本欄の前回更新分でも触れたように、NYダウ平均は2月下旬にダブルボトムを完成させて一時17,000ドル台を回復、次いでWTI原油先物価格もダブルボトムを完成させ、今週7日には一時的にも1バレル=38ドル台までの戻りを見ました。このように、足下では全体にリスク選好ムードが少しずつ回復しつつあるように思われるわけですが、なおもドル/円は上値の重さが強く感じられる展開を続けています。
その要因として考えられるのは、一つに原油価格の戻りを受けて資源国通貨や新興国通貨にも見直し買いが入っていることで、相対的にドル買いが盛り上がりにくくなっているという点です。また、2月に行われたG20財務相・中央銀行総裁会議の共同声明に財政出動を求める文言が盛り込まれたことで、ここにきて市場心理が改善し始めたのは良かったものの、同会議で日銀のマイナス金利導入に対して欧州の一部参加者から批判の声が上がったとされていることで、日銀が次の一手を繰り出しにくくなっているとの思惑が市場に広まっていることも円が強含みとなっていることの一因と言えるでしょう。
昨日(8日)、日本経済新聞の朝刊紙面には『円、3月連休以降に下落?』との見出しが躍りました。「3月は日本の大手企業の本決算が集中するため、海外支店や子会社の利益を本店に送還するリパトリエーションの動きが生じやすいものの、こうした動きはおおむね3月中旬までに一巡する傾向がある」というのが一つの根拠です。加えて「3月末は欧米企業にとっても四半期決算となり、海外投資家による損益確定の円売りが出やすい」との記述もありました。
なるほど、3月上旬は決算期末との絡みもあり、日本の大手企業による外貨売り・円買いが膨らみやすいといった部分があるのかもしれません。ただ、実際にリパトリエーションの動きが本格的に生じているのかどうかは定かでなく、いたずらに3月下旬のドル/円の戻りに期待するわけにも行きません。何より、市場で再びドル買いの圧力が強まるかどうか、それを正当化するだけの材料が揃ってくるかどうかということが肝心でしょう。
目先のことを言えば、やはり明日(10日)行われるECB理事会の結果や理事会後のドラギ総裁の会見内容が大いに注目されます。下図でも確認できるように、ユーロ/ドルは2月12日以降、急激に下値を切り下げ、3月2日に一旦底入れしてからは一定の戻りを試す動きとなっています。これは、3月のECB理事会における追加緩和実施の思惑が市場で強まったことに伴うユーロの急落と、下げ過ぎの反動によるリバウンドの動きと捉えられるわけですが、ある程度想定される追加緩和の実施については「すでに相場が織り込んでいる」と見る向きもあります。
振り返れば、昨年10月22日に行われたECB理事会後の会見でドラギ総裁が次回12月の理事会における追加緩和の実施を強く示唆し、後にユーロ/ドルは大幅に下値を切り下げる展開となった(上図参照)ものの、12月3日のECB理事会において打ち出された追加緩和の内容は市場を大きく失望させる結果となり、これを受けてユーロ/ドルが急反発するといった出来事がありました。
果たして、明日のECB理事会で決定される追加緩和の内容は、対ユーロでのドル買いを強く押し進めるものとなるか否か、いたずらに予断を持つことなく冷静に見定め、適切に対応することが求められます。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役