2026年10月2日(金)日本時間21:30発表
米国 2026年9月雇用統計、他
【1】結果:雇用者数は市場予想を下回る2.9万人増、過去2ヶ月分も下方修正
2026年9月の非農業部門雇用者数は前月比2.9万人増となり、市場予想の9.0万人増を下回りました。また、7月分は前月比2.1万人増から1.0万人減へ、8月分は16.2万人増から13.3万人増へそれぞれ下方修正され、2ヶ月合計の修正幅はマイナス6.0万人となりました。
非農業部門雇用者数の前月比3ヶ月移動平均値は、7~9月平均で5.1万人増となりました。前回公表時の6~8月平均は7.1万人増でしたが、今回の改定で5.1万人増へ下方修正されており、改定後の前月値との比較ではおおむね横ばいでした(図表1-1)。
内訳を見ると、民間部門の雇用者数は前月比4.6万人増となり、前月の8.9万人増から増加幅が縮小しました。財生産部門は1.8万人増、民間サービス部門は2.8万人増となりました。一方、政府部門は1.7万人減と、前月の4.4万人増から減少に転じました。
業種別では、医療・社会扶助が2.3万人増、建設業が1.1万人増、娯楽・ホスピタリティー業が1.0万人増、製造業が0.9万人増となりました。一方、情報産業が1.0万人減、専門・ビジネスサービス業が0.9万人減、金融業が0.7万人減となりました(図表1-2)。
失業率は4.2%と、前月の4.1%から0.1%ポイント上昇しました。小数点以下第2位までの数値では4.17%と、前月の4.14%から0.03%ポイント上昇しています。労働参加率は61.8%と、前月から0.2%ポイント上昇し、就業率は59.2%と、同0.1%ポイント上昇しました。両指標とも2ヶ月連続の上昇となりました。
家計調査では、就業者数が前月から40.6万人増加した一方、労働力人口は48.5万人増加しました。失業者数は7.8万人増の710.9万人となりました(図表2-1、図表2-2)。
【2】内容・注目点:8月の上振れは持続的な加速につながらず、雇用創出は低いペースに
今回の雇用統計では、9月の雇用増加数が2.9万人にとどまったことに加え、7・8月分が合計6.0万人下方修正されました。8月の雇用増加数は13.3万人と比較的大きな伸びを維持したものの、7月の雇用増加数は1.0万人減にへ改定されています。前月の上振れを、雇用創出ペースの持続的な加速と評価することは難しくなりました。
ここで重要なのは、単月の減速と、過去分の改定による基調判断の変化を分けることです。前回公表時点では6~8月の雇用増加数は月平均7.1万人でしたが、今回の改定を反映すると約5.1万人となります。一方、9月を加えた7~9月平均も約5.1万人で、改定後の6~8月平均とほぼ同水準です。つまり、9月に雇用の基調が急速に悪化したというより、夏場の雇用創出が当初考えられていたほど強くなかったことが、今回の下方修正によって明らかになったと捉えられます。
もっとも、雇用増加ペースが低いことだけをもって、労働市場の悪化を判断することも適切ではありません。前号で確認した通り、移民流入の減少や高齢化によって労働供給の伸びが鈍化する中では、失業率を安定させるために必要な雇用増加数も小さく少なくなります。従来より少ない雇用増でも、労働需給が大きく緩まない状態は続き得ます。
ただし、このブレークイーブン雇用者数は、失業率を安定させるための目安であり、実際の雇用増加数の上限ではありません。また、今回の下方修正だけで、雇用の伸び悩みが労働供給の制約によるものか、企業の採用需要の弱さによるものかを特定することもできません。
その点で、雇用者数と併せて確認したいのが賃金です。9月の平均時給は前月比0.1%増、前年同月比3.0%増にとどまりました。雇用増加が伸び悩む一方で、賃金の上昇が加速している状況ではなく、深刻な人手不足による供給制約だけで今回の結果を説明することは難しいと考えられます。
今回の結果は、労働市場が急速な悪化局面に入ったことを示すものではありません。一方、8月の堅調な強い結果を受けて意識された雇用の再加速も、現時点では確認できず、やはり移民減少などを背景に現在は構造的に労働市場が拡大しにくいづらい環境と言えそうです。労働供給の伸びが低い中、雇用者数創出は小幅な増加にとどまり、単月の上振れが持続的な加速にはつながりにくい状況が続いていると評価します。
【3】所感:利上げ観測は後退も、長期金利の高止まりが景気の重荷に
今回の雇用統計は、FRB(米連邦準備制度理事会)が追加利上げを急ぐ必要性を低下さ弱めせる内容だったと考えられます。雇用者数の伸びが市場予想を下回り、過去分も下方修正されたことに加え、賃金上昇率も鈍化しました。雇用・賃金の動向からは、労働市場の過熱を抑えるために金融引き締めを強める根拠は乏しくなっています。
もっとも、追加利上げ観測の後退が、家計や企業の資金調達環境の改善に直結するわけではありません。利上げの見送りは金利負担の一段の増加を回避する材料ですが、既存の負担を引き下げる利下げとは効果が異なります。また、住宅ローンや企業の長期資金調達に影響する長期金利は、政策金利の見通しだけで決まるものではありません。
実際、雇用統計が発表された10月2日の米国債利回りは、前日比で2年債が3.3bp、5年債が4.3bp、10年債が3.0bp、30年債が0.7bp上昇しました。10年債利回りは5.271%、30年債利回りは5.620%となり、弱い雇用統計が公表されたにもかかわらず、日も、長期金利の低下にはつながりませんでした(図表5)。この前日比には雇用統計以外の材料も含まれるため、雇用の弱さ自体が金利上昇を招いたと解釈することには注意が必要ですが、短期ゾーンの利回り上昇をみると、市場は今回の結果による利下げ期待には懐疑的とも言えます。
長期金利には、将来の政策金利への予想に加え、長期間にわたり債券を保有するリスクに対するへの上乗せ金利である「タームプレミアム」が反映されます。このため、目先の利上げ観測が後退しても、先々のインフレや国債需給への警戒が残れば、長期金利は下がりにくくなります。今回の金利変化だけで要因別の寄与は判断できませんが、少なくとも追加利上げへの警戒緩和が、幅広い年限の金利低下に結びついた状況ではありません。
長期金利が高い水準にとどまれば、住宅購入や企業の設備投資に伴う資金調達コストも下がりにくくなります。既存の固定金利借入への影響は限られる一方、新規借入や借り換えを通じて、高金利の負担が徐々に広がる及ぶ可能性があります。雇用創出ペースが低い中でこうした負担が続けば、需要や企業の採用意欲を抑える要因となるでしょう。
今後は、雇用の弱さが追加利上げを見送る判断につながるかに加え、物価上昇圧力の緩和によって長期金利も低下するかが焦点となります。利上げ観測の後退は安心材料ですが、それだけで金利を通じた景気下支えが強まったとは評価できません。実体経済への影響を捉えるうえでは政策金利の見通しとともに、家計や企業が実際に直面する市場金利の水準を見極める必要があると言えるでしょう。
マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 山口 慧太
