先週3日、ドル/円は一時105.55円まで下押す場面を垣間見た後、あまりに急激な円高の反動もあって、足下では109円台まで一旦値を戻す展開となっています。麻生財務相による円高けん制発言や年内2度の米利上げの可能性などが材料視されているとの見方もありますが、実際にはドル売り方による買い戻しや円の買い方による売り戻し=利益確定の動きが活発化したと見るのがより適当でしょう。

5月下旬に伊勢志摩サミット開催を控えて、安倍首相は「為替が議論になる」ということにも言及しており、海外のファンド勢などには、このあたりで一旦リスクを解消しておきたいとの意向もあるものと思われます。いずれにしても、今のところドルを積極的に買い上げる材料には依然として乏しいと考えざるを得ないことも事実であろうと思われます。

結局、ドル/円は2014年1月高値=105.45円にほぼ顔合わせする水準で一旦下げ渋ることとなったわけですが、これは必ずしも偶然ではないものと思われます。過去のドル/円の価格推移において105円台半ばの水準というのは、非常に重要な節目の一つであると考えられるからです。

下図においても確認できるように、105円台半ばの水準は2007年6月高値から2011年10月安値までの大幅下落に対する61.8%戻しにあたり、2014年1月高値は2012年11月以降に本格化したドル/円の強気の展開がとりあえず一巡した時点でもありました。ご承知のとおり、2012年11月というのはドル/円の月足ロウソクが実体部分で31カ月移動平均線(31カ月線)を明確に上抜け、強い買いシグナルが点灯したところです。

20160511_tajima_graph01.JPG

その意味で、先週3日安値の105.55円という水準は当面の強い下値サポートとして意識されやすいところであるとも言えそうです。ただ、先月(4月)の月足ロウソクが31カ月線を明確に下抜け、長めの陰線となったこともまた事実であり、当面は上値の重い状態が続く可能性もあるものと見られます。4月の"日銀ショック"後の急落に対する61.8%戻しは109.45円付近に位置しており、目先は同水準あたりが上値抵抗として意識されやすくなる可能性もあるでしょう。

もちろん、場合によってはドル/円が再び下落基調を強め、直近安値が位置する105円台半ばの水準を下抜ける可能性も封印はできないものと思われます。その場合の下値の目安を考えるうえでは、やはり2011年10月安値から2015年6月高値までの大幅な上昇に対する61.8%押しの水準を一応想定しておくことも必要でしょう。計算すると、その水準は95円あたりということになります。3年余りでおよそ50円もの上昇が見られたわけですから、その調整に概ね1年~1年半ほどの期間を要し、その調整幅が上昇幅の61.8%程度となることもあり得ないわけではないものと思われます。

当然、1ドル=100円の心理的節目も非常に重要と考えられることから、大よそ100-95円あたりが想定される目安の一つということになるでしょうか。あらためて上図を見てみると、一目均衡表の月足「雲」上限は現在96円処に位置しており、このあたりの水準はかなり強い下値サポートとして意識されることになるものと見られます。また、この月足「雲」上限が今年9月あたりからグンと水準を切り上げて行くという点にも、今から少し長い目で注目しておきたいところです。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役