前回の本欄で、ドル/円の12月16日安値=115.57円について「ここは押し目買いの好機となる可能性がある水準」と述べました。実際、ドル/円は同安値を底に切り返し、足下では再び120円台に乗せる動きとなっています。周知の通り、これは先週行われた米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果が、2015年中の初回利上げ実施をあらためて市場に強く意識させる内容であったことにもよると考えられます。
その一方で、昨日(23日)のNYダウ平均は、ついに終値で18000ドル台に乗せる動きとなりました。それもそのはず、先のFOMC後の会見でイエレンFRB議長は「少なくとも今後2回(the two scheduled meetings/1月、3月)の会合で正常化のプロセスをスタートさせることはあり得ない」と発言し、株価がもう一段の上値を追うことに一定の時間的猶予を与えることとなったのです。
本欄の12月3日更新分で触れたように、米利上げがいよいよ現実味を帯びるようになってくると一旦は株価が調整含みになる可能性が高いものと思われます。その意味で、目下はまだ初回利上げの時期が迫ってきているといった感覚に乏しく、結果的に市場は先のFOMCにおける声明文やイエレン議長発言の内容を「いいとこ取り」する格好となっています。言わば、FRBから一足早いクリスマス・プレゼントが市場に届けられたわけです。
もちろん、昨日の米株高・ドル高は同日発表された米7-9月期GDP確定値が市場予想や改定値を大きく上回る結果(前期比年率+5.0%)と、約11年ぶりの高い伸びになったことにもよります。もっとも、これは数カ月も前の過去のデータであり、市場が過度にこれを好感したのは、クリスマス&年末年始に特有のムードが醸し出した部分も少なからずあるのかもしれません。その意味で、一時的な楽観ムードが色褪せた後、相場が一旦調整含みとなる可能性については今後も警戒を怠れないものと思われます。
むしろ、昨日発表された複数の米景気指標のなかでは、米ミシガン大消費者信頼感指数の方がより重要と考えていいでしょう。12月の確報値は93.6と、速報値の93.8には及ばなかったものの、11月の88.8、10月の86.9などに比べて着実に水準が切り上がってきていることは見逃せない事実と言えます。同数値がジワリ上昇してきているということは、それだけ米国の消費マインドが改善傾向を強めているということです。ただ、いまだリーマン・ショック以前の水準よりは低水準にあり、今後一段の上昇が期待されます。
実のところ、消費マインドというものは予想される所得上昇率から予想されるインフレ率を差し引いた「予想実質所得上昇率」の動きと強く結びついているとされます。このところの米国では予想インフレ率が安定的に推移している一方で、徐々に予想所得上昇率が上昇してきています。よって今後、一段と米失業率が低下するなど雇用情勢の回復傾向が強まれば、それに伴って予想所得上昇率は一段と上向きになり、結果として予想実質所得上昇率も上向きになる=消費マインドが一層改善されることが期待されるわけです。
消費マインドが改善されると、前記のミシガン大消費者信頼感指数は一段と水準を切り上げることとなり、その結果、米GDP成長率に対する個人消費の寄与度は高まります。もちろん、それによって米GDPの実質的な伸びは安定的に高まることとなり、その数四半期分のデータなども参考にしてFRBは初回利上げの実施を決定して行くことになるのです。したがって、今後も米国の各種経済指標の相関関係を勘案し、初回利上げのタイミングをうかがいながら、相場と向き合って行くことが重要であると思われます。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役