「ダブルケア」という言葉を聞いたことがある人の割合は2割

親の介護と育児が重なる状態をダブルケアと言い、ダブルケアを行う人をダブルケアラーと言います。ソニー生命保険株式会社が大学生以下の子どもを持つ30歳~59歳の男女に調査した「ダブルケアに関する調査2024」によると、「ダブルケア」という言葉を聞いたことがある人の割合は20.2%でした。

今回は、ダブルケアラーが増えている原因や抱えている悩み、その解決方法についてご紹介します。

ダブルケアラーが増えている原因は?

厚生労働省が2023年に調査した「人口動態統計月報年計」によると、平均初婚年齢の年次推移は、1995年は夫28.5歳、妻26.3歳、2022年は夫31.1歳、妻29.7歳でした。また第1子出生時の母の平均年齢は、1995年は27.5歳、2022年は31歳でした。

この調査結果から、結婚年齢や出産年齢が高くなる晩婚化や晩産化が進んでいることが分かります。それによって、育児が終わらないうちに親の介護も始まってしまう人が増えているのです。

家族のサポートが得られず、ひとりで抱え込むケースも多数

あるダブルケアラーの1日をご紹介します。

朝は食事の用意をしながら、子どもの学校と親のデイサービスの準備をして、両方を送り出します。昼は掃除や洗濯などの家事を済ませ、夕食の下ごしらえをします。夕方は学校から帰ってきた子どもの習い事の準備をし、デイサービスから帰ってきた親を迎えます。夜は夕食の用意と後片付けを済ませて、明日の準備を終えてから就寝です。そしてまた、慌ただしい朝を迎えます。

このように育児と介護の両方を担うダブルケアラーは、心身ともに負担が大きく、家族の協力が欠かせません。しかし、家族は仕事が忙しいことから、十分なサポートが得られず、親の介護と育児をひとりで抱えて疲弊する人も多くいます。

できることなら、子どもは保育園や学童保育、親はデイサービスやデイケアなどを利用して、少しでもプロの力を借りるべきです。しかし、待機児童が多い地域では保育園や学童保育に預けられなかったり、親がデイサービスの利用を拒んだり、といった理由から、思うようにプロの力を借りられないケースもあります。

時間とお金が足りず、どちらを優先するか悩むダブルケアラー

また、親の介護と育児のどちらを優先するかで悩むダブルケアラーもいます。本来は親の介護も育児も大切なので、優先順位をつけられるものではありません。しかし、ケアする時間が不足すると、どちらかを犠牲にしなければならないことも多く、罪悪感で悩む人もいます。

お金の面でも、将来のある子どものためにお金を使いたいと思う一方で、親が急に病気になったり、倒れてしまったりしたら、親の病院代を優先せざるを得ないケースも考えられます。常に親子を天秤にかけて判断しないといけない点もダブルケアの難しさです。

私自身は祖母と母、妻と母など、2人を同時に介護していた時期があり、広義の意味ではダブルケアラーでした。親子のダブルケアではありませんが、お金や時間の優先順位をどうするかで悩んだ経験があります。

「将来の予定が見える育児」と「将来の予定が見えない介護」

私の妹は、ダブルケアラーでした。認知症の母の介護が始まったとき、妹には2人の小学生の子どもがいましたが、きょうだいで助け合いながら乗り越えたので、その事例をご紹介します。

母の通院や介護、デイサービスの利用など介護保険サービスの体制づくり、ケアマネジャーとやりとりをする家族側の窓口は、子どもがいない兄の私が中心に行いました。

妹は育児で忙しい状況でしたが、余裕があるときは母の介護のサポートをお願いすることで、親の介護と育児の両立を実現しました。母の介護はもうすぐ12年になりますが、小学生だった子どもたちは社会人と大学生になり、親の手を離れました。育児が終わったあと、妹の介護の参加率は以前より高くなりました。

きょうだいがいる場合は、育児が大変な時期は育児に専念してもらい、子どもが成長したら介護の分担を見直すなど、時期によって役割を変えていけば乗り越えやすいでしょう。

育児は、「保育園の送り迎えがあと1年続く」「2年後に中学校の入学があってお金がかかる」など、ある程度将来の予定が分かり、準備できます。しかし、介護はいつまで続くか分からず、将来の予定が立てられない難しさがあります。

ダブルケアラーが頼れる相談先「ダブルケアカフェ」とは

親の介護も育児も大切ですが、最も大切なのはダブルケアをする自分自身です。自分が倒れてしまったら、親の介護や育児を担う人がいなくなってしまいます。介護や育児はプロの力や家族の協力を得て、任せられるところは任せ、精神的にも体力的にも余力を残しておくことが大切です。

ダブルケアラーの相談先としては、親の介護は地域包括支援センター、育児は子ども家庭センターに行くと、専門職の方が相談に応じてくれます。ただし、ダブルケアの相談にワンストップで対応してくれる自治体は、まだ少ない状況です。

同じような境遇の人と話してみたいという方は、ダブルケアラー経験者が集まって親の介護や育児の悩みを共有する「ダブルケアカフェ」もおすすめです。ダブルケアラー経験者が中心となって地域ごとに開催されているほか、時間のない人のためにオンラインで開催しているところもあります。こうした場を積極的に活用し、悩みをひとりで抱え込まないようにしましょう。