米雇用統計の動向が米ドル/円に与える影響

先週6月5日に発表された5月の米雇用統計で非農業部門雇用者数(NFP)の伸びが前月比55.9万人増と、事前予想の67.5万人増を下回りました。そのことから、発表後に米ドルは一気に値を下げる展開となっています。

前日6月3日に発表された5月のADP雇用統計や新規失業保険申請件数がなまじ強めの結果であったことに加えて、「前月比」の値が前回4月の弱めの結果(上方修正後27.8万人増)に対する反動で少々高めに出てもおかしくはないとの見方が、事前予想をやや強めにした可能性がありそうです。

とはいえ、4月に雇用者数の増加を抑える一因となった「手厚すぎる失業保険の上乗せ給付」はいまだに続けられていますし、育児や健康の問題などもあって求職活動の開始を見送っている向きが少なくないこともよく知られたところです。

その意味からすれば、今回の結果は十分に評価できるものです。また、事前予想との差が11.6万人に過ぎないことからして、それで大きな流れが一気に変わるということもないはずです。よって、今後も基本的に米ドル/円の底堅さには変わりがないものと思われます。

今回は、発表前に「米雇用統計の内容次第で6月15-16日に控える米連邦公開市場委員会(FOMC)において早期の出口戦略に向けた何らかのヒントが示される可能性もある」との見方が市場にあったことから、米ドルショートへ傾けることに慎重にならざるを得ないムードというものもありました。その結果、米ドル/円は一時110.33円処まで大きく上値を伸ばす場面もあり、最終的にはその反動が生じることとなりました。

結局、6月4日の米ドル/円は指標発表後に一時109.36円まで急落することとなりましたが、その位置には一目均衡表(日足)の基準線があることから、目下は同水準で下値を支えられている格好です。

その少し下方には21日移動平均線も位置しており、これらの節目が当面の米ドル/円の下値をサポートする可能性が高いと見ています。もちろん、FOMCを控えて、しばらくは方向感が見出しにくいもみ合いの展開を続ける可能性もあるとは思われますが、少し長い目で見れば、いずれ再び110円台にしっかりと乗せた後に3月高値=110.97円処を再び試しに行く可能性も十分にあると見ています。

【図表】米ドル/円(日足)2021年1月~
出所:筆者作成

ユーロ/米ドルの値動き

一方、米雇用統計の発表後にユーロ/米ドルは急激に値を戻す動きを見せました。ただ、それは先週6月3日に急落する前の水準まで値を戻しただけであるとも言え、それだけで「5月18日以降に形成した転換保ち合いのフォーメンションを下放れた」との印象があっさり覆されるわけではないと思われます。

今週6月10日にはECB(欧州中央銀行)理事会が控えており、今回は「大幅な政策転換を示すことはまずない」というのが大方の見方です。ラガルド総裁をはじめとするECB理事会メンバーらは、いましばらくハト派的な姿勢を堅持すると考えられ、目先的には市場に若干の失望感が漂う可能性もあると思われます。

このところのユーロ/米ドルは、おおよそ1.2160ドル処の節目(前述した転換保ち合いのネックライン)を軸に1.2060-1.2260ドルのレンジ内での動きに終始してしきました。週明け以降、改めて1.2160ドル処を下抜ける動きとなれば、そこから一旦は1.2060ドル処を試しに行く展開となる可能性もあると見ています。

なお、今週6月8日には4月の「米求人・労働異動調査(=JOLTS)」の結果が米労働省から発表されます。ここにきて同指標が再び注目を浴び始めているのは、足元で米企業の求人が過去最高レベルに達してきているからです。そして、それは数ヶ月内にも米雇用者数が急増する可能性があることを示唆するものであると認識しておきたいところです。