないのか)
(2)(1)の場合は、どのような施設か(移らないなら、誰がケアするのか)
(3)(2)のための費用をどうするか

あまり考えたくないテーマかもしれません。けれども自分の気持ちを整理して伝えておけば、家族はできるだけその意思を尊重しようとしてくれると思います。最期まで自分らしく生きていくために、ぜひともしっかり考え、話し合っておきたいものです。

【図表】在宅介護と施設介護のメリット・デメリット
〇メリット ×デメリット △どちらとも言えない(必ずしも「×」が悪いとは限りません)
出所:筆者作成
注:施設には介護型と住宅型があります。この表は介護型施設に入ったと想定。