昨日(11日)、住友生命が米中堅生保のシメトラ・ファイナンシャルの買収手続きを開始することについて、相手側と合意したことを正式に文書で公表しました。買収金額は約4666億円と巨額で、それを住友生命は手元資金で対応するとしています。買収手続きおよび完全子会社化は2016年第1四半期または第2四半期初めに完了する見込みです。
振り返れば、今年2月には第一生命、7月には明治安田生命がともに米国の生命保険会社およびグル―プを買収すると発表しました。いずれも6000億円前後の規模となる大口の案件です。また、損保業界では6月に東京海上ホールディングスが米保険会社HCCインシュアランス・ホールディングスの買収を発表し、その買収額が9000億円を超えるとの報に驚かされました。
このように昨今は、国内より高い成長が見込める海外市場の開拓に向け、国内の大手生命保険や損害保険各社による海外M&A(合併・買収)の動きが加速するとともに、それぞれの案件が大型化してきています。これは、人口減少によって国内における保険料収入の大幅な伸びが見込みにくいため、各社がこぞって成長の源泉を海外に求めているが故です。
総務省が7月1日に発表した住民基本台帳に基づく人口調査によりますと、2015年1月1日現在の日本人の総人口は、前年同期より27万1058人も減少し、6年連続で総人口が前年割れになりました。このような状況を背景に、日本の大手金融機関が1ドル=120円台まで円安が進んでもなお、海外事業の拡大に社命を賭けようとするのは無理もないことであり、今後も一段と海外M&Aの動きは加速して行くものと考えられます。
前記の東京海上ホールディングスの例で言いますと、実に1兆円近くにも上る巨額な買収資金の大半が豊富な手元資金で賄われる見込みであり、結果としてそれは同規模の円売り・ドル買い需要を今後発生させることにつながります。同様の事例がこれからも相次ぐこととなれば、それは潜在的かつ非常に大きな円安・ドル高要因として意識されなければならないでしょう。
同時に、最近は国内大手金融機関に限らず、広い業種に渡る国内事業会社の手によって大型の海外M&Aが進められていることも見逃すことはできません。実際、7月には日本経済新聞社がメディア業界では過去最大規模となる英フィナンシャル・タイムズ・グループの買収を発表しました。2015年1―6月の日本企業による海外企業の買収額は前年同期6割増の約5兆6千億円と、1―6月としては過去最高の水準になったといいます。景気回復に伴う業績改善で各企業の投資余力が高まっていることも大きな要因です。
当然のことながら、7―12月においても足下の勢いが継続すれば海外企業の買収は「通年で過去最高水準」となる可能性が高く、年間トータルでは10兆円を超える規模となる可能性もあるのです。換言すれば、年間で10兆円規模の円売り・外貨買い需要が発生するといった可能性があるわけで、これは足下の趨勢的な円安傾向の行方を推し量るうえにおいても大きな意味を持つ材料であると言わざるを得ません。
目下のドル/円相場は、FRBが利上げに踏み切る時期を見定めるべく様子見ムードが色濃い状況となっています。実際に利上げとなれば、それに相前後して一旦はドル/円の上昇がピークアウトし、一時的な調整局面を迎える可能性もあるでしょう。しかし、それでも"趨勢的"に円安・ドル高の大きな流れは今後も変わらないものと考えられます。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役