今週12日、米連邦準備理事会(FRB)のブレイナード理事が講演で米国の早期利上げにネガティブな見解を示したことから、市場の早期米利上げ観測は大きく後退することとなりました。実際、この9月に米利上げの判断を少々前倒し気味に下すことはなかなか難しいことなのかもしれません。とはいえ、12月に先送りということになれば「それは手遅れとなる可能性がある」と考えている米金融当局者が少なくないことも事実です。

「金融政策は常に景気の後追いとなることが宿命」であるとすれば、確かに利上げの実施は9月よりも12月の方が適当ということになるのかもしれません。いずれにしても、言えるのは「9月米利上げの有無に関わらず、米国経済の先行きには一段の成長期待が大いにある」ということです。仮に9月米利上げが見送られたとしても、それによって米国経済の先行きをいたずらに悲観する必要はないと言っていいでしょう。

前出のブレイナード理事は「無理に予防的な利上げに踏み切るのは説得力を欠く」とする一方で「今後、米国の失業率は一段と低下する可能性がある」とも述べていました。同理事は、クリントン政権誕生なら有力な財務長官候補とも囁かれており、政治的に不人気な利上げを大統領選前に実施したくないという思いがあると見る向きもあります。

下図は、過去に本欄でも幾度か注目してきた「米求人労働移動調査(JOLTS)」の推移です。9月7日に米労働省が発表した最新のデータによれば、7月の求人件数は587万件と、調査開始以来の過去最高水準を更新することとなりました。今年は1月から7カ月連続の550万件超という高水準で推移しており、年間の平均でも昨年を大きく上回っています。

その一方で、7月の採用件数は522万件に留まっており、求人件数との開きが目立つ格好となっています。これは「職を求める側の要求水準が高まっていること」が一因であると考えられ、働く人を求める企業側は、今後ますます求職者の要求にできる限り応えて行く必要に迫られることになると考えられます。

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その「要求」というのは、やはり「賃金水準の引き上げ」や「雇用条件の改善」などであると考えられ、企業側は多くの場合、すでに賃上げや正規雇用比率の引き上げなどを真剣に検討しなければならない段階にきていると見られます。結果、徐々に賃上げに踏み切る企業も増えて行くでしょうし、同時に人々の賃上げ期待も一段と膨らんで行くこととなるでしょう。賃上げ期待が膨らめば、人々の消費マインドは徐々にアップし、最終的には消費の活性化につながって行くことが大いに期待されることとなります。

したがって、前回更新分の本欄でも述べたように、ここからドルが一段安となることを安易に想定することには多少の違和感が伴うものと思われます。実際、足下では円やユーロに対してドルがやや強含みの展開となっており、本日(14日)はドル/円が一時的にも103円台に再び乗せる場面を垣間見ています。

ドル/円に関しては、日銀の追加緩和期待が円安を後押ししている部分もあると思われますが、同時にユーロ/ドルが足下で調整ムードを色濃くしつつあるということも見逃せません。今後、ユーロ/ドルが1.1200ドルを明確に下抜けてくるようであれば、そこからドルの上値余地は更に拡がってくるものと思われます。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役