揺れる市場の動き
「そもそも事前の市場予想自体が極めて的外れなものであった」というのが、4月の米雇用統計や米消費者物価指数(CPI)の結果に対する率直な感想であり、そこには一定の投資成果を上げるチャンスが潜んでいたと考えることもできるでしょう。ポイントは「市場予想を疑う」ことであり、実際に「米雇用統計の発表前に米ドル/円を売り、米CPIの発表前に米ドル/円を買って成果を上げた」という向きも少なかったものと思われます。
4月の米雇用統計における非農業部門雇用者数(NFP)の伸びについては、以前から季節調整の影響や手厚過ぎる失業手当などの特殊要因によって、かなり控えめな結果となる可能性が指摘されていました。よって、今回の結果にネガティブな要素はなかったと考えられるわけですが、発表後の市場の反応はやけに“素直な”ものとなりました。
また、米CPIについては大幅に低下した2020年実績の「ベース効果」を考えれば、想定以上に強い内容になってもおかしくないとの指摘が以前からありました。結果は前年比+4.2%という高水準でしたが、取り立てて「サプライズ」と騒ぐほどのものではなかったように思います。ところが、発表後の市場では一気にインフレ懸念が強まって、米国債利回りが急上昇する一方で日米の株価は大きく値を下げるという一幕がありました。
パンデミックによる強烈な落ち込みとワクチン拡大に伴う急ピッチの経済再開という過去1年の状況変化を考えれば、市場の事前予想が少々「的外れ」なものとなるのも無理からぬところです。予想とかけ離れた結果を受けて、アルゴリズム取引を含めた少なからぬ参加者が一旦「サプライズ」の反応を示すのも道理と言えます。
ならば、ここは予想が疑わしいものかどうかを適切に判断すべく、その背後に控える経済の「実態」を常にベースとして把握しておくことが何より重要ということになるでしょう。
テーパリングの動向に注目
今、足元で米景気が着実に回復軌道を辿っていることは疑いのない事実です。それに伴ってインフレ懸念がじわじわと高まり続けるのも当然のことです。先週5月13日、米疾病対策センター(CDC)はワクチンの接種を完了すれば、屋内外を問わず、マスクを着用しなくてもいいとする新たな指針を発表しました。
このような状況にあって、もはやコロナ禍への緊急対応として実施された超緩和的な金融政策を維持し続けることにはかなりの無理があります。事ここに及んでは、足元の物価上昇が「一過性のものかどうか」を云々するよりも、近い将来において始まる可能性が極めて高いテーパリングに思いを巡らせることの方がよほど現実的であると言えるでしょう。
市場では、米連邦準備制度(FRB)がテーパリングの開始に関わる議論を始めるとアナウンスするのは「8月下旬あたり」と見る向きが増えているようです。日々の相場は、これを織り込み始めることでしょうし、そうなれば米ドルは基本的に売り込みにくいということになります。このところはユーロ圏でもワクチン接種が加速し始めており、ユーロの下値も限られると見られますが、ユーロ圏より米国の経済再開ペースの方がはるかに速いことも事実です。
折からの国際商品価格の上昇によって、豪ドルや英ポンドなどの資源国通貨も対円では堅調に推移しており、総じてクロス円が強気で推移するなか、当面は米ドル/円の下値も限られるものと考えられます。
おそらく、3月末からの米ドル/円の調整は4月下旬の一時108円割れで終了した可能性が高いと見ていいでしょう。目先は109.70~80円処が上値を押さえる格好となっていますが、同水準を明確に上抜ければ、あらためて111円手前の直近高値を意識した動きになっていくと見ています。