日本の個人投資家のバイブルとなっている『株式投資 長期投資で成功するための完全ガイド』の著者であるジェレミー・シーゲル氏とマネックス証券のチーフ・外国株コンサルタントのハッチこと岡元兵八郎の対談を4回にわたってお届けします。
第2回は「S&P500の未来、バブルと割高相場をどう見極めるか」についてお届けします。
>> ジェレミー・シーゲル教授が語る長期投資の本質【第1回】
>> ポートフォリオの考え方、巨大テクノロジー企業の競争優位性はいつまで続くのか【第3回】(coming soon)
>> AI革命、そして次の10年、これから投資を始める人へのメッセージ【第4回】(coming soon)
S&P500の未来と長期投資家へのメッセージ
米国株の今後10~20年の期待リターンは実質5~6%
岡元:今後10年から20年という長期の時間軸で見た場合、米国市場、特にS&P500について、先生はどのような見通しをお持ちでしょうか。
シーゲル教授:私たちはこの10年、20年、30年にわたり、米国株式市場の非常に力強い上昇を経験してきました。1994年に出版した私の著書の初版でも述べたように、米国株の長期的な実質リターンは、歴史的に年率6.5%から7%程度でした。ただし、現在はPER、すなわち株価収益率が高い水準にあります。そのため、今後のリターンは過去の長期平均よりもやや低くなる可能性があります。
私は、今後の米国市場について、インフレ調整後の実質リターンで年率5%から6%程度を見込んでいます。これは、配当収益と値上がり益を合わせたトータルリターンです。10年から20年程度の長期で見れば、米国株はインフレ調整後で年率5%から6%程度の実質リターンをもたらす可能性があると考えています。
岡元:決して悪くないリターンですよね。
シーゲル教授:はい、十分に良いリターンだと思います。インフレ調整後の実質リターンで見ると、債券が2%に届くことはないでしょう。物価連動国債、いわゆるTIPSの利回りは2%弱ですし、通常の米国債も利回りは4%強です。仮にインフレ率が2.5%から3%程度だとすれば、実質リターンはやはり2%以下になります。つまり、株式は債券の2倍以上の実質リターンをもたらす可能性があるということです。
岡元:教授は、引き続き米国株市場に対して楽観的でいらっしゃるのですね。
シーゲル教授:はい。私は株式市場について、引き続き楽観的に見ています。長い強気相場の後ですから、今後のリターンは過去よりやや低くなるかもしれません。それでもなお、私は株式市場に対して楽観的な見方を維持しています。
市場タイミングを狙うのは長期投資家の敵
岡元:長い強気相場の後にやがて弱気相場が来るのではないかと心配する個人投資家もいます。長期投資を維持したまま、下落局面にどう備えるべきでしょうか。
シーゲル教授:弱気相場は必ず来るということを、受け入れなければなりません。また、弱気相場をタイミングよく避けようとしてはいけません。そこが多くの人が失敗するところです。
「市場が下がり始めた、売ろう」と考える人がいます。実際に、さらに下がる前に売り抜けることができるかもしれません。しかし、私の経験では、そういう人たちは市場に戻ってきません。戻ってくるまでに、結果的にもっと多くを失います。戻った時には、売った時より高くなっているからです。
タイミングをねらうことは、長期リターンを低下させる最悪な行動の一つです。ですから、弱気相場が来ることを受け入れる必要があります。そして、もし弱気相場というニュースの見出しを見た時に、余剰資金があるなら、その時こそ追加投資をする良いタイミングでしょう。私は、毎月100ドルずつ投資するようなプランが良いと思っています。そうしたドルコスト平均法は、資産形成に非常に有効な方法です。
米国株のリスクとは
岡元:先生の米国経済と米国株式市場に対する強気の長期見通しを、根本から変えてしまうような要因はありますか。どのようなリスクが、米国株式の長期シナリオを真剣に見直す要因になるのでしょうか。
シーゲル教授:それは米国についての質問でしょうか。それとも、世界株式全体についてでしょうか。
岡元:特に米国について、教授のお考えをお聞かせください。
シーゲル教授:リスクはいくつもあります。まず、サイバー戦争やサイバー攻撃の可能性があります。また、トランプ政権への反動として、政治的な揺り戻しが起きる可能性もあります。2026年11月の選挙ではないにしても、2年後の2028年の米大統領選では、かなり左寄りに傾く政治的な動きが出てくるかもしれません。その場合、資本への課税が強化されたり、資本の拡大に対して、より寛容ではない環境になったりする可能性があります。つまり、振り子が反対方向に行き過ぎる可能性がある、ということです。
しかし、米国は過去にも何度も、こうしたサイクルを乗り越えてきました。2026年、米国は建国250年を迎えています。現行憲法のもとで存続している国としては、世界史上でも最も長く続いている国の一つです。ですから私は、米国は現在の分断を乗り越え、いずれより団結した国へ向かっていくと考えています。
岡元:リスクはあるものの、それ以上にリターンの可能性が大きい、ということですね。
シーゲル教授:もちろん、リスクは常に存在します。政治的リスクもありますし、外部から発生する地政学的リスクもあります。1960年代には、旧ソビエト連邦の共産主義が世界を支配しようとしていました。現在では、サイバー攻撃やドローン攻撃、そしてもちろん核攻撃のリスクもあります。核兵器が登場してから80年近く、核戦争のリスクは常に私たちの頭の片隅に存在してきました。そうしたリスクを制御することは、常に大きな課題です。
しかし、私たちは第二次世界大戦を経験し、核冷戦も経験しました。それでも市場は、そうした困難を乗り越え、長期的には優れたリターンを生み出してきました。
岡元:米国の株式市場は、歴史上最も優れた長期パフォーマンスを記録してきた市場の一つだと思います。それにもかかわらず、多くの米国人は、そのパフォーマンスの恩恵を十分に受けていないようにも見えます。それはなぜなのでしょうか。金融教育の不足、貯蓄不足、所得格差、市場に対する不信感、あるいは投資家自身の行動上のミスが主な理由なのでしょうか。
シーゲル教授:まず、この50年で大きな変化がありました。50年前には、株式を少しでも保有しているアメリカ人は20%未満だったと思います。現在では、年金プランや401k、自分自身の退職口座を通じて、実際には50%を少し上回る人々が株式を保有していると思います。
つまり、私たちは株式市場への参加者の裾野を広げようとしてきたのです。実際、トランプ米大統領も、若者がインデックスファンドに1,000ドルを非課税で投資できるようにする案を打ち出しています。そうした仕組みは、若者が市場で資産形成を始めるための道を開くものになるでしょう。
私たちは、できるだけ多くのアメリカ人が市場に投資し、資本主義の果実を享受できるようになることを望んでいます。もちろん、5,000ドルや1万ドルしか投資していない人もいれば、何百万ドルもの資産を持っている人もいます。富の分布には大きな幅があります。それでも私は、より多くの人々が市場に関心を持ち、市場を信じ、市場に投資するようになっている現在の流れを、好ましいものだと考えています。
投資家が陥る最大の罠─なぜ人は相場を予測したくなるのか
「自分はもっと上手くできる」という市場タイミングの誘惑
岡元:先生は、投資のタイミングを計ることは良い考えではないとお話しされました。しかし、多くの投資家はどうしてもタイミングをねらおうとします。なぜ投資家は、相場のタイミングを読もうとする誘惑から逃れられないのでしょうか。
シーゲル教授:私はこの点について、著書の中でも述べています。インデックス投資が普及したのは、ここ50年ほどのことです。実質的に大きく広がったのは、ここ20年から30年と言ってよいでしょう。
人々が、「自分は優れた銘柄を選ぶことはできない。個別株選びは得意ではない。だからインデックスに投資しよう」と決めたとします。ところが、実際にインデックスに投資すると、今度はそれを退屈に感じるのです。「インデックスに投資して、あとは何もしないだけなのか。もっと何かできるのではないか」そう考えるわけです。
そこで、「では、投資のタイミングを取ってみよう」となります。つまり、個別株選びよりも、長期の株式投資ではインデックス投資の方が良いと受け入れた結果、今度は市場全体のタイミングを取ろうとする人が増えるのです。
そこには常に、「自分なら、もっと上手くできる」という感覚があります。しかし、実際のデータが示しているのは、その逆です。ほとんどの人は、市場平均を上回ることはできません。米国には、「hope springs eternal」、つまり「希望は永遠に湧き出る」という表現があります。
人は、「自分は平均より上手くできる」、「自分は他の人より優れている」、「自分なら、より良い銘柄を選べる」、「自分なら、より良いタイミングで市場に入れる」と思ってしまうのです。これは、人間心理の一部だと思います。
バブルと割高相場をどう見極めるか
岡元:教授は長年、株式の長期的な「バイ・アンド・ホールド」、つまり買って持ち続ける投資を推奨されてきました。しかし、市場が非常に割高に見える局面では、投資家は投資比率を下げるべきなのでしょうか。あるいは、リバランスや分散投資で対応すべきなのでしょうか。それとも、当初の投資スタイルを崩さずにいるべきなのでしょうか。
シーゲル教授:投資スタイルを崩さずにいることは、実際には非常に難しいことです。私が極めて弱気になり、それについて記事まで書いたのは、インターネット・バブルが頂点に達した時だけでした。あの時は、「今はテクノロジー株から手を引くべきだ」と書きました。ただし、現在の市場は、当時のような水準にはまったく達していないと考えています。
もちろん、市場全体のPERが30倍、40倍を超え、ハイテク株のPERが100倍、200倍になるようであれば、それは持続可能ではありません。1989年の日本で起きたことも、まさにそれに近いものでした。極端に割高な状態だったのです。
株式市場における正常なPERは、20倍前後だと考えています。25倍まで上がることもあれば、15倍まで下がることもあります。危機が起きれば、10倍、あるいはそれ以下に落ち込むこともあります。
しかし、そこまで極端な水準に達することは、めったにありません。
ですから、大半の場合、投資家は「タイミング投資」の誘惑に乗るべきではありません。2000年の暴落時でさえ、市場にとどまっていれば、数年で元の水準を取り戻すことができました。したがって、仮に当時の私の助言に従わず、市場にとどまっていたとしても、ハイテク株だけに集中せず、十分に分散投資をしていれば、いずれ回復できたのです。
もちろん、ドットコム銘柄は90%下落し、ハイテク株やナスダックも80%近く下落しました。ナスダックは、ドットコム・バブルの高値から安値にかけて、約80%も下落したのです。これは信じられないほど大きな暴落でした。しかし、それでも保有し続けていれば、当時5,000から1,000近くまで下がったナスダックは、今では2万5,000、あるいは3万に近い水準まで上昇しています。ですから、極端な局面を完璧に避けられなかったとしても、長期投資家であれば過度に心配する必要はありません。
2000年のITバブルから学ぶ教訓
岡元:教授がご著書『The Future for Investors(株式投資の未来)』で書かれたように、2000年3月のテクノロジー・バブル崩壊後の弱気相場では、下落は主にテクノロジーセクターに集中していました。もしAIで同じような状況が起きた場合、普通のバイ・アンド・ホールドを行う一般の長期投資家はどうすべきでしょうか。
シーゲル教授:そうですね。AI企業がPER80倍から100倍で売られるようになったら、私は間違いなくアンダーウェイト(基準よりも少なめに保有)にします。
岡元:どの程度、アンダーウェイトにするのですか。
シーゲル教授:もし、そこまでPERが高くなれば大幅にアンダーウェイトするでしょう。ただし、忘れてはいけないのは、現在はまだその水準にはありません。テスラは少し特殊な企業なのでここでは除きますが、他の企業がそのバブルの水準に到達するには、現在よりほぼ4倍高くなる必要があります。
これらの企業の時価総額はすでに6兆ドル、7兆ドル規模です。それが4倍になるということは30兆ドルになるという話です。それは米国のGDPに匹敵する規模です。正直言ってそれはかなり非現実的な話ですが、理論上、そこに到達することはあり得ます。
2000年に起きたような熱狂が現在のAI関連銘柄に対しても起きる可能性はあるでしょう。しかし、2000年の教訓を忘れてはいけません。これはそれほど昔の出来事ではありません。1929年ではないのです。1929年を実体験として覚えている人はほとんどいません。
私は1970年代の弱気相場も経験しましたが、若い世代は経験していません。しかし2000年のITバブル崩壊はわずか25年前のことです。ウォール街にはそれを経験した人がまだ多くいます。彼らは株式がそこまで高くなることに警戒するでしょう。
情報伝達スピードが加速する現代、ニュースを織り込む速さは長期投資家にとって重要ではない
岡元:株式市場は常に将来の出来事を織り込むメカニズムとして機能してきました。しかし現在では、インターネット、ソーシャルメディア、アルゴリズムを通じて情報の伝達速度が飛躍的に高まっています。その結果、市場は以前よりもはるかに早く将来を織り込むようになったと思われますか。また、そうだとすれば、現在の株式市場は過去と比べて異なる性質を持つようになったのでしょうか。
シーゲル教授:間違いなく速くなっているでしょう。ニュースが発生すると、瞬時に市場に反映されます。それが昔との大きな違いです。以前であれば市場全体に情報が浸透するまでもう少し時間がかかりました。今は株価に瞬間的な動きがあります。
ただし、それが大きな違いを生むかというと、長期投資家にとってはそれほど重要な問題ではありません。トレーダーであれば非常に気になるでしょう。「このニュースをどう取引にいかすか」「どのタイミングで売買するか」と。しかし長期投資家にとって、ニュースがすぐに株価に反映されるか、1時間後、あるいは1日後に反映されるかについて、あまり気にする必要はありません。
国際分散投資は必要か
岡元:S&P500企業の売上のかなりの部分は米国外から来ています。そのため、「S&P500はすでに一種のグローバル指数であり、分散された指数だ」と主張している投資家もいます。このような場合でも長期投資家は、米国市場以外にも分散投資する必要があるのでしょうか。
シーゲル教授:その主張は、私もよく耳にします。私は、長期投資家は、米国市場以外にも分散投資をする必要があると考えています。現在では米国市場は大きく成長し、世界の株式時価総額のほぼ60%を占めています。ですから、グローバルに分散しても、比率としては米国60%対米国外40%のようになります。
実は、これは大きな驚きでした。私が「The Future for Investors(株式投資の未来)」を書いた時には、世界の株式市場に占める米国の割合は50%前後だったと思います。私はその後、他国が伸びるにつれて米国の比率は下がり続けると思っていました。今頃には米国が3分の1、世界のその他が3分の2になっているかもしれないと思っていました。ところが実際にはそうはなりませんでした。米国市場が非常に好調だったからです。
とはいえ、それでも私は国際分散投資には意味があると考えています。なぜなら、世界の多くの市場では米国市場よりもはるかに低いPERで取引されているからです。米国は世界で最も高いバリュエーションの市場のひとつです。一方、世界の時価総額の40%は依然として米国外にあります。それを無視するのは適切でないと思います。ポートフォリオにそれらの地域を含めることは有益である可能性が高いということです。
岡元:もし米国株式市場の時価総額が世界全体の70%に達するとしたら、教授のお考えは変わりますか。そのような状況について懸念を抱かれるでしょうか。
シーゲル教授:それはPER次第だと思います。米国の比率は50%、あるいはそれ以下から60%以上の水準までへ上がってきましたが、その間、利益も成長してきました。例外主義であれ何であれ、重要なのは比率そのものではなく、利益がそれを裏付けているかどうかです。それが最も重要な問いになります。
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