ネットか有人か。個人向け金融ビジネスの展開を考える時に、最近よく議論されるテーマです。それぞれの立場に、多くの理由があり、簡単には答えは出ません。一般に議論されるのは、アドバイスやコンサルタンティングが有人の方が効果的であるとか、ネットの方が自己責任原則が貫かれていいとか、そういったプロセスについての論点が多いようです。しかし私は、この問題は、個人向け金融ビジネスが提供すべき商品・サービスが多岐に亘るのか否か、という、プロセスではなくてプロダクトの問題ではないかと思うことがあります。
アマゾンと町の本屋の最大の違いは、売れ筋以外の本の販売量が、アマゾンの方がずっと多いのではないかと考えています。これは聞いた訳ではなく、あくまでも想像です。営業にコストの掛かるモデルでは、少数種を大量に販売することが、ビジネスとして合理的です。ネットを使ったモデルでは、多数種を扱う営業コストが極端に低くなるので、そういう非売れ筋を大量に恒常的に案内することが可能になります。所謂ファット・テールの理論であり、ネット・モデルの方が、商品分布が、非売れ筋方向に厚く長く流れるということです。
私は、個人向け金融ビジネスは、各人に合わせた商品・サービスを提供するべきだと考えているので、直感には反しますが、だからこそネット・モデルの方が優れていると考えています。そしてそのことを実証するために、これからもっともっとサービスを幅広くして展開していく決意です。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。