前回のアップデート

前回の記事ではニトリホールディングス(9843)がホームセンター大手の島忠(8184)の公開買付に参戦した話題について取り上げました。ニトリが提示した公開買付価格5,500円はインパクトがあり、島忠の株価はその後、10月30日には5,650円をつけています。現在、4,200円で公開買付を行っているホームセンター「ホーマック」「カーマ」「ダイキ」などを運営するDCMホールディングス(3050)あるいは他のホームセンターなどが対抗することへの期待感から島忠の株価が5,500円より高くなったようです。

ただ、11月3日の休み明け以降は一時5,500円を割るなど、「ニトリの公開買付で決まり」といった見方を反映したような動きが見られます。当初4,200円だった公開買付価格が大きく上がった背景にはアクティビストの動きがあったことや、公開買付の場合に公開買付の申込期間中は公開買付価格近辺で取引所での売却を急ぐ必要がないことを改めてご記憶いただければ幸いです。(詳細については前回の記事10月23日付の記事をご覧ください)

株主優待の見直しを迫られている企業

さて、10月27日付の記事ではコロナ禍で株主優待の見直しを迫られている企業が増えているという話をしました。株主優待はその性格上、個人向けの小売業や広義のサービス業は実施しやすく、飲食・レジャー・航空・鉄道・観光業などはその代表格と言える存在です。しかし今は、それらの業界が厳しい状況にあるため、株主優待の見直しは今後も続く可能性があります。そこで今回は、すかいらーくホールディングス(3197)を例に、株主優待において個人投資家が注意して見ておくべきポイントをお伝えしたいと思います。

魅力的な株主優待が会社にとっては負担に

すかいらーくは「株主優待が充実している会社」として知られ、850,000円の投資で年間33,000円分の食事券を贈呈するかなり高水準の優待を実施し、優待券の発行総額は年間100億円近い水準に達していました。すかいらーくは2006年に経営陣が会社の株をすべて買い取って上場を廃止するMBOを実施し、2014年に再上場した会社です。再上場後の営業利益は概ね200億円から300億円程度ですので、年間100億円近い株主優待の負担が小さくはないことをお分かりいただけるかと思います。

株式保有金額に対し、付与される優待の金額が大きいため、株主にとってはとても魅力的な株主優待ですが、会社にとっては負担が小さくなかったように思います。飲食業の株主優待では、その他のクーポンとの併用を認めないもの、1回あたりの利用額の上限を設けるもの、割引券形式のもの(客単価に対し、優待額が小さいため実質的に割引にしかならないものも)など条件が厳しいものも少なくありません。しかし、すかいらーくの優待はクーポン併用が可能で支払い方法の制約も1回あたりの利用上限もなく、株主にとって条件がかなり良いものでした。

実は、2014年の再上場当初、すかいらーくの優待はそれほど大盤振る舞いではありませんでした。当時の優待は、全単元株主に対し、年1回2,000円の食事券というもので、株価と同水準だったことを考慮するとそれほど高い水準ではなかったと言えます。

この状況が大きく変わったのが2016年2月です。300株未満の保有者に対しては年2,000円と同水準でしたが、300株なら年6,500円、500株なら11,000円とより多く株を持てば優待額が大きくなるように変更されました。そして、すかいらーくの株主優待はマネー誌などでも大きく取り上げられるようになりました。

2017年2月にはさらに優待を拡充させ、300株未満でも年2,000円→年6,000円、300株なら年6,500円→20,000円、500株なら年11,000円→33,000円に増額されたのです。500株の場合、2015年までは年2,000円だったので、実に15倍以上に増えたことになります。2015年末に約9万人だったすかいらーくの個人株主は、2016年末に約11.5万人、2017年末には36.8万人と急増しました。

株主優待の拡充の背景

一方、2017年2月の優待拡充発表の1ヶ月後、すかいらーくは親会社であるファンドが保有株を売却することを発表します。ファンドは合算で約44%保有していた株式の1/4程度を売却し、その後も売却し続け、2017年中にはすべての保有株を売却しました。これらの株主優待の拡充はその売却のため、買い手を増やすことも大きな目的であったと言えそうです。なお、すかいらーくは2018年以降も積極的と言える株主優待を続けていましたが、ついに10月27日付の記事に書いたような見直しに至ったということになります。

業績が悪化したときには注意が必要

最初に書いたように個人向けの会社は顧客層を増やすことや、相対的にコストが小さいことから株主優待を実施しやすくなっています。たとえば、10,000円の株主優待券を発行したとして、すべてが使われるわけではないでしょうし、追加的な売上となるのであれば、実質的なコストはその売上への直接的なコストのみとなり、小さくなります。一方、あまりに条件がよく、金額も大きいと本来の売上がその優待への売上に切り替わるだけとなってしまい、会社からすると現金を還元しているのとあまり変わらなくなります。もちろん、儲かっている会社であれば継続可能ですが、業績が悪化したときには注意が必要になることをすかいらーくの事例は示していると言えるでしょう。