先週(12月22日)の動き:地政学リスクの高まりを映しクリスマス休暇挟みNY金最高値更新、国内金価格も4営業日で最高値更新

NY金4営業日すべてで過去最高値更新

先週(12月22日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、2026年以降のFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ継続期待に加え、地政学リスクの高まりを手掛かりとした買いに水準を切り上げた。クリスマスの祝日で12月25日は休場となり12月24日の株式や債券市場は短縮取引になるなど市場全般に薄商いの中で、NY金は4営業日すべてで連日取引時間中の過去最高値の更新を続けた。終値ベースでも12月22、23、26日の3営業日で過去最高値を更新した。12月26日の終値は4,552.7ドルで週足は前週末比165.4ドル(3.77%)高の3週続伸となった。レンジは4,367.9~4,584.0ドルで値幅は216.1ドルと前週(112.1ドル)の2倍近くに拡大した。先週末12月22日まで年初来で1,911.7ドル(72.39%)の上昇となる。

対ベネズエラで臨戦態勢を敷いた米軍

前週から金市場の買い手掛かりとして浮上していたのが米国とベネズエラを巡る地政学リスクの高まりだった。米トランプ政権がベネズエラの反米マドゥロ政権への退陣圧力を強めている。ノーム米国土安全保障長官は12月20日、米沿岸警備隊が南米ベネズエラ沖の公海上(カリブ海)で原油タンカーを停止させ、立ち入り検査を行い拿捕(だほ)したと発表。制裁対象ではないタンカーが米国の標的とされたのは、これが初めてと伝わった。米軍は12月21日、これとは別にベネズエラに向かっていたタンカーを追跡していると発表していたが、結局この船はベネズエラ行きを断念したと伝えられた。断念した背景は、次の報道内容からも十分理解できる。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは12月23日、米軍が特殊作戦用の軍用機と人員をカリブ海に展開したと報じた。特殊作戦に使用される軍用機「オスプレイ」が少なくとも10機、米本土の基地からカリブ海に向かったほか、特殊部隊が所属する別の2ヶ所の基地から大型輸送機が米自治領プエルトリコに入った。カリブ海に待機している空母打撃群を含めた米兵は1万5000人ほどに上るとされる。上陸作戦も可能な軍即応部隊、ステルス戦闘機「F35」、電子戦を担う軍用機などが地域に集結していると伝えられている。

2025年7~9月期GDP速報値上振れのサプライズ

先週(12月22日週)の主要な米経済指標としては、発表が遅れていた2025年7~9月期の米実質国内総生産(GDP)速報値が12月23日に発表された。結果は市場予想を大きく上回るサプライズとなった。年率換算で前期比4.3%増加と伸びは前期の3.8%から加速し、過去2年間で最も速いペースでの成長となった。旺盛な個人消費にけん引され、市場予想の3.3%を上回って成長した。個人消費は3.5%増と2024年10~12月期以来約1年ぶりの高い伸び率を記録。前期は2.5%だった。個人消費以外にも輸出の増加による貿易赤字の縮小や人工知能(AI)関連投資の底堅さも寄与したとされる。

利下げ継続観測は維持

この内容を受け一時NY金にはまとまった売りが見られ、急落する局面が見られた。想定を超える景気の堅調さにFRBの利下げ観測が後退したことによる。ただし、押し目買いの意欲は旺盛で売りが一巡すると反発し、上値追いに転じた。GDPの発表は午前8時30分だが、同日の午前10時に発表された米調査機関コンファレンスボードの12月の消費者信頼感指数が89.1と、前月から3.8ポイント低下し、市場予想の91.0を下回ったことが買い手掛かりとされた。コンファレンスボードは、悪化は雇用と所得に対する不安の高まりが反映されているとした。

発表が遅れた7~9月期GDP速報値は過去のもので、12月の指標は現状という解釈もあり、結局、利下げ見通しを変えるものでもないとの解釈が復帰。他にもやはり発表が遅れていた10月の米耐久財受注なども鈍化するなど、利下げ観測も復活しNY金の買戻しにつながった。

国内金価格も4営業日で過去最高値を更新

国内金価格も先週(12月22日)は5営業日中4営業日で取引時間中および終値双方で過去最高値の更新となった。いずれも12月26日が高値で終値が2万3292円、取引時間中の高値が2万3369円となり、NY金の上昇をそのまま映すことになった。週足は前週末比1175円(5.31%)高で3週続伸となった。レンジは2万2135~2万3369円で値幅は1234円と前週(584円)の倍以上で、年末まで値動きの荒い展開が続いている。米ドル/円相場は週末にかけて1円余り円高方向に動いたものの、NY金より上昇率は高かった。

今週(12月29日週)の動き:12月30日(火)発表のFOMC議事要旨に注目、次週(1月5日週)を見る上でも年末年始のNY金の値動きに注目

年末年始のスケジュールだが、国内JPX金の取引は12月30日までで、再開は1月5日からとなる。一方、NY金については、今週(12月29日週)は1月1日のみ休場で他は通常ペースで取引が行われる。

今週(12月29日週)は12月30日に12月9~10日の日程で開かれたFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事要旨が公開される。12月の会合では3人の反対のうち2人が据え置きを主張し反対票を投じた。またメンバー(政策担当者)全員の予測(ドット・プロット)では6人のメンバーが今回の利下げを見込んでいなかったことと、7人が2026年の利下げはないとみていることが示された。

市場はパウエルFRB議長の記者会見での発言内容が、2026年の利下げを否定しなかった点を捉え、利下げ継続を織り込んでいるが、FRB内の意見の割れが指摘されているだけに、今回の議事要旨は要注目といえる。前述したGDP速報値のように、このところの米経済指標に強気のものが多いのも確かで、議事要旨の内容から利下げに慎重姿勢が汲み取れるとするならNY金の上昇も一服ということもありそうだ。日本と異なりクリスマス休暇明けの欧米市場は、年明けからフルで動き始めると思われ、1月5日以降の動きを見る上で今週(12月29日週)のNY金の値動きに注目している。