日の大発会で日経平均が700円超の大幅高を演じたことは大きなニュースになった。その理由として、世界景気の好調さを指摘する向きが多い。例えば年始に発表された米中の景気指標が好感されたという指摘がある。米国では12月のISM製造業景況感指数が市場予想を上回り、中国の12月の非製造業購買担当者景気指数は14年8月以来の高水準だった。だが、世界景気の好調さやそれを背景とした日本企業の業績改善はいまに始まったことではない。
北朝鮮が対話の意思を示したことで北朝鮮を巡る地政学リスクが緩和されたとも言われている。しかし、一方で北朝鮮が大陸間弾道ミサイルの発射準備をしているという観測も報じられており、北朝鮮情勢はいまだ予断を許さない。そもそも、北朝鮮がミサイルを放っても、株式市場はまったく無視して史上最長となる16連騰や26年ぶり高値をつけてきたのではなかったか。いまさら「南北対話に道筋」というニュースを「好感して」700円も上がるわけがない。
日本が「三が日」で休場の間、ひとあし早く始まったNY市場でナスダックが初の7000ポイント台をつけて最高値を更新、ダウ平均など主要指数がそろって高値を更新したことが追い風になったという解説もある。しかし、米国の高値更新もいまに始まった話ではない。昨年からずっと連日、米国株は高値を更新してきたのである。
昨年11月上旬に日経平均が取引時間中に2万3000円台の高値をつけて以降、2万3000円台を何度試しても、そのたびに押し戻されてきた。「2万3000円の壁」と言われてきた、その間も、「世界景気」は好調で、「米国株」は高値更新が続き、「北朝鮮情勢」は不透明なままであった。
昨年の年末相場と今とでは何が変わったのだろう?
年が変わったのである。2018年になった。変わったのはそれだけで、それ以外の投資環境は何も変わっていない。
年が改まっただけで、岩盤のように思えた「2万3000円の壁」をあっさり抜けて、700円超の大幅高になるなんて理屈があるものだろうか?
それが相場の「理外の理」というものだ。あるいは、僕が常々言っている「株価は理由がなくても大きく動く」というものの典型例だろう。こういう商売をしていると、「どうして上がったんですか?」とか「昨日の下げの要因はなんですか?」と尋ねられる。いちいちもっともらしい理由をつけて解説しているが、いちいちもっともらしい理由をつけて解説するのが商売だからしているのであって、実際のところ明確な理由があって株価がうごくことなど滅多にない。
そのあたりのことは、いくつかの研究事例を紹介したこのレポートに詳しく書いたのでご参照いただきたい。(2015年版「光と波」 PART1世界株安の原因が中国不安ではない理由)
ひとは株価の動きだけでなく様々なものに「意味」を探したがる。別の言葉で言えば、因果関係を当てはめたくなる。だが、まともな因果関係を説明できることは稀である。だから、昨日の大幅高に、さしたる理由はない、というのが第一の答えである。
しかし、それではもっともらしい理由をつけて解説するストラテジストという商売が成り立たないから、第二の答えも挙げておこう。それは「気持ち」である。年が改まって、ひとびとの気持ちがリフレッシュされたからである。案外、この「気持ち」というのは大きい。「景気は気」からというが、本質を突いている。
日経平均の過去の月別騰落率を見ると、日経平均算出開始以来という超長期では1月が一番、リターンが高い。次に高いのは4月である。これは新年、新年度ということに関係があるのは容易に想像がつく。米国でも1月のリターンが高く、「January Effect (1月効果)としてよく知られたアノマリーだ。こちらは税金の還付などが関係しているといわれる。ところが近年、例えば過去10年程度では1月効果は消失している。その理由としてHFTやアルゴリズム取引などコンピュータによる自動売買が増えたからではないかという指摘がある。機械は季節を感じないから、新年になっても気持ちが改まるなんてことがない。
しかし、これもまた不思議なのだが、年末は商いが細る。クリスマス休暇で海外投資家が休みに入るからだと言われる。でも、機械による売買が主流なら、やはりクリスマスも盆暮れも関係ないはずである。人間は休んでも機械は相場が開いている限り働き続けることが可能であろう。
そう考えると、やはりまだ、相場の中心には「人」がいる。人である限り、感情や気持ちがあって、年が改まることに、特別な意味を見出すものなのであろう。逆に言えば、700円超も上げて始まった今年、2018年はそれだけ特別な思いを市場参加者に抱かせるものであったということだ。
蛇足ながら、大幅高になった、もっともわかりやすい理由として「抜けたら速い」というものがある。それまでなかなか抜けなかった壁が強固であればあるほど、抜けたら一気に加速する。そこを打ち破ろうというパワーが蓄積されているからだ。何度も2万3000円接近で抜けなかったというのは、その近辺での売り物をこなしてきたということでもある。「玉」が売りたい向きから新たな買い手に徐々に移り替わってきた。三角保ち合いを放れる機は熟しつつあった。上値は横一線だが下値は切り上がり、25日線でしっかりサポートされてきた。一度ダマシが入って弱気筋を振り落したが、すぐに25日線を奪回した。放れるなら上しかない状況だった。年が変わったというのはまさに良いタイミングだったということである。