前回更新分の本欄では、ドル/円の現在水準と5年移動平均線とのかい離率に注目し、その水準が過去最高を記録した98年7月の+31%に迫るものとなっていることから、ここもとの円安・ドル高のペースはあまりにも早く、相場は「上がり過ぎ」と判断される可能性があると述べました。その後、ドル/円は一時的にも118.98円まで上伸し、その時点における5年移動平均線とのかい離率は、月中の瞬間風速ながら過去最高レベルに肩を並べました。そして、その時点を境に現在までドル/円はやや調整含みの展開となっています。
目下は、先週21日安値の117.35円あたりで下値が支えられていますが、このまま天井圏でのもみあいが続くと、一旦は目先筋がドル/円の買いポジションを解消してくる可能性もあり、そうなると先週18日安値の116.34円や17日安値の115.45円あたりまで、目線が下がってくる可能性もあります。現在、足下で発表される米経済指標は強弱まちまちとなっており、少々強めの結果が出てもドル買いの反応は限られたものとなっています。
ドル買いの勢いが一服となるなか、足下でユーロ/ドルの下げに歯止めがかかっていることも見逃せません。先週21日に、ドラギECB総裁が早期の追加緩和に前向きなコメントを発したことで、週明け24日の朝方にかけてユーロ/ドルは一時1.2361ドルまで値を下げる展開となりましたが、結局は11月7日安値=1.2358ドルにほぼ顔合わせしたところで下げ止まり、以降はやや値を戻す動きとなっています。
言うまでもなく、目下最大の焦点は12月4日の次回ECB理事会において果たしてどのような決定が下されるのかということでしょう。振り返りますと、前回のECB理事会では声明文においてECBのバランスシート拡大に関する「規模」が明示され、その内容を受けてユーロ/ドルは大きく値を下げる展開となりました。その規模が「12年3月の規模」と明示されたことは、市場に強いインパクトをもたらします。12年3月の規模というのは大よそ3兆ユーロであり、足下のECBのバランスシート残高が2兆ユーロを少し超えたぐらいですから、あと1兆ユーロほどの規模拡大を図るということになります。
あと1兆ユーロということになりますと、すでにECBが打ち出している資産担保証券(ABS)の買い取りや的を絞った長期資金供給オペ(TLTRO)などの緩和手段だけでは目標に到達しないものと考えられ、当然、市場では「いよいよECBが国債の買い入れに踏み切る」との期待が大いに高まります。ただ、目下の市場の期待は少々先行し過ぎているとの見方もあり、その点は少し慎重に見て行く必要もあるものと思われます。
少なくとも12月4日のECB理事会で国債の買い入れに関する決定が下されることはなさそうであり、まずは12月11日に第2回が予定されるTLTROの利用状況やABS購入などの効果を確認しながら、次に社債の購入を検討・実施して行くといった段階的な取り組みになる可能性が高いでしょう。結果、国債の買い入れが決定にまで至るのは年明け以降のことになると見られ、そのことと市場の「期待」との間に多少のズレが生じることは避けられないものと思われます。
これまでに市場は、ECBによる国債の買い入れをも含めたかなりの部分を織り込んできたものと考えられます。ある識者曰く「日銀の追加緩和がECBの行動につながると考えるのは短絡的だ」。長い目でユーロ/ドルに下げ余地があると思われますが 、目先は市場のアテが外れて下げ渋る、あるいは一旦多少の戻りを試す可能性もあり、ここは慎重にECBの出方を見定める必要があると言えるでしょう。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役