先週3日、欧州中央銀行(ECB)理事会は追加の金融緩和に踏み切ることを決めたわけですが。市場はその内容が極めて不十分であると捉え、即座にユーロを急激に買い戻すという"失望"の反応を見せることとなりました。結果、発表直前まで1.0500ドル台前半の水準まで下押していたユーロ/ドルは、一転、大きく反発して一時1.0981ドルまで値を戻すこととなりました。

それだけ市場の失望は大きかったということですが、それは事前にドラギECB総裁が市場の期待を煽りに煽り、市場が素直に期待を大きく膨らませてしまったことによります。もちろん、同じ理由で事前に投機筋のユーロ売り越しが大きく積み上がり、それが一気に巻き戻されたことも戻り幅を大きくした理由としては大きいでしょう。

とにかく、今回は猛スピードで一気にユーロ売りが巻き戻されましたから、おそらく投機筋によるユーロの売り越しも急激に縮小しているものと思われます。その点は、週末発表されるシカゴ通貨先物取引市場のデータ(12月8日時点)で、しっかり確認しておきたいところです。また、一時的にも重要な節目の1つである1.1000ドル近辺までの戻りを見たことで、さすがに目先は一段の上値を追うことも少々ためらわれるところです。

下図でも再確認できるように、今年8月以降のユーロ/ドルは10月22日に行われたECB理事会でドラギ総裁が追加緩和実施の可能性を強く示唆するまで、暫く1.1100ドル近辺で強く下値がサポートされていました。ところが、10月23日に同水準を明確に下抜けてからは同水準がむしろ上値の抵抗となり、その後は下落の一途を辿ることとなりました。

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11月末まで、ユーロ/ドルは上図にも示した「下降チャネル」内での推移を続け、最終的には1.0500ドル台前半まで下押しています。振り返れば、10月23日以降の下げ幅は8月24日高値(=1.1714ドル)から節目の1.1100ドルまでの下げ幅とほぼ同じ値幅になっており、1.0500ドル台前半の水準というのは当面の目標値の1つになっていたことがわかります。言い換えれば、1.1100ドルというのは今年8月以降のユーロ/ドル相場の「中心」になっていたということであり、今後も重要な節目として意識されやすいものと考えられます。

急騰後の値動きはやや調整含みとなっており、今週7日には一時1.0796ドルまで下押す場面がありました。これは先週3日の安値から同日につけた直近高値までの38.2%押しの水準にあたり、仮に今後同水準を下抜けた場合には、次に50%押し=1.0749ドル、さらに61.8%押し=1.0695ドルなどが意識されやすくなるものと思われます。つまり、大まかに行って1.0750ドルや1.0700ドルが当面の下値メドになるということです。

一方、当面の上値メドはまず直近高値=1.0981ドルが意識されやすく、同水準を上抜けると200日移動平均線(200日線)、89日移動平均線(89日線)などを試す可能性があるものと見られます。この200日線や89日線はやや強めの抵抗になるものと思われ、仮にそれらを上抜ける動きが見られたとしても、その上方には前述した1.1100ドルや一目均衡表の日足「雲」などの重要な節目があります。なおも、ドラギ総裁は追加の「追加策」があり得ることを匂わせており、再びユーロ売り優勢の展開となる可能性もあります。よって、当面の上値は自ずと限られてくるものと思われます。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役