米大統領の一挙手一投足が、国際金融相場全体を大きく揺さぶる展開が続いています。昨日(31日)もホワイトハウスで製薬会社幹部と会合した米大統領が「中国や日本が市場で何年も通貨安誘導を繰り広げ、米国はばかを見ている」などと語ったことが伝わり、円やユーロに対してドルが一気に値を切り下げる一方、NY金先物価格が大きく上昇するといった場面がありました。
「半ば強引な為替介入を常態化させてきた中国と市場経済を重んじてきた日本とでは事情が異なる」という事実はさておくとしても、足下で円やユーロに対してドルが強含みとなっているのは、米連邦準備理事会(FRB)による利上げ加速観測が強まっていることによるところが大きいわけで、やはり米大統領の発言にばかり気をとられるのではなく、FRB議長の発言にも十分に耳を傾けておくことが重要でしょう。
その点、去る1月18日にサンフランシスコで行われたイエレンFRB議長による講演の内容はかなり印象的なものであったと言えます。イエレン氏曰く「FRBは無党派であり、短期的な政治圧力を遮断するよう設計されている」、「利上げを先送りし過ぎた場合には"nasty(むかつくほど酷い)surprise"となるリスクがある」。
聞くところによれば、FRB議長という立場で公の場面において"nasty"などいう少々乱暴なワードを用いることは極めて珍しいことのようです。周知のとおり、米大統領は米金利とドルの低位安定を強く志向しているようですが、そのうえで金融政策当局に何らかの政治圧力をかけてくるような場面があれば、イエレン議長率いるFRBは、それに敢然と立ち向かう用意があると見ておいていいのでしょう。
また、いまだ米新政権による景気刺激的な経済政策の規模や具体的内容が明らかになってきていないという点についても今後大いに注目しておくことが必要です。経済政策について具体的に触れられていないのは、周知のとおり、まだ「米国三大教書(一般教書・予算教書・大統領経済報告)」と称されるものの内容が明らかにされていないからです。
まず「一般教書」は通常、基本政策を示す演説を年初に行うことが恒例ですが、就任1期目の米大統領が一般教書演説を行うことは「連邦の現状について把握し、議会に報告する」という憲法上の定義にそぐわないとの判断から、代わりに議会演説として政策を説明することが"慣例"となっているようです。ライアン米下院議長によれば、米議会上下両院本会議にトランプ大統領が招待されるのは2月28日になるとのことで、それまでにはまだかなりの日があります。
一方、翌会計年度の予算方針を示す「予算教書」は通常、2月の第1月曜日までに議会に提出することとされていますが、例年遅れがちとなっており、昨年も予算教書が議会に提出されたのは2月9日の第2火曜日でした。この予算教書の提出から10日以内に「大統領経済報告」が議会に提出される運びとなりますが、予算教書の提出自体が遅れれば、それも少し先のこととなるでしょう。
あくまで予算編成権は議会にあるわけですが、それでも2月末ぐらいまでには米国三大教書の内容が明らかとなり、そこから大まかな経済政策の規模や具体的内容が見え始めてくるわけです。いまだ市場には米新政権の経済政策に対する期待が引き継がれていることも事実であり、まずは何よりその具体像を見定めることが重要であると思われます。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役