英国・EUのFTA交渉の難航による相場への影響
英国と欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)妥結を巡る交渉が、まさにチキンレースの様相を呈してきました。先週10月16日、ジョンソン英首相は「FTAなしの結果に備える必要がある」と述べましたが、それ以前からマクロン仏大統領などは同様の発言を繰り返しています。
FTAの発効を年明け初めに間に合わせるには、遅くとも11月中の合意が欠かせないとされており、もはやタイムリミットは刻々と迫ってきています。
もちろん、最終的には双方が“大人”の対応をすると考えるのが常識的な見方ということになるでしょうし、その点についてはメルケル独首相も「依然として楽観的」、「合意は見出し得る」などと述べています。
実際、先週10月16日の英ポンド/米ドルは、ジョンソン英首相の過激な発言を受けて、一時89日移動平均線が位置する水準まで急落する場面があったものの、最終的には短い陽線で引けることとなり、いまだ市場も「年間1兆ユーロ相当の貿易が危険にさらされる」という最悪の事態までは想定していないようです。
ただ、チキンレースであるだけに、最後の最後にブレーキを踏んでも間に合わず、あえなく谷底へ転落といったアクシデントが生じかねないことも事実です。
万一、交渉が決裂すれば英ポンド/米ドルは2020年3月安値の1.1410ドルをも下抜け、1985年2月につけた過去最安値=1.0520ドルまで下値のメドがつかない状態になると見る向きもあります。
もちろん、最終合意に漕ぎつければ英ポンドは一時的にも急反発となる公算が大きいわけで、いずれにしても当面は英ポンドの動きから目が離せないということになるでしょう。
懸念されるユーロの弱気材料
仮に、対米ドルで英ポンドが急反発となれば、同時にユーロ/米ドルにも一定の上値余地が生じる可能性があると見られます。ただ、少し長い目で俯瞰的に向き合ってみれば、ユーロの弱気材料が少なからず存在しているという事実も見逃せません。
まず、目下のところ、欧州では新型コロナウイルス感染の第2波が猛威を振るっています。結果、再び厳しい行動規制措置に踏み切らざるを得なくなる地域が日増しに増えており、改めて経済的なダメージが拡がる可能性もあるものと憂慮されます。
また、市場では欧州中央銀行(ECB)が12月の定例理事会で追加緩和に踏み切るとの見方も強まってきています。中銀預金金利のマイナスの深堀については、かえってユーロ高を招くとの観点から好ましくないとする向きもあるようですが、コロナ対策の資産購入枠を積み増して、なおかつ購入期限を延長するといった案が有力視されています。
さらに、トルコの債務危機がユーロ圏に飛び火する可能性について懸念する向きもあります。足下では、トルコのエルドアン政権が支援するアゼルバイジャンとアルメニアの民族紛争が再燃し、トルコと欧米との間の関係悪化が懸念されてトルコリラは下落に歯止めが掛からない状態です。
結果、トルコの外貨準備は2019年末から半減(387億ドル)しており、いずれ短期の対外債務=約1700億ドルが焦げ付けば、債権を抱えるスペインやフランスにとって大きなダメージになりかねないというのです。
先週のユーロ/米ドルは、1.18ドル台前半の水準から下落し、一時は1.17ドル処を割り込む場面もありました。同水準を明確に下抜けると、次に89日移動平均線や一目均衡表の日足「雲」下限、直近(9月25日)安値=1.1612ドルなどが意識されやすくなります。それらをさらに下抜けると、2020年6月安値から9月高値までの上げに対する61.8%押し=1.15ドル割れの水準を試す可能性もあると見られます。
米ドル/円は一定レンジ内の動きに
なお、米ドル/円については依然として一定レンジ内での往来に終始する可能性が高いと見られます。具体的には、21日移動平均線が位置する105.40円処を軸とした104.80-106.00円のレンジでの値動きになると想定した上で、小まめに売買する算段で臨みたいと個人的には考えます。