半世紀ぶりの月面探査「アルテミス計画」と活気づく宇宙ビジネス

イーロン・マスク氏が率いるスペースX(スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ・コーポレーション)の上場で関連セクターへの注目度が高まっています。今回は宇宙開発セクターの動向を取り上げたいと思います。

米国の宇宙開発では米航空宇宙局(NASA)が月面探査・開発の「アルテミス計画」を主導しています。第1段階(アルテミス1)では2022年11-12月に月の周回軌道に無人宇宙船を投入するミッションに成功しています。

月の周回軌道に有人の宇宙船を投入する第2段階(アルテミス2)は、当初は2024年11月以降の実施が見込まれていましたが、技術的な問題などが重なり、実現は2026年4月となりました。実に54年ぶりとなった有人の月周回は成功し、飛行士4人は無事に帰還しています。

第3段階(アルテミス3)では2025-26年に宇宙飛行士の月面着陸を目指していましたが、抜本的に見直されました。月や火星の探査・開発に向けた中継基地となる月周回有人拠点(ゲートウェイ)の建設が中断されたことを受け、アルテミス3では地球周回軌道上での有人飛行試験を実施し、月面着陸船とのドッキング・乗員移送を検証します。宇宙飛行士の月面着陸は2028年のアルテミス4で行われるミッションになる予定です。

アルテミスはギリシャ神話に登場する女神の名で、アポロの双子の姉です。1960~70年代に米国が推し進め、人類を月に降り立たせるという成果を挙げた「アポロ計画」から、すでに半世紀以上が経ちました。双子の姉の名をつけた月面探査・開発計画が、民間の宇宙関連ビジネスにも活力をもたらしています。以下に関連銘柄の動向をご紹介します。

ロケット・ラボ[RKLB]、宇宙システム事業が急成長、スペースXを追う新鋭

部品・ソフトから宇宙船のエネルギー確保までを支援

ロケット・ラボ[RKLB]は人工衛星の打ち上げサービスや宇宙船の開発・製造、関連部品の製造などを手掛けています。低価格の打ち上げに定評があり、スペースXに挑む存在と目されることもあるようです。

アルテミス計画の主要プレーヤーではありませんが、ロッキード・マーチンの宇宙船「オリオン」に太陽電池セルを供給し、宇宙船のエネルギー確保という機能でアルテミス計画を支えています。ロケット・ラボは2022年に宇宙用太陽電池の開発を手掛けるソルエアロを買収し、宇宙船向けの太陽電池セル供給につなげました。

また、2022年にはNASAの小型衛星「CAPSTONE」の打ち上げを担いました。「CAPSTONE」は月を周回する新しい宇宙ステーション「ゲートウェイ」で採用する特殊な長楕円軌道の実証実験のために投入され、実験自体には成功しましたが、その後、「ゲートウェイ」の建設計画は一時中断が決まっています。

赤字は続くも、売上高38%増と拡大路線を維持

ロケット・ラボは急成長しており、2025年12月期決算は売上高が前年比38%増の6億200万ドルに達しました。純損失は1億9800万ドル(前年は1億9000万ドル)と赤字から脱却できていませんが、業容の拡大が続いています。

事業別では宇宙システム部門の2025年12月期の売上高が前年比30%増の4億300万ドル、粗利益が54%増の1億2600万ドルです。前述の太陽電池セルをはじめ、宇宙船の機能を支援する部品やソフトウエアを提供しています。ロケット・ラボは積極的な買収を通じ、この分野を手厚くしているようです。

祖業の打ち上げサービス部門は売上高が59%増の1億9900万ドル、粗利益が2.3倍の8100万ドルとなり、こちらも大きく成長しています。

【図表1】ロケット・ラボ[RKLB]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表2】ロケット・ラボ[RKLB]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2026年6月11日時点)

アマゾン・ドットコム[AMZN]、衛星通信でスペースXに対抗

116億ドルの巨額買収:グローバルスターを傘下に、スペースXを猛追

アマゾン・ドットコム[AMZN]が衛星通信ビジネスの強化を進めています。この分野ではスペースXが衛星通信サービスの「スターリンク」を展開し、現状で1強体制を築いていますが、EコマースやクラウドサービスなどのITインフラを築いてきたアマゾンが将来のライバル候補に名乗りを上げているのです。

そのアマゾンが展開する通信衛星の数は2026年6月5日時点で331基です。スペースXは目論見書の中で通信衛星の数が9600基を超えたと説明しており、現状で差は歴然としています。

追撃を目論むアマゾンは2026年4月に衛星通信の米グローバルスターを買収すると発表しました。買収総額は116億ドルで、大枚をはたいてでも優良な衛星通信事業者を傘下に組み込み、スペースXの背中を追う姿勢を示しました。買収は2027年に完了すると見込まれています。

打ち上げはスペースXに依存、ブルーオリジンは計画遅延

アマゾン陣営にとって悩ましいのが、人工衛星の打ち上げをスペースXに頼らざるを得ない点です。ライバルの追撃をライバルに頼るというのも不思議な感じですが、選択肢はないようです。

アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏は、ロケットの打ち上げと宇宙船開発を手掛けるブルーオリジンを立ち上げ、スペースXに対抗する方針を打ち出しています。ライバル対決は注目を集めましたが、先月(2026年5月)にブルーオリジンの大型ロケット「ニューグレン」が地上での燃焼試験時に爆発事故を起こしたことで、事業計画が大幅に遅延するとの見方が一気に強まりました。

影響はブルーオリジンの月面着陸船「ブルームーン」の開発にもおよぶとみられています。ブルーオリジンはNASAとの契約に基づき、アルテミス計画のハイライトである宇宙飛行士の月面着陸に使う月面着陸船を開発していますが、「ニューグレン」での打ち上げを想定しており、計画に支障が出るのは必至です。

NASAはスペースXとも月面着陸船の開発で契約を結んでおり、両社に開発を競わせている形です。スペースXの月面着陸船は「スターシップ」で、ロケットと一体型になっているのが特徴です。下段は推力を発生させた後に分離するブースターで、上段の宇宙船が月に向かいます。

【図表3】アマゾン・ドットコム[AMZN]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表4】アマゾン・ドットコム[AMZN]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2026年6月11日時点)

ボーイング[BA]、大型ロケット主要部でアルテミス計画を下支え

アルテミス計画の中核ロケット「スペース・ローンチ・システム」を運用

ボーイング[BA]は宇宙分野のビジネスで長い伝統を持つ企業です。アルテミス計画でもNASAが開発した大型ロケット「スペース・ローンチ・システム」の重要部分であるコアステージ(1段目)の設計と製造を手掛けています。「スペース・ローンチ・システム」は2026年4月に実施された有人の月周回でも利用され、アルテミス計画の中核ロケットとして運用されています。

打ち上げ用の大型ロケットにも不具合が出て、発射が遅延するケースは多いのですが、ボーイングが宇宙事業で抱える最大の問題は宇宙船の「スターライナー」の不具合かもしれません。2024年6月に有人の飛行で国際宇宙ステーション(ISS)に到着したものの、推進装置などに不具合が生じ、有人での地球帰還を断念しました。

搭乗していた宇宙飛行士2人はISSに長期滞在し、2025年3月にスペースXの宇宙船「クルードラゴン」で地球に帰還しています。「スターライナー」の開発は続いていますが、有人の飛行が可能になっても契約終了までの運用期間は短いようです。

宇宙船「スターライナー」の不具合を乗り越え業績改善へ

業績は2025年12月期決算の売上高が前年比34%増の894億3600万ドル、純利益が18億9000万ドル(前年は118億7500万ドルの純損失)となり、7年ぶりに黒字に転換しました。

防衛・宇宙・セキュリティー部門は売上高が14%増の272億3400万ドルと着実に成長する中、営業損失が1億2800万ドルとなり、前年の54億1300万ドルから営業赤字が大幅に縮小しました。前年には「スターライナー」絡みで多額の評価損を計上しており、反動で業績が改善しています。

【図表5】ボーイング[BA]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表6】ボーイング[BA]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2026年6月11日時点)

ロッキード・マーチン[LMT]、アルテミス計画では宇宙船「オリオン」を開発

有人月周回から無事帰還、アルテミス2成功の立役者

ロッキード・マーチン[LMT]は宇宙開発ビジネスで米国を代表する企業の一つです。ボーイングは旅客機の開発・製造なども手掛けていますが、ロッキード・マーチンは軍用機など防衛分野の比重が大きいのが特徴です。

アルテミス計画でも主要プレーヤーの1社で、計画で使われる宇宙船「オリオン」を開発しています。「オリオン」は2026年4月に実施された有人月周回飛行(アルテミス2)でも利用され、宇宙飛行士4人が無事帰還するなどプロジェクトを成功に導いています。

GM等とタッグを組む「月面探査車」プロジェクト

有人月面着陸に挑む「アルテミス4」以降で使用する月面探査車の開発プロジェクトにも参加しています。プロジェクトには自動車大手のゼネラル・モーターズ[GM]やタイヤのグッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバー[GT]なども参加しています。

ロッキード・マーチンの2025年12月期決算は売上高が前年比6%増の750億4800万ドル、純利益が6.0%減の50億1700万ドルでした。主要4部門の一角に位置する宇宙部門は売上高が4%増の130億2900万ドル、営業利益が10%増の13億4500万ドルと増収増益でした。

【図表7】ロッキード・マーチン[LMT]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表8】ロッキード・マーチン[LMT]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2026年6月11日時点)

ノースロップ・グラマン[NOC]、アポロ計画にも参画した老舗、宇宙部門の受注残高13%増

主力ロケットのブースター製造とISSへの物資補給

ノースロップ・グラマン[NOC]は宇宙開発事業で長い実績を持つ企業です。合併前のグラマンはアポロ計画にも参画し、アポロ11号で初めて人類が月に降り立ったときの月面着陸船「イーグル」を製造しています。

アルテミス計画では主力ロケットの「スペース・ローンチ・システム」に利用される固体燃料ロケットブースターの製造を請け負っています。ブースターが推力の75%を供給するなど安定した性能を発揮しているようです。

減収減益でも安定した受注が続く

一方、NASAとの契約では国際宇宙ステーション(ISS)への物資補給を担う補給船「シグナス」も継続的に運用されており、宇宙輸送・補給分野での安定した受注が続いています。2025年12月期の宇宙部門の売上高は前年比8%減の107億7100万ドル、営業利益は6%減の11億8300万ドルと減収減益でしたが、2025年末時点の受注残高は13%増の262億100万ドルに伸びています。

【図表9】ノースロップ・グラマン[NOC]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表10】ノースロップ・グラマン[NOC]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2026年6月11日時点)