金利の低さからキャリー通貨として選択されてきた「円」
「キャリートレード」とは金利の低い通貨で資金調達し、金利の高い通貨で運用して利ザヤを稼ぐ手法です。この時、調達通貨を「キャリー通貨」と呼びます。
2024年7月、米ドル/円相場で161.95円まで円安・米ドル高が進行した際は、ヘッジファンドら投機筋の「キャリートレード」による通貨先物市場の投機ポジションが過去最大水準にまで膨張しました。5月以降、日米金利差は縮小に向かっていたにも関わらず、米ドル/円相場は7月まで上がり続けたのです。
キャリートレードは先物市場に限った取引ではありませんが、レバレッジの掛かった先物市場のポジション増減は一定の指標性を担保しています。
円がキャリー通貨として選択されてきたのは、円金利が低かったためです。しかし、日銀は2024年3月にマイナス金利を解除し、7月に追加利上げを決めました。この7月の追加利上げ時に、円キャリートレードは盛大に逆流し(円買い米ドル売り)、米ドル/円相場は140円割れまで円高となりました。
トランプラリーでドル金利が上昇すると、円キャリートレードが再開されましたが、盛り上がりに欠け、なんと足元最新のデータ(12月7日週)では投機筋の円キャリーポジションは全て解消され、逆にわずかではありますが2,300枚のネット円ロングとなっています。円キャリートレードは終焉してしまったのでしょうか。
政策金利を引き下げ続けているスイス中央銀行
円に代わってキャリー通貨となっているのが「スイスフラン」です。12月7日週の最新の投機筋のポジションは4.1万枚のネットフランショート。スイスフランキャリーは足元積み上がるモメンタムにあります。なぜでしょうか?
12月12日、スイス中央銀行(SNB)は政策金利を0.5%引き下げ0.5%にしました。スイス中銀はインフレ鈍化に伴い、政策金利をピークの1.75%から4会合連続で引き下げています。シュレーゲル・スイス中銀総裁は、引き続き金利を引き下げる余地はあるとしており、政策金利は0%前後に向かう可能性もあります。12月18、19日の日銀金融政策決定会合での利上げは見送られるとの観測が強まっていますが、日本は中立金利の下限とみられる1%近い水準までの利上げが予想されています。
現時点で日本とスイスの政策金利差はわずか0.25%です。政策金利の先行きを織り込む2年債利回りは、現在スイスが0.25%台まで低下していますが、日本の金利は0.57%前後まで上昇しており、日本とスイスの金利は逆転しています。
短期金利はすでにスイスよりも日本の金利のほうが高い。これが円キャリートレードからスイスフランキャリートレードへと市場のファッションを変化させたものと考えられます。
以上の理由から、投機筋による円売り圧力は今後盛り上がらないと考えられ、2025年米ドル/円相場が再び161円台を目指す可能性はあまり高くないと考えています。