ユーロ/米ドルが一時強気の展開
先週12月1日、ユーロ/米ドルが再び1.20ドル台に乗せ、週末12月4日には一時1.2177ドルまで上値を伸ばす強気の展開となりました。
市場では、欧州復興基金の年明けからの始動を可能にするため、従来計画の代替案が準備されつつあるとの声が聞かれています。そのうえ、英国と欧州連合(EU)間の通商交渉が近く合意に至るとの期待も高まっており、それらがユーロの買い材料と捉えられている部分もあるようです。
ただ、実際には「比較的値動きのいいものについた」あるいは「比較的動かしやすいものを動かした」という、言わば投機の結果によるところの方が大きいのではないでしょうか。そこに「リスク選好のドル売り」という要素が加わったものと見るのが正解のように思われてなりません。
なにしろ、ユーロ圏の中心であるドイツではロックダウンの期間が12月20日まで延長されたうえ、規制の内容も一層強化されています。その経済的なダメージは相当なものになると危惧されますし、だからこそ欧州中央銀行(ECB)も緩和姿勢を一層強化する方針を掲げ続けているわけです。
また、執筆時点では英国・EU間の通商交渉について「近く合意に至る可能性が後退した」と報道されており、なおも予断を許さない状況にあります。
なお、先週末12月4日に11月の米雇用統計が発表された後は、米株価が全般的に強気で推移しました。にもかかわらず、ユーロが対ドルで売られる展開となり、一時的にも「リスク選好のドル売り」が鳴りを潜めることとなりました。
強気トレンドがなおも継続する?
ただ、それは1.20ドル処を上抜けてからのユーロ/米ドルの上昇が少々過熱気味であったことや、11月初旬から形成していた上昇チャネルの上辺水準に達したことが要因と言えそうです。さらに今週12月10日に予定される欧州中央銀行(ECB)理事会を前にポジション調整の動きが出たこと、なども主な要因と考えられます。
つまり、ユーロ/米ドルの強気トレンドがなおも継続する可能性は残されているということです。
「リスクオンでドル売り」に持続性があるのか
ここで肝心と思われるのは、「そもそも「米株高でリスクオンはドル売り」などという条件反射的な市場の行動パターンに、一体どれほどの持続性があるのか」ということです。
市場からは「米実質金利が低いから米ドルは買えない」との声も聞かれます。しかし、実際のところ米実質金利が低いのは、期待インフレ率が高いからに他なりません。期待インフレ率が高いということは、それだけ米国経済に強い底力が備わっているということです。それでも政策的に名目金利が抑えられ気味になっているために、実質金利は低く出るわけです。
また、市場の一部には「米民主党が政権を握るとドル安が進みやすい」などという見方もあるようですが、過去の歴史を紐解くと実はそのような事実はありません。むしろ、民主党大統領であろうと共和党大統領であろうと、いずれも就任1年目は「ドル高傾向が強まりやすくなる」ということが歴史的な事実として明らかになっています。
相場変動パターンが一気に変化する可能性も
12月4日に発表された11月の米雇用統計の結果が弱めの内容であったにもかかわらず、市場が全体にリスクオンのムードに包まれたのは、むしろ追加経済対策の実施決定が前倒しになるとの期待が高まったためです。
もちろん、今週から段階的に新型コロナワクチンの提供もスタートし、ほどなく一定の効果が認められるようになるかも知れません。そうなると、相場変動のパターンがこれまでとはガラリと違うものに変化する可能性も十分にあると思われます。
その実、12月4日の米10年債利回りは一時0.98%まで上昇しており、いよいよ1.0%台が視野に入り始めてきています。その結果、米ドル売り一辺倒の流れが一巡して一気に買い戻しの動きが強まる可能性もあります。そのため、一応はそうした局面と向き合う心積もりも始めておきたいと個人的には考えています。