国家レベルの経済力を持つアマゾンの「ベゾス帝国」

筆者はこれまでレポートや米国株のセミナー等で、アマゾンは(独占禁止法的な分割のリスクはあるが)現在もこれからも最強銘柄だと申し上げてきた。

アマゾンのビジネスモデルは、ウォーレン・バフェットの<調達コストゼロ>のビジネスモデルと共通する部分も多く、あのハイテク株嫌いのウォーレン・バフェットでさえ、「われわれの時代が生んだ最高の経営者」とアマゾンCEOのジェフ・ベゾスを絶賛している。

「ずっとファンだった。(株式を)購入しないで来たのは愚かだった」あのウォーレン・バフェットにこのように言わしめたのはどこの会社か。アマゾン(ティッカー:AMZN)である。

先日、ウォーレン・バフェット率いる投資会社バークシャー・ハサウェイがアマゾンの株式を初めて取得したことが明らかになった。バフェット氏は、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOの指導力を長く評価してきたと言う。このアマゾンについて2回にわたって取り上げたい。

著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる米複合企業バークシャー・ハザウェイは4日、年次株主総会を開いた。米アップル株に続き、米アマゾン・ドット・コム株を初めて購入するなどハイテク株投資にカジを切り、市場を驚かせた。近年はバークシャー株の運用収益が市場平均並みにとどまり「バリュー(割安)株投資」の限界がささやかれるなか、自身の投資哲学は健在だと反論した。
(中略) バフェット氏は従来、IT(情報技術)業界のように変化のスピードが速く、事業内容の理解が難しいものには投資しないと公言していた。同氏の投資哲学の根幹は、企業の本質的価値よりも安い価格で株を買い、将来の値上がりを待つバリュー株投資の考え方だ。(中略)だが予想PER(株価収益率)71倍と決して割安とは言えないアマゾン株への投資が明らかになり「バリュー投資からついに宗旨変えか」との観測が広がった。しかしバフェット氏は総会で「バークシャーの投資哲学は変わっていない」と強調した。小売・流通業として「アマゾンは強力なブランド力を持つ」と評価し、割高・割安の判断は足元の株価水準ではなく将来の予想される価値との比較でみるべきだと主張した。ブランドが他社の参入を阻み、強い価格交渉力を生む――。これは米コカ・コーラなどバフェット氏が好む安定成長銘柄の特徴と一致する。
(日本経済新聞 2019年5月6日 バフェット氏「割安株投資は健在」 、アマゾン株初購入、株主総会、限界説に反論)

アマゾンは昨年、アップル(ティッカー:APPL)やマイクロソフト(ティッカー:MSN)と並び、時価総額が1兆ドルを超える「1兆ドルクラブ」のメンバーとなった。もちろん時価総額の順位に変動はあるものの、最近ではこの3社が常に上位を独占している。ちなみに1兆ドルと言うとどの程度の規模なのか。オランダのGDPが約9000億ドル前後であることから、国家レベルの経済力を持っていることがおわかりいただけるであろう。

時価総額順位表
出所:ヤフーファイナンス 2019年5月18日現在

アマゾンは、プライムサービス等を含むアマゾンストア以外にも様々なサービスを手がけている。例えば、個人向けにクラウドストレージサービスを提供するWebサービス事業や、キンドル、Firefox for Fire TV等のアマゾンデバイス、その他にもアマゾンフレッシュやアマゾン ウェブ サービス(AWS)等である。

また、ホールフーズやオンライン薬局のピルパック等、企業買収も積極的に行ってきた。さらに、ベゾスによって設立された「Nash Holodings」やベゾスの投資会社「Bezos Expeditions」ではベンチャー投資を行っており、その買収先や投資先をまとめるとまさに「The Bezos Empire(ベゾス帝国)」を築いている。

出所:Market Watch   グリーンの丸が買収、黒の点線が投資

ジェフ・ベゾスが語る初期のアマゾン

ベゾスがアマゾンを立ち上げたのは1994年のこと。前述のようにいまや国家レベルの経済力を持ち帝国を築いているアマゾンであるが、それでも最初の頃は多くの苦労があったという。

2013年5月に行われたベゾスの講演の動画(以下のリンク)が大変興味深い。この動画では、なぜオンライン販売に本を選択したのか、初期の頃のアマゾンはどんな様子だったのかが彼自身の口から語られている。

彼はアマゾンのビジネスを「最もインクレディブル(信じられないくらい素晴らしい)ジャーニー」と語っており、ベゾスのビジネスに対する情熱をうかがうことができる。その内容を一部ご紹介しよう。

1994年にアマゾンを設立した頃、インターネットの使用率は年2,300%で伸びていた。こんなものは他になかった。その中で自分には何ができるか、オンラインで売るのは何が良いかを考えて本を選んだ。本は特異な性質を持っていた。どんな製品よりも種類が多い。100万種類の本がある。そしてコンピュータはそのようなものを管理するのに向いていた。

ワイフはウォールストリートにあるヘッジファンドでクオンツとして働いていた。でも80歳になった時に後悔したくなかった。大変な決断だった。自分がインターネットにかかわれるとしたら、ものすごいことができると思った。しかし失敗したら後悔するか、いや、やらなかったら絶対に後悔すると思った。

最初の頃は、ありとあらゆることをした。1年ほどかけてソフトウェアのインフラを作ったり、ベンダーとの関係を作ったり、顧客がこういったテクノロジーをどう受け取るかわからなかった。リスクは高かったし前例はどこにもなかったから。

両親はアマゾンの初期の投資家で300,000ドルを投資した。父親の最初の質問は「インターネットって何だ?」って。彼らはアイデアに投資したのではなく、失敗するかもしれないが、息子に投資をした。両親には正直に、たぶん70%失敗するだろうと伝えた。

最終的には彼らの投資はとてもうまくいった。スタートアップは10%くらいしか成功しないから。今から考えると30%成功すると思っていた自分はとてつもなく自信過剰だった。

1995年7月にサービスをローンチした時、顧客の反応に驚いた。最初の30日で全米50州、45ヶ国からオーダーが届いた。そんな多くのオーダーを裁く準備ができていなかった。慌てて倉庫を拡張した。日中はプログラミングをして、午後は荷造りと出荷。自分で車を運転して荷物をぎりぎりUPSに届け、閉まったばかりのガラスドアを叩く、そんな毎日だった。

固いコンクリートのフロアで荷造りをしていたので膝が痛くてたまらなかった。そこで素晴らしいアイデアが浮かんだ。「そうだ膝当てパッドを買おう!」そうしたら従業員が「こんなバカなことをいうやつは見たことがない」と言う顔をした。「こんなバカなボスの為に働いているのか」と。でも自分は真剣にそう思った。「次は荷造り台だ!」そして荷造り台を買って生産性は2倍に上昇した。

最初のアマゾンは全くなっていなかったが、ひとつ幸福だったのはアマゾンの文化だ。会社のすべての部門で、そして1人1人がカスタマーサービスを最も重視して働いていた。良いスタッフのお陰、カスタマーサービスのお陰で何とか乗り切った。これがアマゾンのサービス志向の会社たる原点だ。

出所:Amazing Amazon Story - Jeff Bezos Full Speech(YouTube)

そんなベゾスの人柄がもう1つわかる記事をご紹介しよう。

ベゾスの船出は94年にさかのぼる。ニューヨークで金融工学の先駆け的な投資ファンド、DEショーに勤めていた時に考えだしたのが、ネットを使う「エブリシング・ストア」のアイデアだった。ブラッド・ストーンの著書『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』によると、当時カズオ・イシグロの『日の名残り』を読んでいたベゾスは、人生を左右する選択で後悔を最小化するためには何をなすべきかを考えたという。ベゾスはファンドの高給を捨て、起業の道を選んだ。

「行き先は後で知らせる。とにかく西に向かってくれ」。運送業者にこう言ったベゾスは西海岸の最北に位置するシアトルにたどり着いた。縁はなかったが、ボーイングやマイクロソフトが陣取るエンジニアの町を起業の地に選んだ。

シアトルに借りた自宅ガレージでアマゾンは生まれた。ネットの「エブリシング・ストア構想」は棚上げし、本から着手する。その後の成功は誰もが知るところだが、当初からネット通販の発想が受け入れられたわけではない。

ある時、地元シアトルの雄、スターバックスの実質的な創業者であるハワード・シュルツがこうアドバイスした。「アマゾンにはリアル店舗がない。いつかこの問題で伸び悩む日が来ると思う」アマゾンは今、リアル店舗を拡充している。シュルツの予言は的中したと言える。だが、当時のベゾスはこう返したという。「いや、我々は(ネットで)月まででも行けると思っている」
(日経産業新聞 2019年1月7日  第3部流通の革命児(1)ベゾス氏釣ったダメ元メール――日本進出、発端は渋谷のノリ(ネット興亡記))

2019年にも宇宙旅行のチケットを販売

では2005年以降のアマゾンの売上と利益の推移を見ていこう。2010年代前半には利益が赤字に転落するところもあったが、2016年以降、売上、利益ともに急拡大している。

出所:アマゾンHPより筆者作成

「death by Amazon(アマゾンによる死)」や「アマゾンエフェクト」と言う言葉があるように、アマゾンの誕生は小売ビジネスの世界を大きく変えてきた。そしてここにきて利益も大きく伸びており、アマゾンはさらなる成長の段階をかけ上がっている。

その成長の背景には何があるのか。どんなビジネスがアマゾンをアマゾンたらしめているのか。ポイントは2つあると考えている。それは「【1】高い利益率を誇るAWSサービス」「【2】潤沢なキャッシュフロー」である。

AWSサービスはアマゾンで一番利益を上げているサービスで、パブリッククラウドを提供するサービスである。競合にはマイクロソフトやグーグル、IBM、そしてアリババと強者揃いであるが、業界ではアマゾンは世界最大の企業向けクラウドサービスを提供する会社として認識されていると言う。

AWSの顧客にはGEやマクドナルド等、米国の大手企業の他、2013年には米中央情報局(CIA)とも契約した。多くの日本企業もその顧客に名を連ねている。そもそも自社のサービス展開に活用していたAWSがなぜここまでのシェアを取るに至ったのか。

そしてもう1つは潤沢なキャッシュフローである。前述したウォーレン・バフェットはアマゾンをバークシャー・ハサウェイに似た企業とみなしている。バークシャーのビジネスの強みは、保険業で保険料を徴収し、払い戻しが生じるまでコストがゼロの資金を運用し利益につなげると言うビジネスモデルである。

バークシャーとは全く異なる業態(ネット小売業)であるアマゾンも、同様のモデルを採用しており、将来の成長に対してこれまで桁外れの投資を行ってきた。

こうしたことは他のIT企業には見られないものであり、ここがアマゾンの急成長のキモである。次回のレポートではこのアマゾンの2つの強み、AWSとキャッシュフローについてひも解いてみたい。

アマゾンの決算報告書に添付されていた「Letter to shareholders 株主への手紙」の一部を要約してご紹介する。

アマゾンでは製品の開発を担うのは、好奇心を持った探求心の旺盛な人であり、文化を大切にします。専門家でありながら素人の心を持った開発者です。事業に効率は重要ですが、いろいろと無駄なことを試みることはとても重要です。その両方を合わせ持つと、とてつもないことが可能となります。

製品を開発するのに顧客の欲しいものを聞くのは重要ですが、本当に重要なのはこの世の中に存在していないが本当に顧客が欲するものを見つけ出すことです。AWSはそうやって生まれました。

今やAWSはデータベースに限らず機械学習など昔はこんなことができると思わなかったようなユーザー体験を提供しています。AIの民主化に役立ち、数千人のユーザーが活用しています。こういったものは好奇心、そして顧客に代わって全く新しいことに挑戦する文化がなければ生まれなかったでしょう。

出所:2018 Letter to Shareholders


さて、ベゾスは先日、有人月面着陸機「ブルームーン」を初めて公開した。彼は2000年に宇宙開発ベンチャー企業のブルーオリジンを設立し、独自のロケット開発に取り組んできた。ブルーオリジンは2024年までの月面着陸を目指している。

また、宇宙船カプセルによる宇宙旅行も計画しており、2019年にも宇宙旅行のチケットを販売するそうだ。ベゾスが数年前に言い放った通り、ネットで月まで到達ももう夢ではなさそうだ。


(第2回に続く)

石原順の注目銘柄

今週はアマゾン株の順張り・逆張りのテクニカルチャートを掲載しておく。この銘柄はポートフォリオに必ず入れておくべきだと筆者は考えている。

アマゾン(月足) 順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ
中段:ADX(14)・標準偏差ボラティリティ(26)
下段:売買シグナル 買いトレンド=グリーン・売りトレンド=オレンジ
出所:パンローリングカスタムチャート

アマゾン(週足) 順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ
中段:ADX(14)・標準偏差ボラティリティ(26)
下段:売買シグナル 買いトレンド=グリーン・売りトレンド=オレンジ
出所:パンローリングカスタムチャート

アマゾン(日足) 順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ 中段:ADX(14)・標準偏差ボラティリティ(26) 下段:売買シグナル 買いトレンド=グリーン・売りトレンド=オレンジ 出所:パンローリングカスタムチャート

アマゾン(日足) 順張りのレンジブレイクトレードモデル

上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ 中段:ADX(14)・標準偏差ボラティリティ(26) 下段:売買シグナル 買いトレンド=グリーン・売りトレンド=オレンジ 出所:パンローリングカスタムチャート

アマゾン(日足) 逆張りトレードモデル

上段:△買いシグナル・♢売りシグナル 中段:REV 下段:FLOW 出所:筆者作成

アマゾン(週足) フィルター付逆張りトレードモデル

上段:200週EMA(緑)と押し目買いシグナル 下段:ストキャスティクス5.3.3 出所:筆者作成

 

日々の相場動向については、ブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。