先週(1月5日週)の動き:米国によるベネズエラ攻撃で内外金価格大幅反発、NY金2025年前年末比1,700.10ドル(64.4%)の上昇、JPX金は同前年末比9129円(68.2%)高
地政学リスクの高まりでNY金週足反発
2026年新年に入り第1週目となる先週(1月5日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週足で反発した。1月3日に発生した米国によるベネズエラに対する軍事侵攻とマドゥロ大統領を拘束し体制転換に乗り出した混乱を受け、地政学リスクの上昇を手掛かりとしたいわゆる「有事の買い」が週初1月5日のNY金を大きく押し上げた。2025年12月31日には一時4,300ドル割れまで売られ4,341.1ドルで終了。年始1月2日も4,329.6ドルと売り先行で終了していたが、1月5日には一気に121.9ドル高の4,451.5ドルと水準を切り上げた。
買いの背景にあるのは足元の状況より今後の国際情勢を見通した上での、地政学リスクの急激な上昇に対する警戒だ。トランプ米大統領は当初は国内向けにも「ベネズエラの体制転換を図るものではない」と説明していたが、同国のマドゥロ大統領を拘束しニューヨークへ移送するなど、重要な方針転換を米国議会に対し何らの通告もなく独断で実行した。
米ベネズエラ攻撃の先を読む金市場
その後、ベネズエラでは副大統領のロドリゲス氏を最高裁が暫定大統領として指名し、同氏が米国に対し外交の再開を宣言するなど柔和的な方針を表明したことで、事態は急速に沈静化した。
それでも金市場の方は今回の軍事行動の先を読んでいる。トランプ米大統領がベネズエラ攻撃説明の記者会見で「ドンロー主義(ドナルドとモンローの合成語)」と自ら語ったように、かつてのモンロー主義を修正し西半球を米国優位の受け入れを前提にした勢力圏に置く政策は、2025年12月5日発表の国家安全保障戦略(NSS)でうたってはいたものの、早速実行に移されることになった。すでにトランプ米大統領はコロンビアやメキシコなどを牽制する発言を行っており、双方の政府は警戒感を強めている。
こうした中で1月9日のNY金は4,500.9ドルと4,500ドルを回復して終了。週足は前週末比171.3ドル(3.96%)高の反発となり、レンジは4,354.6~4,527.0ドルで値幅は172.4ドルとなった。前々週12月26日の終値ベースでの最高値4,552.7から週足で大きく下落(223.1ドル安)した前週の値幅297ドルからは縮小した。
なお2025年のNY金は年間ベースで前年末比1,700.10ドル(64.4%)上昇した。2024年の569.20ドル(27.5%)に次ぎ2年連続の上昇となった。
国内金価格も大きく反発、NY金反発と158円台への円安
週足ベースでのNY金の大幅反発を受け、国内金価格も反発した。大阪取引所の金先物価格(JPX金)は2万3000円前後で推移したものの、NY金同様に前週の上げからの回復という展開で高値に迫ったものの更新には至らなかった。1月9日の終値は2万3260円で週足は前年最終取引日の2025年12月30日比753円(3.35%)高の反発となった。1月9日の終値2万3260円は、2025年12月26日に記録した最高値2万3292円に迫る水準だった。
一部報道で高市首相が1月23日召集の通常国会冒頭での衆院解散の検討に入ったと伝わったことで米ドル/円相場が158円台まで円安が進んだことが、水準を押し上げた。レンジは2万2415~2万3260円で値幅は845円と前週の1071円からは縮小した。
なおJPX金は2025年年間ベースで前年末比9129円(68.2%)高となり、標準的な店頭小売価格の年末の価格は12月26日の2万4968円(10%消費税込み)で年間同1万222円(69.3%)高となった。
米「国家安全保障戦略(NSS)」について
南北アメリカは米国の勢力圏
2025年12月5日に米トランプ政権が発表した「国家安全保障戦略(NSS)」は、覇権国として振る舞い世界全般に目を光らせていた政策を大きく後退させる内容となっている。米国の安全と国益を第一に据え、西半球を勢力圏として構築し、北米・南米に対する域外からの干渉を排除する政策が骨子となる。この地域の諸国に対して米国優位を受け入れることが当然であるものと捉えていることがわかる。そのように解釈すると2025年春のカナダとの関税交渉でトランプ米大統領から「カナダは51番目の州」という発言が飛び出したことも理解しやすい。
今回のベネズエラ攻撃も、マドゥロ大統領をニューヨークの裁判所にて国内法で裁いたことも同様だ。そもそも国際法の規範の下にあると解釈していない節がある。ベネズエラ攻撃について議会承認はもとより通告も行っていないことは、独自というより勝手な法解釈によるとみられるが、これから予想される米国議会の反応は今後のトランプ政権の行動を見据える上で大きな注目点となる。
ロシア・中国と同じ土俵に上がった米国
いずれにしても政策転換に伴い今回ベネズエラ攻撃に踏み切ったことは想定の範囲内といえる。ただし、武力による一方的な現状変更に米国自体が実際に乗り出した事実は大きい。以前からトランプ米大統領は最高権力者として軍事力を試し誇示したいのだろうとみており、2025年春に起きたイランの核施設への限定的な攻撃もその一つと捉えていた。
しかし、今回の地上戦も辞さずという攻撃は、結局、ロシアや中国という強権国家と同じ土俵に上がったことになる。相応の警戒感を新興国を中心に強めさせたことは間違いない。前述したように、地政学リスクの構造変化と捉えられ、持続的に金価格を刺激する要因となりそうだ。
今週(1月12日週)の動き:12月米CPI発表に加えFRBの独立性と地政学リスクが材料に急浮上、内外金価格は最高値圏を維持する見込み
1月12日NY金初の4,600ドル台
日本が祝日だった週明け1月12日のNY金は報じられているとおり大幅に続伸した。FRB(米連邦準備制度理事会)の独立性維持への懸念が増大し、今後の円滑な金融政策運営に疑念が高まったことから安全資産への資金移動が加速し、大幅続伸した。NY金は前週末比113.80ドル高の4,614.70ドルで終了した。初めて4,600ドル台に乗せるとともに2025年12月26日以来、約2週間ぶりに最高値を更新した。
パウエルFRB議長異例の声明
パウエルFRB議長は1月11日の声明で、FRB本部改修工事に関して自身が行った2025年6月の議会証言を巡り、米司法省から刑事捜査に関する大陪審への召還状を受け取ったと公表。金利決定に不満を抱くトランプ米大統領による「前代未聞の措置で、政権の脅しと圧力継続の一環だ」と反発。これからもFRBがデータと経済状況に基づき金利を設定し続けることができるか、それとも金融政策が政治的圧力や威嚇によって左右されることになるのかという問題だと発言した。
FRBの金融政策の方向性は世界経済への影響が大きい。その政策が政権の意向に左右されるようであれば、基軸通貨米ドルの信認低下につながる可能性が高まる。すでに足元で新興国中央銀行が外貨準備に占める米ドルの比率を引き下げ、金(ゴールド)の比率を高める動きが続いている中でのこと。FRBの独立性が失われる事態は、米ドル離れに加速がつくとの見方から買いが集まっている。
市場の関心はFRBの独立性に集約
今週(1月12日週)はもともとFRB高官の発言機会が多く予定されており、足元で米主要経済指標のデータもそろいつつある中で、今後の政策方針を見る上で発言内容は要注目だった。ところが、焦点がFRBの独立性の維持という点に市場の関心が集約されることになった。これまで米政権によるパウエル議長解任の動きは2025年4月さらに7月に高まったことがある。いずれも米ドルや米国債に加え株式も売られ(トリプル安)金融市場が動揺した経緯がある。その際はベッセント米財務長官がトランプ米大統領に進言し、大統領は矛先を収め動揺は沈静化した。
今回もパウエル議長の異例の声明に、おそらくベッセント米財務長官は慌てて火消しに回っているものとみられる。足元でイラン情勢を巡り引き続き地政学的緊張の高まりもあり、内外金価格は最高値を更新あるいは最高値圏を維持することになりそうだ。国内価格もそれに準ずることになる。
今週(1月12日週)はもともと12月米消費者物価指数(CPI)など注目指標の発表がある週だが、FRB問題と地政学リスクの動向が注目点となった。
