「Go To トラベル」の盛り上がりに見える観光業界の苦境

2020年10月1日から政府の「Go Toキャンペーン」のうち、旅行代金を補助するという「Go Toトラベル」に東京都発着の旅行が加えられ、2月頃からの旅行業界の苦境は若干改善するような動きが進んでいるようです。10月上旬には楽天トラベルや、じゃらんなど一部の大手旅行予約サイトで当該キャンペーンの予算が底をつき割引額を縮小するというような話がありました。(その後、政府は割引額に差がでないよう当該予算を追加する方針を明らかにしました。)これは少なくとも一部の大手旅行予約サイトに想定を大きく超える申込みが入ったということだと思われます。

Go Toトラベルでは、ツアー・ホテル代金などの旅行費の35%が割り引かれ、かつ15%相当の地域共通クーポンを受け取ることもできます。20,000円のツアーの場合、35%が割り引かれた13,000円を支払い、15%である3,000円分の地域共通クーポンを受け取れるということです。地域共通クーポンは、お土産店やコンビニエンスストア、観光地、レンタカー店などで利用ができるため、実質的に本来の旅行費の50%が還元されるということになります。

もともと、航空券やホテルの料金自体も値下がっているので、非常に安い価格で旅行ができるということです。これに加え、全国各地の自治体で独自に行っている旅行補助もあり、それらを併用してさらに安く旅行する方法もあるそうです。3,400円くらいのホテルであれば35%割引かれた2,210円で宿泊できる上、地域共通クーポンが(3,400円×15%=510円となりますが、500円以上1000円未満の場合には1,000円に切り上げされるため)1,000円もらえてさらにお得になるなど、いろいろと盛り上がっているようです。

ウェブサイト上に現在、問い合わせが多い旨を掲載している旅行会社もあり、これだけの補助があれば現在の環境下でも一定程度旅行は盛り上がりうるということでしょう。逆に言うと、これだけの補助がないと厳しいくらい観光業界は追い込まれているとも言えます。

厳しさを物語る観光関連の業績開示

実際、観光関連の業績開示では厳しい内容が見られます。ホテル運営J-REITのジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)の8月のホテル稼働率は32.3%で前年8月の88.6%から急減しています。同REITでは変動賃料(ホテルの運営実績によりREITの受け取る賃料が変動する)を導入している24のホテルのうち、5月には16のホテルが休業しており宿泊者数は前年比15.1%にとどまっていたとのことです。

少しずつ持ち直してきてはいるものの、非常に厳しい状況が続いています。ANAホールディングス(9202)は国内線の旅客数が5月には前年比94%減、6月でも80%減でした。東海道新幹線は1Q(4月-6月)の利用実績が前年比16%、2Q(7月-9月)でも前年比32%でした。10月は14日までで前年比44%と持ち直しの動きが見られており、Go Toキャンペーンの効果もあったのではないかと思われます。ただ、逆に言うと、それでも44%ということです。東海道新幹線は2018年も2019年も前年比100%を超える水準が継続していたことを考えると、厳しい数字ということに違いはないでしょう。

ホテル運営J-REITの気になる動き

やや現状説明が長くなりましたが、Go Toキャンペーンのようなかなり大掛かりな対策を打たねばならないほど、観光業界がダメージを受けていることはご理解いただけるかと思います。そうしたなか、上記のように経営の厳しいホテル運営J-REITでは気になる動きが出ています。

先述のジャパン・ホテル・リート投資法人(JHR)は2020年8月に業績予想を開示し、2020年(1月-12月)の業績が2020年2月時点で開示していたものに比べると売上高で56.2%、分配金で96.6%減少するとしています。その開示に合わせ、JHRはJHRの最大の賃借人であるホテル運営者から賃料見直しの要請を受け、2020年2月以降の固定賃料を免除することを発表しています。

固定賃料は期初予想の95.3億円が7.9億円になり、ホテル業界の現状を考えると変動賃料で賄うことも見込めないことから、大幅な減収になるというわけです。運営者のコストカットは将来的に変動賃料として受取り、固定賃料減免分を回収していける見通しを立てていますが、投資主にとって影響の大きい変更であると言えます。そして、このホテル運営者はJHRの運用会社の株式の過半を保有するスポンサーの完全子会社で、スポンサー関係者なのです。

冒頭お伝えした通り、2020年の観光市場が非常に厳しい状況にあることは明らかです。その状況下で、ホテルという資産の性格上、貸出先であるホテル運営者の変更は容易ではないでしょう。また、JHRは当然、利益相反に留意しており、スポンサーからの出向者がおらず、取締役会もスポンサー関係者以外の常勤役員が半数を占めています。スポンサー関係者との取引は、意思決定プロセスも決まっており、拒否権を持つ外部専門家を含む委員会に諮った上でスポンサー関係者以外のJHR役員会で定めるとのことです。

ですので、今回もそのように決まったということでしょう。ただ、以前の記事でお伝えした日本ビルファンドの場合もそうですが、スポンサーとの関係が深く、そこに利害関係が生まれるとなると本来の受益者であるJHRの投資主の利益が優先されているか疑問になるところでしょう。このような取引は他のホテル系J-REITでも行われています。

島忠TOBに見られるアクティビストの力

直近で実施されている島忠(8184)の公開買付では会社側が賛同した公開買付に対し、ニトリホールディングス(9843)が対抗しそうとの報道が出ており、もともとの公開買付価格を上回る株価で島忠株が取引されています。会社側の賛同プロセスは第3者を介し、大きな問題があったわけではないと思われるので、島忠に投資していたアクティビストが声をあげたことがこのような動きにつながっていると言えそうです。これは結果的にアクティビストが既存株主の利益代弁者になったわけですが、このような形での牽制があることが個人投資家の利益につながる、という考え方に留意しておいてもいいように思います。