高市早苗首相が重要施策として掲げるほか、自身のYouTubeチャンネル(@takaichisanaechannel)でも盛んに取り上げていたことから、株式市場で急速に注目度が上昇している「核融合発電」。今回は、マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆が、核融合反応による発電実証を目指す核融合スタートアップ、京都フュージョニアリング株式会社の中原大輔さんに取材し、日本の核融合発電の現状や商用化などについて話をうかがいました。

核融合にもさまざまな形式が存在

広木 隆(以下、広木):フュージョンエネルギー(核融合発電)は、高市政権の「重点投資対象」のひとつに位置付けられているため、株式市場でも注目テーマのひとつになっています。ただ、核融合は投資家にとって未知の存在であり、いったいどのようなテクノロジーで、どのような点が将来有望であるのか、またどのように企業の業績に影響してくるのか、全くわからないというのが正直なところです。

これらについて、正確な情報を投資家に伝えるには、やはり実際に核融合発電を研究開発されている専門家の方にインタビューすべきと考え、今回、取材をお願いしました。本日は、そのような論点でお話をうかがえればと思っています。では、まず「核融合」の仕組みについて、初心者にもわかりやすくお話いただけますか。

中原 大輔 氏(以下、中原氏):太陽が核融合によって膨大なエネルギーを作り出しています。核融合発電は「太陽と同じ環境が地球上でも再現できれば、膨大なエネルギーを生み出せる」という理論に基づいた発電方法です。

太陽のエネルギーはすべて核融合反応によるものですが、それが太陽光となって植物を育て、育てられた植物は長い時間を経て石油や石炭になるわけです。要は、すべてのエネルギーは「核融合由来」と言うことができます。核融合が全エネルギーの基盤中の基盤になっているということ。ただ、われわれ人類は核融合をエネルギーとして利用することができていないので、それを地球上でどう作り出せるか、というのが核融合発電の基本的な考え方です。

京都フュージョニアリング株式会社 執行役員(経営企画/渉外)中原大輔氏

広木:「すべてのエネルギーが核融合由来」という発想はありませんでした。核融合と反対の事象である「核分裂」に関しては、「原子力発電」という形で活用されています。核分裂と核融合に関しては、巷間で「結びつける(結婚)より別れる(離婚)ほうが大変じゃないか」などと例えられているわけですが、なぜ核分裂の方が先に活用されるようになったのでしょうか。

中原氏:広義において、核融合と核分裂は「原子力」を元にしたエネルギーという点は共通していて、原子力を活用すると、非常に少ない資源で膨大なエネルギーを得ることができます。火力発電などは「化学反応」を元にした発電方法であり、炭素(C)と酸素(O2)が結び付くことで化石燃料を燃やし、それによってエネルギーを生み出しています。この場合、使用する炭素・酸素と、排出される二酸化炭素(CO2)の量はほぼ同じくらいになり、この量のバランスを根本的に変えるには、原子力を活用する必要があります。

核融合と核分裂は、実は同じ「原子核」による反応を用いた原理なのです。原子同士、ここでは「水素」同士がくっつく時と離れる時を比較すると、くっつく時=「融合」する時に質量が少しだけ軽くなります。この現象を「質量欠損」と呼び、これをアインシュタインの公式「E=MC²(エネルギー=質量×光速の二乗)」に当てはめると、質量が減った分、膨大なエネルギーが発生します。

【図表1】
融合反応が起きる前の重水素(D)と三重水素(T)の重さ(質量)より、融合反応が起こった後のヘリウムと中性子の重さの方が軽いので、その差の分だけの質量がエネルギーに変わる。
出所:国立研究開発法人量子科学研究開発機構(QST)

広木:なるほど。高校の物理の授業を思い出します(笑)

中原氏:中学、高校の授業で元素周期表について勉強しますよね。

広木:「スイ(水素)へー(ヘリウム)リー(リチウム)ベ(ベリリウム)」というやつですね。

中原氏:そうです。元素周期表の中で、実は鉄(Fe)が最も安定している原子なのです。それより原子番号が大きいと核分裂が起きやすくなり、反対に番号が小さいと核融合が起きやすくなります。核分裂では、ウランやプルトニウムなど非常に重い原子が使われますが、これらは非常に壊れやすい、つまり核分裂しやすい性質があり、原子が壊れる過程で大きなエネルギーが発生します。それを利用したのが「核分裂」です。

広木:なるほど。だから核分裂では原子番号が大きい鉱石が利用されるわけですね。逆に、核融合では最も若い番号の水素が使われるということですか。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆

中原氏:おっしゃる通りです。元素周期表の若い番号の原子ほど核融合を起こしやすいので、「重水素(デューテリウム)」と「三重水素(トリチウム)」という水素同士を「融合(D-T反応)」させ、ヘリウム原子になる過程で莫大なエネルギーが発生するのですが、その熱とエネルギーを発電に活用するのが「核融合発電」です。

【図表2】
核融合とは、水素のような軽い原子核どうしがくっついて(融合して)、ヘリウムなどのより重い原子核に変わることです。水素の仲間(同位体)である重水素(D)と三重水素(T)の原子核が融合するDT核融合反応では、ヘリウムと中性子ができます。
出所:国立研究開発法人量子科学研究開発機構(QST)

「D-T反応」以外に、「D-D反応(重水素同士の原子核の融合)」や「プロトン・ボロン反応(プロトンとホウ素の原子核)の融合」と呼ばれる核融合についても研究が進められていますが、この中で最も実用化に近いのが「D-T反応」です。私たちは、この「D-T反応」を活用した発電の実用化に向けて研究開発を進めています。

核融合は太陽の中で起きています。なぜ、それを地球上で再現するのが難しいのかと言いますと、太陽の中心部では1500~1600万度、約2400億気圧という、超高温・超高圧下で核融合反応が起きているので、その環境を人工的に作り出すのが非常に難しいのです。

地球上で太陽と同じ環境を作り出す方法とは

広木:素人には想像もできませんが、太陽と同じ環境をどのように再現しようとしているのですか?

中原氏:超高圧を作り出すには、マグネット(磁石)を使います。マグネットの磁力でグッと水素原子を寄せて、さらに「固体→液体→気体」の次の状態、いわゆる「プラズマ」の状態にして、原子の動きを活発化させることで核融合を引き起こします。温度でいうと、1億度~2億度という超高温下になります。「プラズマ状態」は、私たちが普段使っている蛍光灯の原理と同じですね。

広木:磁石の力で高密度を再現するわけですか。1億度を超える超高温はどう再現しているのでしょうか。

中原氏:プラズマ状態にして加熱する「ジャイロトロン」という装置などを使います。わかりやすく言うと、「すごく強力な電子レンジ」です。水素を高エネルギーのマイクロ波によって1億度~2億度まで温度を上げ、周辺にある磁石で高密度にすることで、核融合反応が起こるという仕組みになります。

広木:これまで、核融合と聞くと「加速度装置を使って原子同士をぶつけて核融合反応を起こす」というイメージを持っていましたが、そうではないんですね。

中原氏:いま説明した、磁場を利用して核融合反応を起こす「磁場型」のほかに、レーザーを照射して高温・高密度状態を示現する「レーザー型」という形式もありますが、その「レーザー型」はおっしゃるような加速度装置を使う方法に近いかもしれません。私たちが手掛けているのは、高温の水素ガスを強力な磁場で閉じ込める「磁場閉じ込め型」で、そのなかでも「トカマク型」と呼ばれるタイプになります。

これまで、核融合の主流として開発されてきたのが、この「トカマク型」と「レーザー型」です。現在は、この2つに加えて、トカマク型の派生である「FRC(磁場反転配位)型」や「ミラー型」、さらに「ヘリカル・ステラレータ型」など、多くの形式で実用化に向けた研究が進められています。日本での研究が進んでいるのは、私たちが実証を目指す「トカマク型」ですね。

広木:核融合と一口にいっても、多くの形式があるわけですね。その中で、御社が手掛けられているのが「トカマク型」だと。

中原氏:はい。多くの形式がありますが、やっていることは「高い温度」「高い密度(圧力)」にするという点で共通しています。レーザー型の場合は、温度はトカマク型ほど高くする必要はありませんが、その分、高密度が必要です。一方のトカマク型は、磁力を使って抑え込むので密度はそこまで高くありませんが、その分、高温が必要になります。

広木:なるほど。形式によって一長一短があるということですね。

産学連携プロジェクト「FAST」トカマク型の模型

>>インタビュー後編では、「日本が培ってきた技術力を生かし、核融合でエネルギー産業の覇権を握る未来へ ~化学・電源・熱エネルギー・素材等の関連産業に再注目」をお届けします(2025年12月26日17時公開)。

文/新井奈央 
企画・編集/マネクリ編集部(西條玄香)
撮影/竹井俊晴