中国の輸入を支える4つの要因
コロナ禍は収束のめどが立っていないにもかかわらず、中国が原油をはじめ、穀物や食肉、鉄鉱石などを記録的に輸入している。
この要因はおおむね以下の4つに分けることができる。これらの多くは今後の不確実性が高く、「爆買い」も一時的なものに留まる可能性がある。
実需の回復
まず第1の要因は、景気回復による実需の回復である。コロナ禍、真っ最中の2020年1~3月期の中国の実質GDP成長率は前年同期比-6.8%と、1992年の統計開始以降初めてのマイナス成長に陥っていた。ところが、7月16日に発表された4~6月期のGDPは同+3.2%と急速な回復を見せている。
政府の財政出動によるインフラ整備や、住宅など民間建設投資の拡大に支えられ、1~7月期の鉄鉱石輸入は1割程度増加し、精錬銅は同3割以上の輸入増となった。
しかし、7月の鉱工業生産指数を見ると、前年同月比+4.8%と前月から横ばい。地方政府を中心としたインフラ整備支出で好調な固定資産投資は+7.9%と、3ヶ月ぶりに1桁増に鈍化。
年末にかけて財政出動が息切れする可能性を示唆しており、関連コモディティの輸入に水を差すことが懸念される状況である。実際に単月で見ると、鉄鉱石、精錬銅とも6月につけた伸び率のピークから鈍化している。
感染症の拡大や自然災害による農畜産物不足
第2に、供給不足の懸念が強い農畜産物の調達である。中国では2019年からアフリカ豚コレラが感染拡大しており、豚肉の供給不足が深刻となっている。通常120万トン程度の輸入量が2019年には200万トンに大幅に拡大し、2020年上期だけで既に300万トン弱を購入している。
しかし、豚肉は国民食の位置づけであることから、自給自足が原則であり自給率の制約(ほぼ100%)があることから、恒常的な輸入拡大は難しい。
また、2020年に入って洪水(国土の6分の1が冠水)や害虫被害(ツマジロクサヨトウなど)に見舞われ、7月までに5,500万トンを超える大豆を購入している。2020年の輸入量は2019年より750万トン多い9,600万トンと、2017年に記録した9,550万トンを上回る見通しだ。
しかしながら、中国農業部が大豆を含む穀物需給の見通しを毎月開示しており、年初予測より約1,350万トンの上方修正となっている。今後の天候や害虫の動向次第ではあるが、恒常的に高い輸入水準を維持する可能性は低いと考えられる。
安値の機会を狙った戦略備蓄の拡充
第3に、安値での調達を狙った備蓄用コモディティがある。原油が代表格であるが、5月以降、史上最高レベルの輸入量を維持している。国内の新車販売が4ヶ月連続で大幅に拡大し、貨物輸送量も5月以降、3ヶ月連続で前年越えとなり、一部用途での需要の回復がその背景にあろう。
しかし、船舶や航空における旅客需要が大きく落ち込んだままの現状を考えると、輸入の一部は政府の戦略備蓄に充てられているとみられる。中国は2006年に最初の石油戦略備蓄基地を完成させた後、約10年かけて計9つの備蓄基地を整備した。合わせて3,325万トンの備蓄容量(2019年純輸入量の約25日分)を保有し、安値の機会を捉えた購入を通じて徐々に備蓄量を拡充してきた。政府備蓄実績は公表されていないが、足元の大規模購入によってほぼいっぱいになりつつあると報じられている。
米制裁への駆け込み需要
第4に、米制裁への駆け込み需要である。スマホやタブレットなどのIT製品に幅広く使われる集積回路(IC)や半導体部品の輸入も拡大している。米国は2019年からファーウェイ及び関連企業への半導体製品の禁輸措置を強化してきており、海外からの調達が可能なうちに買い溜めておこうという発想なのかもしれない。
「爆買い」を支える諸要因を見ると、財政出動の息切れや、食料自給率の壁、戦略備蓄容量の限界、米制裁の更なる強化などが足かせとなる可能性が大きく、足元の「爆買い」は持続しにくいものと思われる。
コラム執筆:李 雪連/丸紅株式会社 丸紅経済研究所 シニア・アナリスト