前回更新分の本欄では、ドル/円の行方について「目先は(一目均衡表の)日足『雲』の下限から上限を突き抜けて、そこから一段の上値余地を拡げる展開となって行くかどうかが一つの焦点」と述べ、さらに「日足の『遅行線』が日々線を上抜けてくるかどうかにも要注目」としました。

実際、今週に入ってからのドル/円は日足「雲」を上抜ける動きとなってきており、同時に日足の「遅行線」は日々線を上抜ける展開となっています。言うまでもなく、これらは強気のシグナルと見做されるものであり、その実、昨日(27日)のドル/円は一時的にも112.47円まで上値を伸ばす展開となりました。

結果、前回の本欄でも指摘していた5月高値から直近安値までの下げに対する61.8%戻しの水準=112.25円を一旦上抜ける格好となり、次は31週移動平均線(31週線)が位置する水準(現在は112.94円)や76.4%戻しの水準=113.06円などが試される展開となる可能性もあるものと見られます。

このように、足下ではドル/円がやや強気の展開となってきているわけですが、よく見るとそれは意外にも、目下の市場でユーロに対する強気の見方が強まっていることが一因であったりもしているのです。実際、昨日は欧州債の価格急落に連れて米国債も売り優勢の展開となり、総じて欧米の債券利回りが一気に上昇してユーロ/円などクロス円全般が強含みの展開となったことでドル/円も一緒に上昇するという展開が見られました。

かねて、市場ではECBが金融緩和の出口戦略に向けて、本格的に舵を切り始めるとの期待が渦巻いています。しかし、6月8日に行われたECB理事会後の会見でドラギ総裁は「景気拡大はまだ力強いインフレにつながっていない。従って、非常に高い度合いの金融緩和がなお必要だ」としたうえで、併せて「テーパリングの今後の方針については議論しなかった」とも述べ、市場の期待は見事に裏切られた格好となりました。

もちろん、ECBによる現行の政策運営が奏功してユーロ圏の域内景気が上向けば、いずれは当然「出口」に向かいます。そんななか、昨日行われたECB年次フォーラムでスピーチしたドラギ総裁が「インフレ抑制は一時的要因」などと述べたことが伝わり、また市場では一気に欧州債券が売られ、同時にユーロが買い上げられるという展開になりました。

もともと、ドラギ総裁は「足元の景気は力強い」とずっと言ってきています。それは今に始まったことではなく、ただ「インフレ率が低調なので金融緩和はまだ必要だ」と言い続けているのです。実際、昨日も「インフレ軌道の重しとなっている要素はまだある」と指摘しており、またも市場の反応は過度な期待先行ではないかと少々心配もされます。

ただ、これまでECBが出口に向けて本格的に舵を切れなかった理由が「低インフレ」のみならず「政治リスク」にもあったことは事実であり、その点については今、明らかにその懸念が後退しています。各国でポピュリズム政党が躍進して、「反EU」の流れが全体に強まるとの懸念は、フランスにおいて、マクロン新大統領率いる「共和国前進」の国民支持が強まっていることでほぼ払しょくされたと言っても過言ではないでしょう。

つまり、あとは域内のインフレ状況次第ということであり、その点を十分わきまえたうえで今後のユーロの動きも興味深く見定めて行くことが重要であると思われます。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役