依然としてドル/円は、上値が重い一方で下値も相当に堅いという方向感の見出しにくい展開を続けています。もちろん最大の要因は、約10年ぶりとなる米利上げの時期に関して市場の見方が大きく分かれていることにあると言えます。なにしろ、なおも「6月が適当」とする向きがあるかと思えば、なかには米ミネアポリス地区連銀のコチャラコタ総裁のように「16年の下期まで遅らせるべき」とする向きさえあるのです。
今年1―3月期が記録的に厳しい気候だったことで、目下は一時的にも米国経済の先行きに対する期待や自信が少々萎えてしまっている部分もあるでしょう。だからこそ、ここはなおさらベースの部分で本来の大きな流れを再確認しておくことが肝要と思われます。もちろん、そのためには雇用や消費、製造など多方面での現状把握が必要となりますが、今回はあえてイエレンFRB議長が「想定したようには回復していない」とする「住宅」に絞って考えてみることにしましょう。
14年10月、シカゴで開催された住宅関連の会議で、FRB前議長のバーナンキ氏は「ここだけの話だが、最近、住宅ローンの借り換えをしようとしたら、うまくいかなかった。本当の話だ」と打ち明けました。実に衝撃的な話です。FRB前議長が借り換えできないほど米銀の与信条件が厳しいなら、一体だれが住宅ローンを借りられるというのでしょう。実際、バーナンキ氏も「少し厳しくし過ぎている可能性は十分にあると思う」、「1次取得者向けの住宅市場はあるべき姿になっていない」との認識を示していました。
これは、今からわずか数か月前の出来事です。結果、近年の米国では多くの人々が持ち家の取得にこぎつけられず、やむなく賃貸住宅への入居を選択しています。だからこそ下図に見るように、目下の米国では賃貸住宅の「空室率」がみるみる低下しているのです。
言えることは、一つに賃貸住宅の需給が非常にタイトになっていることから、当面は賃貸住宅建設の堅調な需要を見込むことができ、関連の業種や業者は潤うであろうということです。そして何より、あまりに厳しくなり過ぎている米銀の与信条件が今後、段階的にも緩和されれば、もともと持ち家のニーズは高いわけですから、米国の住宅市場は一段と活性化するだろうということです。
実際、すでに変化は始まっています。米国の銀行を監督する通貨監督庁が14年12月に発表した信用引受活動調査によると、「貸出基準を緩和した」銀行の割合から「貸出基準を厳格化した」銀行の割合を差し引いて計算される貸出基準DIは、企業向け、個人向けともに緩和超を示すプラスの値を示したことが確認されています。
住宅ローンだけに関して言えば、規制強化の影響でDIそのものは低下しましたが、貸出額および貸出残高は14年に入って前年比プラスに転じました。「バーナンキ氏に指摘されたから」ということもないのでしょうが、米景気の回復度合いに応じて今後は米銀に対する規制措置や保護措置の適当な調整もなされるでしょう。また、近年は米国で事業展開する海外の銀行による米住宅ローン市場への攻勢も見る見る強まってきています。
これまで"ワケあって鈍かった"米住宅市場の動きが活発化してくると、いよいよ「利上げの時期も近い」ということになるものと思われます。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役