昔シカゴにオコーナーと云う優れたトレーディング・ハウスがありました。オコーナーでは大勢のトレーダーに毎日マーケットの中でトレーディングをさせていて、それが本業だったのですが、ひとつ大変面白いことが行われていました。それは、トレーダーのポジションは全て毎日マーケットが閉じた後に会社が召し上げてしまい、翌朝トレーダーがデスクにつくと、前日に行った取引に一切影響されることなく、心理的にもまっさらな状態からまたトレーディングをさせていたのです。召し上げたポジションは多くの入り食いもあり、残りは専門の担当者が淡々と相場観を持たずに処理をしていました。

ひとりのトレーダーのポジションやその持ち値なんて大きなマーケットの中では何の意味もありませんから、自らが前日に作ったポジションに判断を左右されることは非合理的です。頭では分かっても、中々そうは行かず、人は自らが下した判断に囚われるものです。この非合理性を排除することにより、オコーナーは優れた成績を残していました。

オコーナーはその後当時のSBC(スイス銀行)に買収され、しかしそのマーケット部門の中枢はオコーナー出身の人たちが押さえたと云われ、やがてSBCは当時のUBSに買収されて、新しい今のUBSになった訳ですが、その当初もやはりオコーナーの残党は重要なポジションを務めたと聞いています。小さい会社であったオコーナーは、その優れた考え方と実践から、後々まで大企業に大きな影響力を持ったのです。

フォルクスワーゲン(VW)とポルシェは、同様に規模が全く違います。これら二社の場合は、VWの創業者がそもそもポルシェ家だったり、今でもポルシェ家はVWの大株主だったり、ポルシェのトップから今回VWの新CEOとなったミュラー氏は元々VWのグループ企業であるアウディに就職し、VWの役員も務めて来ていたり、色々と事情が違います。しかしそれでも尚、今回の件を聞いて、ふとオコーナーのことを思い出しました。

強い社風で質を守ることは、とても重要で、力となることですね。