二極化するシニアの保有資産額
2025年9月に日銀が発表した2025年4~6月期の資金循環統計(速報)では、国内の家計が保有する金融資産は2239兆円となりました。これは過去最高の資産残高です。
その資産の約6割は60代以上が保有していると推計されます。シニアが多くの資産を保有し、一見豊かに見えます。
しかし、J-FLEC(金融経済教育推進機構)による2024年の調査では60代の単身世帯のうち金融資産ゼロは27.7%で、200万円未満は何と42%に増えています。逆に3000万円以上の資産を持つ60代の世帯は16.8%に増加しています。シニア世代の保有資産額の二極化が進んでいるのです。
シニアの保有資産額二極化の原因の1つは「お金に対する偏見」
このような格差の拡大を生み出している原因の1つが日本人に刷り込まれた「お金に対する偏見」ではないかと思います。
私は投資や借金に対する偏見、そして分散投資に対する発想の欠如が日本人の健全な資産形成を阻害する要因になっていると考えています。具体的には次のような内容です。
【お金に対する偏見1】「投資=ギャンブル」の思い込み
資産額が少ないシニアの共通点として、保有資産が預貯金中心で投資に対して消極的なことが挙げられます。その背景にあるのが「投資=ギャンブル」という思い込みからくる投資に対する嫌悪感です。
自分が汗水たらして働いて稼いだお金は尊いものであるが、投資で稼いだお金はあぶく銭。これは労働を美化する日本人にありがちな考え方です。このような日本人の伝統的な価値観が、投資に対して消極的なシニアを生み出し、貧困化する原因となっているのです。
資産運用は自分が保有しているお金を社会のために還流させ資本として役に立たせることで、対価を受け取る行為と考えられます。タンス預金をしてお金を貯め込むよりも、投資によって活用する方が社会に貢献できます。
そして投資にはリスクはあるもののやり方を間違えなければ中長期的には投資家がプラスのリターンを得ることが可能だと過去のデータが証明しています。
短期の売買で利益を狙う「投機」からは新しい価値は生まれませんが、長期の「投資」からは社会に価値が生まれ、投資家も資産を増やせるのです。
【お金に対する偏見2】「借金=悪」の思い込み
また、借金に対する穿った見方も資産格差拡大の1つの要因だと考えています。借金と聞くと、多くの人はネガティブなイメージを持ちます。実は私も50歳になるまでは「借金=悪」と思い込み、お金を借りたことがありませんでした。
確かに消費のための借金は将来の収入を現在使ってしまうことになるため、良いとは思いません。しかし、投資のための借金は必ずしも悪いとは限りません。適切なリスクコントロールをした上で、自分の身の丈にあった借り入れによって効率的な投資を実践できます。私も実際に借り入れをすることで自分の資産の変動リスクをより緻密にコントロールすることが可能になりました。
また、借り入れはインフレ時には実質的な債務の削減となります。日本政府が国債によって財政赤字の拡大を進めている中で、銀行借り入れによって「国と同じポジション」を取ることはインフレ対策として有効と考えます。
【お金に対する偏見3】分散投資の発想の欠如
資産運用を株式・債券・投資信託といった金融資産だけで分散投資を行っている人がいます。残念ながら、これだけでは充分な分散投資は実現できません。
金融資産に加えて、国内外の不動産、さらには不動産以外の実物資産やビットコインのような暗号資産にも投資対象を分散することで、ポートフォリオ全体の変動率を下げられます。株式の銘柄分散を行っても株式市場全体が暴落してしまえば、分散効果にはあまり意味がありません。
また、例えば米ドルが急落するような事態があれば、アメリカの株式も債券も為替の影響を受けて円ベースでは値下がりしてしまいます。法定通貨の価値の下落が懸念される中、金融資産だけで資産を保有するのは避けた方がよいでしょう。
日本人のお金に対する偏見を変えるのに必要なこと
日本人の3つの「お金に対する偏見」が将来の経済的なゆとりの実現の障害になっています。では、このような偏見を変えていくためにはどうしたら良いのでしょうか?
まず必要なのは金融リテラシーを高めていくようなお金の教育です。お金、投資、そして借金に対するネガティブな固定観念を払拭し、具体的な投資やお金の借り方についての情報収集を行う。ただしSNSなどの玉石混交の情報の中から正しい情報を取捨選択するのは簡単ではありません。となると学校教育等で地道にわかりやすい金銭教育を行っていく必要があると思います。
また、バラバラの取引主体から投資の情報が提供されていることも問題です。例えば、金融機関でも不動産や不動産以外の実物資産の情報提供が行われるようになれば、投資家はワンストップでの情報収集が可能になり、利便性が高まるでしょう。
インフレの中で株式や不動産価格の上昇が続けばシニアの経済格差はさらに拡大していく可能性が高いと思います。これからの日本には、働くことの大切さだけではなく、自分のお金をどうやって運用するかを考えること、その重要性も合わせて啓発していくことが必要です。
