2025年10月、ビットコイン相場が3兆円規模の歴史的なポジション清算とともに急落した。年初から上昇を続けてきた世界の株式市場が史上最高値を更新する中で、暗号資産市場は出遅れが目立ち、ビットコインの年初来リターンはついに日経平均株価を下回った。この動きを受け、「やはり暗号資産は投機だ、投資すべきではない」といった論調がメディアや政策関係者の間で広がっている。金融庁の有識者会合でも「暗号資産は国民の資産形成に資するものではない」との意見が出され、ネガティブな議論が再燃している。
こうした批判には一定の妥当性がある。暗号資産の多くは、時価総額100億円未満と、上場企業に例えれば小型株にも満たない規模のトークンであり、流動性や情報開示の点でも未成熟だ。その性質は、未上場ベンチャー株に近く、値動きの激しさから一般投資家の長期的な資産形成には適さない。実際、個人が資産形成に利用しているのはS&P500や日経平均株価などのインデックス連動型商品であり、個別株や未上場株に直接投資する層はごく少数にとどまる。したがって、こうした有象無象の暗号資産を資産形成の文脈で語るのは無理があるといえよう。
しかし、問題は「暗号資産全体」を一括りにして論じている点にある。ビットコインはその中でも特異な存在であり、他のアルトコインとは性質が大きく異なる。ビットコインは発行上限(2100万枚)が明確に定められ、特定の発行主体を持たない非中央集権的で無国籍なデジタル資産である。米国では2024年に現物型ビットコインETFが承認され、大手運用会社が取り扱いを開始したことで、すでに年金基金や退職金口座を含む多くの機関投資家がポートフォリオの一部に組み入れ始めている。これは、金(ゴールド)と同様に、無制限に発行される法定通貨の価値劣化に対する「ヘッジ資産」としての位置づけが定着しつつあることを示している。
現在、日本では暗号資産全般を対象とした規制の議論が進められているが、その中でビットコインを他のトークンと同列に扱うことには慎重であるべきだ。分散投資の観点から見ても、株式や債券と相関の低いビットコインは、長期ポートフォリオのリスク分散効果をもたらす可能性がある。まずは、最も市場規模が大きく、技術的にも成熟したビットコインに限定して、資産形成上の意義やリスク、制度的な位置づけを検討することが必要である。投機的な小規模トークンと区別し、信頼できる枠組みの中で扱うことこそ、健全な市場形成と国民の長期的な資産形成を両立させる第一歩となるだろう。国際的なルール形成が進む中で、日本もビットコインを資産クラスとしてどう位置づけるか、早期に明確な方針を打ち出すことが求められる。
