2024年の米ドル/円を振り返る
2024年の米ドル/円は過去2年の高値を大きく更新、7月に161円まで上昇したが、その後は9月にかけて139円まで急落した。最大値幅は、139~161円と20円余りだが、1月から7月にかけて140→161円、そして7月から9月にかけて161→139円と20円程度の値幅を往復したわけで、累計すると40円を越えるレンジにおける大荒れの展開になったと言ってよいのではないか(図表1参照)。
2024年の米ドル/円の値動きに52週MA(移動平均線)を重ねて見ると、9月にかけて139円まで急落したところで、52週MAを大きく、長く割れるところとなった。その後11月の米大統領選挙にかけて52週MAを上回ったものの、これまでのところ1ヶ月半程度で再び52週MA以下に戻る動きとなっている(図表2参照)。
2025年、米ドル上値目途の考え方
このようなプライス・パターンは、経験的には米ドル高・円安トレンドが7月の161円で終了し、複数年続く米ドル安・円高トレンドに転換した可能性が高いことを示唆している。そうであれば、2025年の米ドル/円は、基本的には上がっても52週MA(11月末時点で150.5円)を大きく越えられず、一段の下落に向かう可能性が高いと考えられる。
ただ気になるのが、2025年から始まる米トランプ政権の影響だろう。トランプ氏の経済政策は、大型減税や関税引き上げなど金利上昇をもたらす可能性が高いと見られている。米金利が上昇するにもかかわらず、2025年は継続的に米ドル/円が下落へ向かうことになるだろうか。
2017~2020年のトランプ政権1期目では、基本的な経済政策は今回と変わらなかったものの、米ドル高・円安とはならなかった。トランプ氏が2016年11月の大統領選挙で勝利すると米ドル/円は急騰し、「トランプ・ラリー」と呼ばれたが、ここで記録した118円という高値は、結局その後のトランプ政権の4年間で更新することはなかった(図表3参照)。では、それはなぜだったのか。
トランプ政権1期目で米ドル高・円安とならなかったのは、政権開始後はしばらく米金利低下局面が続いたこと、そしてその後、大型減税の議会成立を受けて米金利が上昇すると、今度はそれに耐えられず株価が急落と、トランプ氏の経済政策は必ずしも米金利や米国株を通じて米ドル高をもたらすことにならなかったためだ。
すでに述べたように、トランプ政権1期目においては、正式に政権がスタートする前、「トランプ・ラリー」で記録した118円が結果的に高値となった。これは5年MAを13%程度上回るものだった。一方で、今回の大統領選挙でのトランプ氏勝利後の米ドル/円の高値は、これまでのところ156円で、5年MAを20%程度と大きく上回っていた(図表4参照)。
現在の米ドル/円は、名目水準も5年MAとの関係でも、トランプ政権1期目よりかなり高い水準にある。その意味では、政権1期目ですらなかった米ドル高・円安が起こる可能性は、今回もやはり低いのではないか。
2025年、米ドル下値目途の考え方
次は、2025年に米ドル/円の下落トレンドが続いた場合の下値の目途について考えてみる。この場合に鍵になるのは、「強すぎる米景気」の行方ではないか。
米ドル/円は2022年に150円を超えるまで上昇した後、2023年1月にかけて130円割れまで反落したものの、その後は下落が限られる中、この2024年にかけて上昇トレンドが続いてきた。その最大の要因は、予想以上に強い米景気が続いたことだろう。
2022年以降、FRB(米連邦準備制度理事会)は約40年ぶりの本格的なインフレへの対策として、大幅な利上げを行った。その影響で米景気がどこまで減速するかが、2023年以降の大きなテーマの1つとなったが、結果的には米景気の回復が続いた。
これを受けて米金利の低下が限られ、例えば日米の長期金利、10年債利回り差米ドル優位は3%を大きく下回るところとならず、そうした中で米ドル安・円高への戻りも限られたということだろう(図表5参照)。さらに2024年は、絶対的に大幅な金利差円劣位に便乗した投機的な円売りが急増し、金利差変化からかい離した一段の米ドル高・円安が起こった。
以上のように見ると、2025年に米ドル安・円高トレンドが展開した場合でも、それがどこまで進むかは「予想以上に強い米景気」の行方が鍵になるだろう。これを日米10年債利回り差で考えると、金利差米ドル優位が3%を大きく下回るかが目安だろう。そして、そのためには、米10年債利回りが3.5%を割れて低下することが必要になりそうだ。
2025年に米ドル安・円高トレンドが展開したとして、それが130円割れに向かうか、それとも135円すら割れない程度にとどまるかは、「強すぎる米景気」が続くか、その上で米10年債利回りの3.5%割れの有無が目安になると考えている(図表6参照)。今の時点で、2023年以降予想外だった「強すぎる米景気」の終了の確信には至らないので、米ドル/円の2025年の下値は135円程度と予想する。