筆者は、明日(31日)の20:00よりマネックス証券オンラインセミナー「4月の為替相場展望」の講師を務めさせていただきます。前回(2月23日)と前々回(1月28日)のセミナーでも繰り返し述べたのですが、以前から筆者は米国経済の成長度合いについて「年前半は非常に緩慢に見えるものの年後半からは一気に加速しはじめる」と考えています。

少なくとも、現時点における米国経済の成長度合いが多くの人々の目に「非常に緩慢」と映っていることは間違いなさそうですし、これまで実際に発表された経済指標・景気データの多くもそのことを裏付けています。たとえば、下図に見られるPCEコア・デフレーターという指数の推移を見ても、少しずつ水準が切り上がる傾向にはあるものの、遠目に見れば「ほぼ横ばい」と言えなくもない状況に今はあります。

このPCE(個人消費支出)コア・デフレーターは個人消費の物価動向を示す指標で、個人消費のうち変動の大きい食品・エネルギーを除いたものです。米連邦準備理事会(FRB)の物価判断基準において最も重要視される指標であり、FRBは同指数が2%にまで切り上がることを目標にしているとされます。その意味では「徐々に目標水準に近づいてきている」と見ることもできますし、逆に言えば「もう一歩足りない」ということにもなります。つまり、成長は続いているけれども、その度合いは非常に緩慢であるということです。

実際、米商務省が一昨日(28日)、2月のPCEコア・デフレーターが前年同月比で1.7%上昇したと発表した後、市場は一旦ドル売りで反応しました。市場予想の中心であった1.8%を下回ったことや、この程度の水準ではFRBが利上げ判断を急ぐことにはつながらないと市場が見做したことなどがドル売り材料とされた模様です。

振り返れば、昨年までPCEコア・デフレーターは長らく伸び率が1%台前半に留まっていたわけであり、ここにきて1%台後半での推移が続いていることは大いに評価されていいものと思われます。最近の雇用回復に伴う賃金の上昇によってサービス物価などが上向いていることが同指数を緩やかな上昇に向かわせていると考えることができ、今後一段の上昇が十分に見込めるものと思われます。

実際、下図中に示したもう一つのデータ「平均時給の推移」は右肩上がりの伸びを続けており、いま米国では水面下で沸々と人々の消費マインドが盛り上がりはじめているように思われます。あと「もう一歩」でそれが実際の消費行動に結びつき、結果として個人消費の物価動向を一段と押し上げる段階が訪れることでしょうし、それが年後半以降、米国経済の成長度合いをグンと押し上げるものと筆者は想定しています。

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その一方で、景気の後追いとなることが「宿命」である金融政策(=追加利上げ)の出番は、想定以上に先延ばしされることとなる可能性が濃厚です。その実、昨日(29日)行われたイエレンFRB議長の講演は、市場関係者の多くが想定していた以上にハト派な内容となりました。このところ複数の米地区連銀総裁によるタカ派な発言が相次いでいたことによって戻り歩調にあったドルは、議長の発言で急落することと相成りました。

こうした場面で過度に大きな痛手を負わないために、今後も米国における賃金の上昇度合いや、それを反映して動く個人消費の物価動向などを丹念にチェックし続けて行くことは非常に重要であると思われます。差し当たっては、今週末1日に発表される3月の米雇用統計では「平均時給」の伸びに注目したいところです。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役