ある香港人が語り合う日本の年金と自らの老後生活
陳さん「やあ、郭さん、元気かい?ところで最近日本のニュースで良く取り上げられている『老後2,000万円不足』問題って知っているかい?」
郭さん「陳さん、なんだいそれ?」
陳さん「なんでも金融庁とかいう役所が、『公的年金以外に2,000万円の老後資金が必要だ』という報告書を出したのを『これは国民を不安におとしめるから』と言ってお偉い担当大臣が受け取らず、封印しちまったらしい。それを野党が公的年金だけで老後を暮らせないのか?と怒って追及しているらしい」
郭さん「なんともうらやましいというか呑気な話しだね。日本国民は、歳とったら、年金だけで暮らせると思っているんだ!驚きだ。少なくとも政府は国民にそう思わせたいらしいな。わしらなんて80歳だから、20年前に年金制度ができたけどその恩恵はないからなぁ。公的年金受給ゼロ世代だぜ!最近は、MPFとかいう公的年金制度ができたらしいから、少しは若い人は老後資金を貯めてるらしいが、死ぬまで公的年金もらえるなんて誰も期待していないよな」
陳さん「郭さん、そう言えば最近体調崩して80歳を機に引退したと言ってたが、どうやって暮らしているんだよ?俺たち年金なんてないし」
郭さん「陳さん、俺には3人の子供がいるからさ、3人の子が3分の1ずつ金を出し合って生活費まかなってくれているんだよ。年金なんて要らんよ。子宝だよ。わはは。まあ、体の動く限りは働きたいもんだがな。陳さんこそどうしているんだよ?なんかお前さんはいつ見ても優雅に暮らしているようだが?身寄りもいないのに」
陳さん「俺か?俺たち香港人は、三度の飯より投資が好きだからな。タクシー運転手していると、ラジオから株式情報は聴き放題だし、お客さんを届けるとどの地域が伸びそうかわかるし。お陰で高配当株と不動産賃貸収入で楽ちんさ。政府の世話になんてなりたくないぜ」
郭さん「それはうらやましい限りだな。ところで陳さん、なんかまた香港政府が、香港経済にケチつけるような法律作るらしいぜ」
陳さん「馬鹿いうんじゃないよ。勘弁してくれ!誰が政治家になろうと構わんが、俺たちの生活の邪魔だけはするなよ!特に、株式市場や不動産市場に悪い影響のある政策だけは勘弁してくれ。政府には期待もせんが、邪魔だけは許さないぞ!この週末いつもの様にデモやるらしいから、デモにでも参加するかな?」
郭さん「最近、デモ隊に警察は催涙ガスとかかけるらしいぜ!気を付けないとな」
陳さん「馬鹿いうなよ。俺たちの香港を守る為なら、涙目くらい、かまわん、かまわん」
政府に頼らず自助努力で人生を切り開く香港人
香港の確定拠出型年金制度(Mandatory Provident Fund=MPF)は、2000年にスタートしたばかりで65歳が受給開始年齢である。現在、80歳代の方の場合、公職に就いていた人以外は年金は見込めないようだ。
一方、保険会社等が私的年金商品を充実させており、最近の若い人は老後に備えて私的年金をやっている例が増えているのは事実であるが、これも自主的に加入する商品だ。そんな香港なので、75歳前後の高齢者が街中で働いている姿は普通にみられる。
日本と並ぶ高齢化社会である香港だが、高齢化社会だから活力が無くなったという言葉は聞いたことがない。自助努力で人生を切り開く人たち。政府には頼らず、自由経済にマイナスな政策には政府と言えども百万人単位で徹底抗戦する。そこには、時代の波に飜弄されながらも逞しく生きてきた香港人の姿がある。日本の政治家の論点がずれているように見えるのは筆者だけなのか。
なお、上記の郭さんと陳さんの会話は、筆者が実際に香港人の皆さんから見聞きした話を会話風にまとめたものだ。