2020年5月末に年金改正法案が可決され、今後「繰り下げ受給」の上限年齢が75歳に上がるなど、年金受給のルールも、より長寿に備えるよう改正されていきます。その一方で、2020年は新型コロナウイルスの影響で収入が減少しているシニア層の「繰り上げ受給」が増えているという話も聞きます。

年金をお得に受給するには、よく「年金を「繰り下げ受給」すると良い」と聞くことがあると思われます。対して、「繰り上げ受給」にはどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。

特別支給の老齢厚生年金はどうなる?

年金の受給開始年齢は基本的には65歳からです。これは国民年金や厚生年金の基礎部分に関してのことで、厚生年金のような報酬比例部分は65歳からの受給に足並みを揃えられるように、段階的に受給開始年齢を上げています。この65歳以前に受給できる厚生年金を「特別支給の老齢厚生年金」といいます。男性は昭和36年4月1日以前、女性は昭和41年4月1日以前に生まれた人が受給できます。

この特別支給の老齢厚生年金は受給を忘れ、受給開始年齢以降に受給手続きをすると、未受給分をまとめて受け取れます。時効となる5年以内に受け取る必要があります。

受給できる金額は、厚生年金の加入期間と、受け取った報酬額により異なります。平均受給額についてのデータはあまり公開されていませんが、私のところに家計相談に来られる方のお話では男性の場合は10万円前後、女性の場合は5〜6万円前後というケースが多いように感じます。

受給できる資格は厚生年金の加入期間が1年以上あり、老齢基礎年金の受給資格期間10年を満たしていることです。生活費に足りる年金額ではありませんが、十分に生活に役立つ金額だと思います。

繰り上げ受給のメリット

特別支給の老齢厚生年金が受給できない、受給しても生活費が不足するという場合、または健康上の不安から、年金をあまり受け取らないうちに他界するのではないかと考え、繰り上げ受給をする人もいます。

確かに現状では繰り下げ受給をするより繰り上げ受給をする人の方が多く、その理由の多くが「生活費不足」「健康不安」です。早く受け取る方がお得であると考える人もいるようです。ここ最近では新型コロナウイルスの影響で収入が減ったり、働く場所がなくなってしまったりすることにより繰り上げ受給を検討する人が増えていると聞きます。

定年による無収入、再雇用など継続雇用による収入減をカバーし、生活を維持するために使われることが多いのです。ここが「繰り上げ受給」のメリットです。

意外に多いデメリット

では、デメリットは何でしょうか。まず第1に年金額の減額です。繰り上げ受給では、1ヶ月繰り上げるごとに65歳に受給できる年金額が0.5%減額されます。60歳まで繰り上げると、30%も年金額が減り、その減額が生涯続きます。2022年4月以降はその減額率が0.4%になりますが、それでも60歳まで繰り上げると24%も減ってしまいます。そしてその減額された年金額は元に戻ることなく、死ぬまで減額されたまま受給することになります。

例えば現行制度でいうと、65歳から月額17万円の年金が受け取れる人の場合、60歳で繰り上げ受給すると月額11万9,000円になります。何か仕事をして収入があるうちは何とかなりそうですが、年金暮らしになると生活費としてはかなり不足しそうです。

また、「在職老齢年金」にかかりやすくなることもデメリットです。在職老齢年金とは厚生年金を受け取りながら厚生年金制度のある会社で働く人に対する制度で、現状であれば1ヶ月の厚生年金額と給与の合計が28万円を超えると、その超えた部分の半分が「支給停止」となります。つまりその分の年金は受け取れなくなるということです。

2022年4月以降、この在職老齢年金の基準額が28万円から47万円に上がるため、働きながら繰り上げ受給しやすくなりますが、将来的な年金収入のことを考えると、慎重に検討をした方が良さそうです。

障害年金が制限されることにも注意

年金は一人一年金という考えがベースにあります。ですから老齢年金受給を開始してしまうと、障害年金、遺族年金が受けられません。障害年金は65歳になる前に初診を受けた傷病が対象です。繰り上げ受給をすると、60歳であっても年金制度上は65歳となります。つまり老齢年金受給開始後に障害年金を受けられるような障害を負うと、65歳以下であっても障害年金の対象になりません。

また、65歳になるまで遺族厚生年金は老齢基礎年金と併給できません。65歳になってから、自分の老齢厚生年金を受給するか、遺族厚生年金を受給するのかを選択します。また、寡婦年金も受給できません。

このように、年金の繰り上げ受給にはデメリットが多いため、慎重に選択していただきたいところとなります。老齢基礎年金、老齢厚生年金の両方が受け取れる方は、それぞれを別々に繰り上げ、繰り下げ受給することができます。それらのメリット、デメリットを調べ、ご自身にあった受給の仕方を検討していただきたいと思います。