前回の記事では、今回すかいらーくホールディングス(3197)の株主優待についてお伝えすると予告していましたが、島忠(8184)の公開買付に動きがありましたので、今回はそちらについてご説明したいと思います。

10月29日、ニトリホールディングス(9843)は島忠に対し、株式の公開買付(TOB)を行う予定であると発表いたしました。公開買付価格は5,500円と現在進行中のDCMホールディングス(3050)の公開買付価格4,200円を大きく上回るものです。買付上限を設定していないため、ニトリは一定数の応募があった場合、島忠株をすべて買い付けることになります。また、買付下限を設けていますが、基本的に下限の申込がないのはニトリの条件を上回る条件が出てきた場合(つまり、5,500円より高く買い付けられる場合)なので、「少なくとも株価は5,500円程度までは買われる」と考えてよいでしょう。(公開買付の条件とその対応方法については以前の記事をご参照ください。)

ニトリが出したTOBの「前提条件」とは

今回の公開買付で注目したいのは、ニトリが公開買付を行なう「予定」としていることです。ニトリは3つの「前提条件」が満たされた場合に公開買付を行うとしているため、「確定」ではないということです。その「前提条件」のポイントは(1)法令上の問題がない(2)島忠の財政状態に重大な悪影響を与える事由が生じていない(3)DCMの公開買付が成立していないことです。(1)は独占禁止法等の観点で一般的なものかと思われます。注目したいのは、(2)と(3)です。

島忠は既にDCMの公開買付(公開買付価格4,200円)に賛同する意向を表明しています。株主利益からすると、これより1,300円も高い価格で買い付けてくれるニトリの条件がよいのは間違いないですが、島忠がニトリの公開買付に賛同するとは限りません(10月29日時点ではまだ意向を表明していません)。

一旦、島忠がDCMの買付に賛同していたこともあり、ニトリの島忠買収は会社の賛同を得られない「敵対的」な公開買付になる可能性があります。その際、島忠がニトリの公開買付への対抗措置として保有資産の売却などを行うことも考えられます。重要な資産を売却し、「敵対的」な買付者にとって魅力のない会社にしようとすることは公開買付への対抗措置として一般的なものです。

今回、ニトリは「島忠の首都圏の物件に魅力を感じている」ということですので、それを売却することは「対抗措置」になり得るでしょう。(2)の条件はこのような場合に備えたものだと思われます。

(3)の「DCMの公開買付が成立していないこと」については、DCMの公開買付の成立条件が島忠株の過半数の取得であり、もし成立した場合はニトリの公開買付の条件である過半数取得は不可能になるのですが、「DCMがニトリの公開買付に応募すること」や「DCMが公開買付の条件を変更する可能性」などを鑑みて、念のために入れている条件かと思われます。

島忠はニトリに賛同するのか

重要なのは、「島忠がニトリに賛同するかどうか」でしょう。ニトリは家具店ではありますが、品揃えの実態はホームセンターに近く、一定のシナジーはありそうです。また、ニトリは時価総額で日本の小売業第3位の会社です(1位はファーストリテイリング(9983)、2位はセブン&アイ・ホールディングス(3382)です)。DCMも時価総額2000億円という大規模なホームセンターですが、ニトリの時価総額はその10倍です。もちろんニトリは業績を見ても一流企業としか言いようがありません。これらを考えるとファンドなどの公開買付と違って、買付者の買付目的や素性などを理由に反対することは難しいのではないかと思われます。

そうすると、島忠が現在の価格条件でDCM案に賛同し、ニトリ案に反対するというのは、さすがに無理筋でしょう。島忠の経営陣はDCMの公開買付に賛同し、経営統合の方針を固めているので理想を言えばDCMに価格を引き上げてほしいところだと思います。しかし、ニトリの条件ですと島忠買収の金額は1.3倍になり、DCMは現状より500億円余分に必要になります。これはDCMの過去4年間の純利益に相当する金額で、なかなか厳しそうです。

資金力で上回るニトリが条件を引き上げる可能性もあり得るため、DCMの対抗は難しいように見えます。まとめると、ニトリの公開買付に対抗者は現れず、島忠も賛同せざるを得ないのではないかと思います。リスクシナリオがあるとすれば、DCMがニトリの買付価格近辺まで買付価格を引き上げて、それに島忠が賛同し5,500円以下でDCMの公開買付が成立することかと思いますが、その線も薄そうです。

公開買付の際、「取引所で早々に売却すること」は禁物

いずれにせよ、公開買付の際は取引所で早々に売却することは禁物です。今回の場合でもDCMの公開買付発表後に4,200円近辺で売却した人は結果的にそこから3割値上がりして売却できる機会を失ってしまいました。DCMの公開買付期間は「11月16日まで」です。島忠の株主はその日までに公開買付に申し込めばDCMは4,200円で買ってくれるので、少なくとも11月上旬までは取引所で4,200円近辺で売る必要はないと言えます。(「公開買付の際、取引所での売却を急ぐことはない」理由については以前の記事で詳しく説明しています。)

今回、ニトリは公開買付期間など具体的な情報を出していませんが、同様に注意していただけたらと思います。