ファーウェイ事件で米中貿易交渉の先行きが不透明に

2019年を予想する上で、米中貿易問題は最大のワイルドカードである。

12月1日に米中首脳会談が実施され、米中貿易摩擦問題は一時休戦となった。中国の知的財産保護などで協議を行うことで、米国は2019年1月以降に予定されていた関税引き上げを90日間猶予することで合意した。課題が解決したわけではないが、ひとまず決裂には至らず、休戦という結果になった。

ただし12月1日、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長兼最高財務責任者(CFO)の孟晩舟容疑者が、関連会社を通じた取引で対イラン経済制裁に違反した疑いがあるとして、米国の要請に基づきカナダ当局に逮捕された。

中国政府はこれに対し猛烈にカナダ政府に抗議し、即時釈放を要求した。カナダの裁判所は11日に保釈を決定し、今後、米国への身柄引き渡しが焦点となっていた。その矢先、中国当局が2人のカナダ人を拘束した。孟晩舟容疑者を米国に引き渡さないよう要求するための事実上の“人質”との見方が広がっている。中国当局は今後、2人を事実上“人質”として拘束したまま、孟容疑者を米国に引き渡さずに完全釈放するよう、カナダに圧力をかけていくものとみられる。

トランプ大統領は11日のロイター通信とのインタビューで、「中国との貿易取引にも、米安全保障にも良いことだと判断すれば、事件に当然介入する」と述べている。ただし、顧問らが、司法省が管轄する案件であり、捜査に介入すべきではないと大統領に助言したと報じられている。米政府高官は、現時点で捜査に介入する計画はないとも語っており、トランプ氏の発言の火消しに躍起になっているようだ。

このように、ファーウェイのCFO問題が新たに浮上してきたため、米中貿易交渉90日間猶予の期限が2月末に到来するが、事前に予想が全くつかなくなってきた。米国は、強制的技術移転、知的財産権の保護、非関税障壁、サイバー攻撃、サービス・農業の5分野で交渉を行うとしているが、米国の本気度は最高水準まで達しているものの、多くの課題に対し、中国がどこまで対応できるか大いに疑問である。

先行き、双方の関税引き上げ等により、企業活動が下押しされる可能性も残存している。ただし、90日間のうちに交渉経過が伝わり、これは徐々にマーケットに織り込まれるだろう。

米国で遂に逆イールドが発生

米国株は、12月14日(金)、2016年3月以来初めて、ダウ平均を含む主要3指数がそろって調整局面入り(高値から10%以上下落)した。

中国や欧州で景気減速を示唆する経済指標が相次ぎ、世界経済の先行きに対する警戒感が改めて広がったためだ。とりわけ米中貿易摩擦問題は、当事国だけでなく供給網を通じて世界経済全体に影響が及んでおり、悪影響が企業の設備投資や家計の消費行動にまで拡大する恐れを内包する。

米債券市場で12月3日に3年債と2年債の利回りが5年債利回りを11年ぶりに上回り、2年債と10年債の利回り差も2007年7月以来の水準まで縮小した。期間の長い利回りが短い利回りを下回る「逆イールド」は1990年や2001年、2007年の景気後退の前に起きており、景気拡大局面の終わりが近づいているとの観測を誘っている。

市場に影響力を持つ、ダウ・ジョーンズ発行の週刊投資金融情報専門紙「バロンズ」は、10月29日付から、利上げを休止すべきとの、識者の見解を掲載している。

強さを保っている米雇用市場であるが、チャレンジャー・グレイ&クリスマスによれば、11月末までで、年初来の解雇者数は累積で、49万5000人と、前年同期比28%増加した。2015年以来、11月までの累積数としては最高水準になった。また、パートタイマーの数が急増している。

米消費者物価指数(CPI)は代表的インフレ指標と考えられているが、計測の難しいサービス価格のウェイトが高い為、理想的な指標ではない。金こそが最高のインフレ指標だ。その最古のインフレ指標である金価格を見ると、8月中旬に底打ちし、着実に下値を切り上げている。

こうしたなか、2019年の追加利上げに対する慎重姿勢が強まっていのも事実で、パウエル議長は11月28日の講演で利上げ打ち止め時期が近いことを示唆したほか、11月のFOMC議事録にも、「政策金利が中立水準に近づいており、さらなる利上げが景気を過度に減速させる可能性があることを数人の参加者が主張した」と記載されている。

11月の米雇用統計は非農業部門雇用者数が前月比15万5000人増と市場予想(19万人)を下回った。平均時給伸び率も前年同月比3.1%と市場予想(3.2%)に届かなかった。市場予想よりやや弱めながら、12月18-19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では追加利上げが実施されると観測が強い。市場の注目は2019年の利上げ回数に移っている。CMEのフェドウォッチのデータによると、2019年においては1回の利上げの可能性が織り込まれているのみだ。しかも時期は、早くて9月である。

中編では「米国経済は潜在成長率を上回る成長が持続する見通し」、後編では「今回の米国株調整期と類似した2016年を振り返る」をお伝えする。