足下で、米3月利上げの可能性に対する市場の期待が俄かに強まってきました。実際に昨日(28日)、米サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁は「3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げについて真剣な協議(serious consideration)がなされるだろう」と述べ、また同日、NY連銀のダドリー総裁は「足下で利上げの主張は説得力が増している(a lot more compelling)」などと語っています。

こうした米地区連銀総裁らの発言が伝わるや、市場では米10年債利回りが一気に上昇することとなり、同時にドル買いの流れが急激に強まることとなりました。その結果、事前に112円割れの水準まで下落していたドル/円も大きく持ち直す動きとなり、28日の終値は一目均衡表の日足「雲」のなかに留まることとなりました。

また、28日のドル/円の安値=111.68円が直近(2月7日)安値の111.59円を下回ることなく、あらためて週足「雲」上限の水準に下値を支えられる格好となったことも印象的であったと言えます。しかるに、今後も日足「雲」下限(現在は112.69円)や直近安値の111.59円、週足「雲」上限(現在は111.36円)などの水準がドル/円の下値サポートとして機能しやすいという点は再確認しておきたいところです。

本稿を執筆している間に、いよいよ注目の米大統領(施政方針)演説が米上下両院合同本会議において始まりました。振り返れば、米大統領は2月9日に「2~3週間内に驚異的な税制改革案を発表する」などと発言して市場の期待を盛り上げましたが、後に医療保険改革(オバマケアへの対応)が先で減税案の具体的な内容についての発表は3月中旬頃に持ち越される見通しとなりました。結果、ここにきて市場の期待はやや後退しています。

とはいえ、「いずれは大型の減税案が明らかにされる」との期待は今後も引き継がれることとなるわけで、むしろスケジュールの遅れはドルを下支える一因にもなり得るものと思われます。もちろん、実際に具体的な減税案の内容が明らかになれば、それが次に将来的な景気拡大期待へとつながって行く可能性も大いにあるものと見られます。

このたびの大統領演説については、もともとスピーチ・ライターの草稿をベースとした差し障りのない内容になる可能性が高いと見られていました。実際、その内容は就任演説と同様に抽象的かつ新味に乏しいものとなっていますが、老朽化したインフラの再構築に関わる投資や雇用の一層の拡大、税制改革などについても一応は触れており、具体策には少々乏しいものの、総じて"無難"な演説内容であるとの印象です。

当然のことながら、少なくともドルの信認を失墜させるような演説内容ではなく、市場は直ちに次の材料へと目を向けることとなるでしょう。目先は、まず本日のNY時間に発表される1月の米PCEコア・デフレータや2月の米ISM製造業景況指数、米地区連銀経済報告(ベージュブック)などの注目度が高いと見られ、其々の結果に基づいて米3月利上げの可能性が一層高まるかどうかを見定めることが重要でしょう。

また、今週3日にはイエレンFRB議長の講演が予定されています。翌日(4日)以降はブラックアウト期間(FOMCメンバーが金融政策に関わる発言を控える期間)に入ることもあり、その内容に対して市場は少々敏感に反応する可能性もあるでしょう。事前に期待が盛り上がり過ぎると、一旦は失望の反応が見られる可能性もあるということは一応念頭に置いておきたいと考えます。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役