日本の個人投資家のバイブルとなっている『株式投資 長期投資で成功するための完全ガイド』の著者であるジェレミー・シーゲル氏とマネックス証券のチーフ・外国株コンサルタントのハッチこと岡元兵八郎の対談を4回にわたってお届けします。初回は、「ジェレミー・シーゲル教授が語る長期投資の本質」をお届けします。
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シーゲル氏はなぜ株式市場に魅了されたのか、『Stocks for the Long Run』誕生秘話
少年時代にウォール・ストリート・ジャーナルの株価チャートに興味を持った理由
岡元:シーゲル教授、本日は実際にお目にかかれて大変光栄です。お時間をいただき、ありがとうございます。
シーゲル教授:こちらこそ、ありがとうございます。
岡元:まず、教授ご自身の歩みについてお伺いしたいと思います。教授はどのようにして株式市場に関心を持つようになったのでしょうか。あるいは、こうお聞きしたほうが良いかもしれません、先生が株式市場に魅了されたきっかけは、何だったのでしょうか。
シーゲル教授:父は金融業界の人間ではなく、建設関係の仕事をしていましたが、1950年代に「ウォール・ストリート・ジャーナル」を家に持って帰ってきたことがありました。その最後のページに、ダウ平均の値動きを示すチャートが載っていました。その時、私は「ダウ平均は何によって、上げたり下げたりするのだろう」と思い、とても魅了されました。
もともと数学が得意で、グラフや数字にも惹かれていました。そして、「何が株式市場を動かすのか」という謎が、その後の人生を通じて、ずっと私の中に問いとして残り続けたのです。
『Stocks for the Long Run(株式投資 第6版 長期投資で成功するための完全ガイド)』を執筆した理由

岡元:先生のご著書『Stocks for the Long Run(株式投資 第6版 長期投資で成功するための完全ガイド)』は、日本でも「長期投資のバイブル」として読んでいる投資家が多い本です。この本を執筆されたきっかけは、何だったのでしょうか。
シーゲル教授:実は、非常に興味深い経緯がありました。1980年代半ばに、同僚とともに、ニューヨーク証券取引所の200周年に合わせたプロジェクトに参加する機会がありました。その際、私は「株式の歴史的なリターンを調べてみよう」と考え、同僚は制度や政策面の分析を担当することになりました。
そこで私は、株式の歴史的リターンについて調査を進め、できる限り過去にさかのぼってデータ系列を集めていきました。その研究成果をもとに複数の学術論文を執筆し、それらは学術誌にも掲載されました。
ところが、最終的にその本の執筆段階になったとき、ニューヨーク証券取引所からは、「内容は素晴らしい。ただ、資料が多すぎる」と言われたのです。そこで、膨大な研究成果のうち、ごく一部だけを本に盛り込むことになりました。
知識のある一般読者が「その次に読むべき一冊」として取り組んだ著書
シーゲル教授:同僚が私にこう言いました。「ジェレミー、この研究は本当に素晴らしい内容だ。君が発見した長期リターンについて、ぜひ自分の本を書くべきだ」 私は、その提案は非常に良いアイデアだと思いました。
当時、多くの人から、「シーゲル教授、バートン・マルキールの『ウォール街のランダム・ウォーカー』を読みました。次に何を読めばよいでしょうか」と聞かれていました。あの本は、まさに古典です。今では第20版くらいになっていると思います。そこで私は、「その次に読むべき一冊」になる本を書きたいと思いました。
つまり、投資について基本的な理解を持った人が、さらに一段上のレベルを目指すための本です。
もちろん、内容はかなり充実したものにしたいと思っていました。
ですから私は、初心者向けでもなく、専門家だけに向けたものでもない、「知識のある一般読者」のための本を書きたいと思ったのです。読者は、プロである必要も、学者である必要もありません。
ただ、投資や市場について、もっと深く知りたいという知的好奇心を持った一般の読者。そういう方々のための本を書きたいと思いました。
実際、この本は、全米の多くの株式投資関連の授業で、教科書としても使われています。出版社からも頻繁に連絡があり、「今度は、この国で出版したいという話が来ています」といった報告を受けています。現在では、少なくとも10ヶ国語以上に翻訳されています。多くの方に読んでいただく機会が広がっていることを、とても嬉しく思っています。
米国株はなぜ世界をアウトパフォームしてきたのか
マグニフィセント7がもたらした近年の超過リターン
岡元:米国株式市場は、長期で見ると、多くの国の株式市場をアウトパフォームしてきました。教授は、その最も重要な要因は何だったとお考えでしょうか。
シーゲル教授:これは非常に興味深い点です。実は、ここ10年ほどを除けば、米国市場が他国を圧倒的にアウトパフォームしていたわけではありません。
ディムソン、マーシュ、スタントンという3人の英国人研究者による、『Triumph of the Optimists』という有名な研究があります。彼らは、およそ25ヶ国を対象に、100年間にわたる株式リターンを分析しました。その中で、米国は3位か4位くらいでした。つまり、世界全体と比べて、米国だけが突出して優れていたわけではなかったのです。
ところが、この10年で、米国市場は他国を大きく引き離しました。私は、その最大の理由は、大型テクノロジー企業の台頭にあると考えています。米国で「マグニフィセント7」と呼ばれている企業群です。
「アメリカ例外主義」の源泉とは
岡元:「アメリカ例外主義(American Exceptionalism)」ついてお聞きしたいと思います。私は今でもその力を信じていますが、一方で、米国は深刻な課題にも直面しています。政治的分断、巨額の政府債務、不平等、地政学的不確実性などです。教授は、株式市場における「アメリカ例外主義」は今でも存在するとお考えですか。また、今後も続くと思われますか。続くとすれば、何がそれを支えるのでしょうか。
シーゲル教授:私は「アメリカ例外主義」の根源には「自由」があると思っています。特に、人々が既存の考えや権威に対して疑問を投げかけることができる「自由」です。つまり、「私はあなたの考えが正しいとは思わない。こちらのやり方の方が良いのではないか」と率直に意見を述べることができる文化です。
これは、会社の中で従業員が上司やCEOの判断に疑問を呈するという話にとどまりません。学問の世界にも及びます。実は日本に関して非常に興味深いエピソードがあります。10年か15年ほど前、私の上級クラスに日本人の学生がいました。彼が私のところに来て、日米の教育の違いについて話しました。彼は「学生が授業中に教授に異議を唱えるところがとても気に入っています」と言いました。私もそうしたやり取りを楽しんでいました。
すると彼は続けて「日本ではそういうことはほとんど行われません、有名な教授が黒板に何かを書き、それが正しくないように見えても、その場では指摘しません。後で、それが正しいかどうかを話すことはあるかもしれませんが、その場で指摘することはありません」と言ったのです。
私はこうしたやり取り、つまり議論を行ったり来たりさせることが、物事を疑問視する姿勢や、既成概念にとらわれない発想 (think outside the box)を育てると思っています。
また、アメリカには他の多くの国とは異なる考え方があると思います。特にアジアでは、社会的調和が重視されます。大企業が多くの人を雇用している場合、その雇用を破壊するようなスタートアップを始めることには抵抗があります。政府も、それに対して慎重に進めようとする傾向があります。
一方、米国では、私たちが「破壊的経済」と呼ぶものがあります。誰かが参入して、より良い価格で大企業を打ち負かすなら、私たちはそれを歓迎します。それが資本主義の挑戦です。挑戦、ダイナミズムです。そのダイナミズムと変化を受け入れる姿勢こそが、「アメリカ例外主義」の源泉の一つだと私は考えています。
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