2022年の介入(1)=1回目の円高は1日で一巡、2回目で円高へ反転

2022年は9月22日に145円程度で最初の米ドル売り・円買い介入が行われた。するとその日のうちに140円割れ近くまで米ドル/円は急落したものの、それがこの介入による米ドル/円の底値となった。その後はじりじりと米ドル高・円安が再燃、介入から約20日で、介入が行われた水準を超えて米ドル高・円安が進んだ(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の週足チャートと為替介入(2022年8月~)
出所:マネックストレーダーFX

これを受けて、通貨当局は10月21日、今度は米ドル高・円安が150円を超えたところで米ドル売り・円買い介入を再開。そして翌営業日も介入が行われると、米ドル/円は145円まで続落した。

2022年の介入(2)=円高への反転を決定づけたのは「CPIショック」 

その後は半月程度、米ドル/円は145~149円程度での一進一退が続いた。円安から円高への反転を決定づけたのは、11月10日の米CPI(消費者物価指数)発表だった。予想以上の物価上昇率の鈍化を受けて、金利市場は米インフレが峠を越えたことを再確認し、米金利が大きく低下し、日米金利差(米ドル優位・円劣位)も急縮小に向かったことで、米ドル/円も146円台からその日のうちに140円割れ寸前まで一段安となった(図表2参照)。

【図表2】米ドル/円と日米金利差(2020年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

介入以上の米ドル急落をもたらしたこの「CPIショック」により、円安の一段落、円高への反転が決定的になったということだろう。ただし、通貨当局の中にも、「すでに米インフレは一巡しており、米金利は低下に向かう」との読みはあり、それを円安阻止介入に活用しようという考え方はあったのではないか。

2024年の介入(1)=やはり1回目の介入で円高への反転は決着せず

2024年の最初の介入は4月29日に160円程度で行われた。すると米ドル/円はその日のうちに一時155円割れまで急落した。さらに5月1日にも介入が行われると、米ドル/円は152円まで続落した。

この2営業日に費やされた米ドル売り・円買いの介入額は合計で9兆7千億円、つまり10兆円弱に達した。それは、2022年に3営業日にわたって行われた介入額の合計(9兆1千億円)をすでに上回っていた。その影響もあってか今回は早々に円高への反転に成功したようにも見えた。

しかし米ドル/円は151円で下落が一服すると、その後は上昇再燃に向かった。主なきっかけとされたのは、当時の米イエレン財務長官による「為替介入はまれであるべき」との発言だった。これを日本の為替介入をけん制したものとの受け止め方が広がると、米ドル買い・円売りが再燃した。

2024年の介入(2)=投機円売り「バブル」を後押ししたイエレン発言

ただ、この局面で米ドル買い・円売りが再燃したもう1つの要因として、この時点でまだ円売りポジションが利益を維持していたことがあったのではないか。代表的な投機筋であるヘッジファンドの損益分岐点は120日MA(移動平均線)が目安とされる。それは2024年5月上旬時点で148円程度だった(図表3参照)。このため、介入を受けて反落した米ドル/円だったが、150円割れを回避したことでヘッジファンドなどは円売りポジションの利益を維持し、それが米ドル買い・円売り再開をもたらしたもう1つの要因だったのではないか。

【図表3】米ドル/円と120日MA(2022年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

円売りポジションの損失への転換を回避したヘッジファンドなどの投機筋は、イエレン発言を受けて日本の当局はもう米ドル売り介入に動けないかもしれないとして米ドル買い・円売りを再開した。

2024年の介入(3)=決定打は日銀利上げによる円売りポジション損益分岐点割れ 

実はこの当時、すでに日米金利差は縮小に転じていた。ただそれでもなお、日米10年債利回り差(円劣位)が3%以上と大幅な状況にあって円売りに有利なことには何ら変わりはなかったのだろう。ヘッジファンドの取引を反映しているCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円売り越し(米ドル買い越し)は、2005年に記録した過去最高に肩を並べるように拡大した(図表4参照)。それはまさに極端に行き過ぎた円売り、つまり円売り「バブル」だった。

【図表4】日米政策金利差と投機筋の円ポジション(2005年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

こうした中で、日本の当局は7月11日、米ドル売り介入を再開した。さらに翌営業日も介入を行うと、米ドル/円は161円から157円まで反落した。その後、円高への反転を決定付けたのは、7月31日の日銀利上げだっただろう。「サプライズ」との見方もあったことから、米ドル/円はこの日だけで153円台から150円割れへ急落した。

この7月下旬当時、ヘッジファンドの円売りポジションの損益分岐点の目安、120日MAは154円台で推移していた。つまり7月末の日銀会合が近づく中で、円売りポジションは損益分岐点割れで損失への転換が始まっていた可能性があった。

そうした中で、7月31日の日銀利上げを受けて円高が加速、円売りポジションの損失拡大懸念が広がったことで、円の買い戻しが急拡大したのではないか。そして、為替など金融市場のあまりの大きな反応を受けて、日銀利上げは「サプライズ」との評価が広がったようにも感じられる。

総括=円高への反転に必要だった「単独介入+α」

以上、2022年と2024年の介入攻防劇を振り返ってみた。両者はともに最初の介入局面では円高への反転とはならず、2回目で円高への反転に成功した。1回目と2回目の違いで注目されたのは、投機筋の円売りポジションの損益分岐点との関係だった。

そして、2022年、2024年とも、円売りポジションの損益分岐点を割って、損失拡大への懸念が強まるきっかけになった直接的な原因は、介入ではなく、前者では「CPIショック」、そして後者では日銀利上げだった。

以上を踏まえ、今回について考えてみる。足下の米ドル/円の120日MAは157.6円程度。したがって、これを割り込み、円売りポジションが損失に転換するのは、2022年、2024年と比べてもかなり近そうだ。加えて、日米金利差も大きく縮小していることから、日米金利差が円高に伴う損失をカバーする余裕も少なくなっていると見られる。

こうした中で、円売りポジションの損失拡大への懸念が発生するには、これまで日本の単独介入だけでは足りず、「CPIショック」や日銀利上げなどの「援軍」、すなわち「+α」が果たしてきた。その役割を今回は何が担うことになるか。それが円高への反転に成功するかの鍵になるのではないか。