モトリーフール米国本社–2026年8月16日 投稿記事より

量子コンピューティングの開発を専業とするイオンキュー[IONQ]は2026年7月末に、半導体受託生産企業(ファウンドリー)スカイウォーター・テクノロジーの買収を完了しました。約7億4,100万ドルの現金と約2,400万株の新株を対価として支払い、費用の総額は約18億ドルです。これは、イオンキューの時価総額約174億ドルの約1割を1社の買収に投じたことになります。

イオンキューが買収したのは、量子コンピューティング企業ではありません。スカイウォーターはミネソタ、フロリダ、テキサスに工場を持つ半導体ファウンドリーで、2025年の売上は約4億4,200万ドルでした。これは直近12ヶ月のイオンキューの売上高2億4,600万ドルの2倍に迫り、つまり、売上高で比べると、買収する側のイオンキューよりも、買収されたスカイウォーターのほうが大きな事業なのです。

では、なぜ量子コンピューティング企業が半導体製造事業を所有する必要があるのでしょうか。

スカイウォーター・テクノロジーの買収の条件

買収条件は当初2026年1月に発表され、7月後半に規制当局の承認を受けました。スカイウォーターの株主は1株につき15.00ドルの現金とイオンキューの株式0.4883株を受け取りました。新たに発行されたイオンキュー株は約2,400万株で、同社の発行済み株式の約6%に相当します。これは無視できない希薄化ですが、今回の買収がイオンキューの事業計画の中核を担うことを考えれば、無謀な水準ではないと考えます。

また、対価の現金部分は十分な余力がありましたが、買収に伴って実際に支払った総額は表面的な費用を上回り、3億1,500万ドルのスカイウォーターの債務返済や取引コストを含めると、約11億ドルに上ります。イオンキューには2026年6月末時点で30億ドルの現金・投資残高があり、買収後も約20億ドルが手元に残ると述べています。

買収案件では規模と同じくらい支払う対価が重要です。イオンキューは対価の大部分を、一般的な株価指標では現在の事業内容よりも極めて高く評価されている株式を利用して支払いました。高評価の株式を使って実物資産を購入するのは理論的に最も合理的であり、今回はまさにそれに該当します。

スカイウォーターを買収する理由、希少な量子半導体製造能力

スカイウォーターは米国に拠点を置くファウンドリーで、最先端のスマートフォン向けではなく、完成度の高い特殊プロセスで半導体を製造しています。同社の事業は顧客向けの半導体の量産を担う部門と、顧客専用のカスタム製造プロセスを開発する高度技術サービス部門に分かれ、後者では量子コンピューティング企業向けのプロセス開発も手掛けています。スカイウォーターは2025年末時点で、量子コンピューティング企業と商業ベースで8つの案件を抱えており、量子関連サービスの売上高は年間で30%を超える成長を遂げました。

もちろん、スカイウォーターの決算数値には注意すべき点もあります。2025年の売上高は前年比29%増でしたが、その大半は2025年半ばにドイツの半導体メーカー、インフィニオンからテキサス州の工場を買収したことによるものです。この工場の買収によって、2025年下半期に1億7,500万ドルが加わりました。

とはいえ、イオンキューは全く関係のない企業を買収したわけではありません。イオンキューが手に入れたのは、量子コンピューティングに必要な特殊な半導体の製造実績がある米国内でも数少ない工場の一つなのです。

この点は重要です。なぜなら、量子コンピューター向け製造設備は、非常に希少だからです。イオンキューの量子マシンはイオンを浮遊させ量子ビットとして操作する専用設計のイオン・トラップ半導体、光学技術、パッケージングに依存しています。これらは一般的な量産ファウンドリーでは優先度が低く、製造ラインを自社保有とすることで、自社の製造容量とスケジュールを直接管理することが可能になります。

量子コンピューティングの実用化へ、開発ロードマップを加速

イオンキューは今回の買収によって、量子ビットのエラーを自動的に検出・訂正しながら計算を続けるフォールト・トレラント量子コンピューティングの開発が加速すると述べています。具体的には、2028年に20万量子ビットを実装し、8,000個以上の高精度論理量子ビット(有用な計算作業を実行するエラー訂正後の単位)を可能にする量子プロセッサーの機能テストを開始し、200万量子ビットの半導体開発も最大で1年前倒しできると見込んでいます。ここでいう「機能テスト」とは、あくまで研究室で半導体が作動するレベルを指し、収益を生む商用ベースのシステムではない点には注意が必要です。

イオンキューのニコロ・デ・マジ会長兼最高経営責任者(CEO)は買収発表で、「この変革をもたらす買収により、イオンキューは量子コンピューティングのロードマップを大きく加速させ、国内に完全に拡張性のあるサプライチェーンを確保できる」と述べています。

これらはあくまで同社が掲げている目標であり、実現は数年先のことです。現時点で検証可能なのは、その土台となる事業の中身です。

成長加速の一方で赤字継続、量子コンピューティングの収益化はまだ先

イオンキューは2026年8月初め、第2四半期(4~6月期)の売上高が過去最高の8,010万ドル(前年同期比287%増)と発表し、通期売上ガイダンスを2億8,000万~2億9,000万ドルのレンジに引き上げました。商業ベースの顧客向けは、四半期売上高の約60%を占めています。経営陣は買収による上乗せを除いたオーガニックな成長率を年間で100%と見込んでいます。

一方で、同社は純利益ベースでは大幅な赤字が続いています。もちろん、ファウンドリーを買収すれば年間数億ドル規模の売上が加わります。しかし同時に、量子コンピューティングの画期的な技術進歩を前提として評価されている成長企業が、利益率が低い半導体製造事業を抱え込むことにもなります。

筆者は、今回の買収によってイオンキューはより「本物」の企業になると考えます。垂直統合によって自社で希少な量子半導体製造能力をコントロールできるため、そのコストも、約6%の希薄化と潤沢な現金支出にとどまることを考えれば、過大であるとは思えません。ただし、買収によって量子コンピューティング事業が収益を生み始める時期が早まるわけではありません。その時期は依然として数年先なのです。

免責事項と開示事項 記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者でありSparks Capital Managementのオーナー兼最高投資責任者(CIO)であるDaniel Sparksおよびその顧客は、記載されたどの銘柄の株式も保有していません。モトリーフール米国本社はイオンキューの株式を保有し、推奨しています。モトリーフール米国本社は情報開示方針を定めています。