先週(5月26日週)の動き:NY金、5月の月足は5ヶ月ぶりのマイナス、値動きは安定傾向、JPX金も値動き縮小
先週(5月26日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、引き続きトランプ米大統領の関税を巡る発言に反応する米ドルと米国債相場(利回りの上下動)に沿って上下動する流れが続いた。メモリアルデー(戦没者哀悼記念日)の3連休明けとなった5月27日こそ1日の値動きが大きくなった(前週末比65.40ドル安)ものの、その後は変動率は低下し落ち着いた値動きとなった。ただし、2024年来の金市場への資金の流出入の拡大を考えるに、値動きの荒い状況は続くとみられる。
週末と月末が重なった5月30日のNY金の終値は3,315.40ドルと心理的な節目の3,300ドルを上回って終了した。週足は前週末比50.40ドル1.5%安の反落となった。レンジは3,242.40~3,356.30ドルで値幅は113.90ドルとなった。ちなみに月間ベースでは、ほぼ横ばいながら3.70ドル0.1%の小幅安で5ヶ月ぶりの反落となった。
大きく減少しているファンドのNY金ロング(買い建て)
前週(5月19日週)が週足で5.6%もの大幅上昇となっていたこともあり、先週(5月26日週)はファンド(投機筋)のポジション(持ち高)整理の動きが出やすかった。毎週末に発表されるCFTC(米商品先物取引委員会)のデータによるとNY金におけるファンドのネットのロング(買い建て)は、5月27日時点で551トン(重量換算)となった。前週比では約9トンの減少となる。なお年初来のピークは2月4日の965トンで、そこからは414トン43%もの減少となっている。
CTA(Commodity Trading Advisor)と呼ばれる目先筋の短期の売り買いによる値動きの荒さはあるものの、基本的にファンドには買い余力が生まれている。手掛かり材料次第では上昇も下落もという双方向をにらんだアイドリング状態だが、上昇トレンドが継続していることから買い手掛かり待ちと言える。
トランプ関税、揺れる国内司法判断
前週末のNY金の買い手掛かりはEU(欧州連合)との関税協議が進まないことにトランプ米大統領が業を煮やし、唐突に税率を50%とし6月1日に発動する意向を示したことだった(5月23日NY金70.80ドル高)。ところが、EUサイドからの歩み寄りもあり同日中に発動を7月9日に延期するとしたことで、連休明けに上げ幅をほぼ失った(5月27日65.40ドル安)。
このように関税を巡るトランプ政権の動向が日々の上下動を作っているが、先週(5月26日週)はトランプ関税を巡る司法判断が出され関税の大きな部分が違憲とされたことが、新たな注目点として浮上した。トランプ関税は大統領権限を逸脱し違憲として米国内の中小企業などが起こした訴訟で、米国際貿易裁判所は現地東部時間5月28日夕刻に相互関税など一部関税の差し止めを命じた。
政権側は即日控訴し、翌5月29日には米連邦巡回控訴裁判所は国際貿易裁判所の判断について、その効力を一時的に停止する判断を下した。控訴裁は今回の判断において、効力の一時停止がいつまで続くかは明確にしていないものの、6月9日までに判断すると見られている。
市場全体で方向感が取れない状況となったことも、先週(5月26日週)のNY金の値動きが週末に向けて小さくなった背景とみられる。
トランプ大統領とパウエルFRB議長会談
先週(5月26日週)、政治的要因で注目されたのは、5月29日にトランプ大統領がパウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長とホワイトハウスで会談し、利下げを強く求めたことだった。トランプ大統領の申し出を受けたもので政権2期目を迎えて以来、両者の会談は初めてとされる。ホワイトハウスのレビット報道官によれば、トランプ大統領はパウエル議長に対し、「利下げを行わないのは間違いだ」と伝えたとされる。ただし、去就をめぐる議論は行われなかったという。
FRBは声明で「パウエル議長は金融政策に関する自身の見通しについては議論しなかった。ただ、政策の道筋はあくまで今後入手する経済の情報と、それが見通しにとって何を意味するかに左右されるという点を強調した」と発表した。
4月に議長の去就について発言した際には、米株安、米ドル安、米国債安(利回り急伸)のトリプル安の背景になった経緯がある。今回は目立った反応は見られなかった。政権からFRBに対するこの程度のプレッシャーは織り込み済みということだろう。
JPX金週間ベース値幅は年初来最小、月足は3ヶ月続伸
こうした中で先週(5月26日週)の国内金価格は、週初に米ドル/円相場が1円余り円安方向に進んで以降144円を挟み落ち着いた動きとなったことで、NY金の値動きをそのまま映すことになった。大阪取引所の金先物価格(JPX金)の週末30日の終値は1万5534円で、週足は前週末比111円0.72%の反落となった。レンジは1万5325~1万5534円で上下の値幅は209円で、年初来で最小となる。これはNY金の値動きの落ち着きを反映している。なお月間ベースでは、85円0.56%高で3ヶ月続伸となった。
今週(6月2日週)の見通し:6月3日(火)のJOLTS(雇用動態調査)と6月6日(金)の5月米雇用統計およびFRB高官発言に注目、NY金3,300ドル上下50ドル幅、JPX金1万5300円上下200円幅
関税発動の影響が出始めるタイミング
今週(6月2日週)はいつもの月初めのイベント週となる。関税発動から早くも2ヶ月経過するが、企業も投資計画を見直す一方でコスト抑制に重点を置いているとみられる。その雇用への影響を見るために6月3日(火)のJOLTS(雇用動態調査)と6月6日(金)の5月米雇用統計に注目したい。
関税を巡る日程修正などが頻繁に行われ不透明感が継続する中で、業績の悪化を懸念し企業はコスト削減に注力している。結果として労働需要が鈍る可能性が指摘されている。求人件数を見るJOLTS指数は、4月のデータながら710万件と2020年末以来の低水準になると予想されている。前月は720万件だった。
一方、5月の雇用者増加ペースも鈍化したとの見立てが多い。市場予想は非農業部門雇用者数が12万5000人増(ダウ・ジョーンズ)で、予想を上回る拡大が続いて来た3、4月からは鈍化するとみられている。ただし、過去3ヶ月平均では16万人台の増加となり、堅調なペースとなる。失業率は4.2%の横ばいとみられている。いずれも予想比で悪化が見られた場合、FRBの政策判断への影響からNY金の買い手掛かりとなりそうだ
6月2日(火)のISM製造業景況指数、6月4日の同非製造業景況指数も関税の影響を見る上で注目となる。
FRB関係者はブラックアウト入り
6月17~18日の日程でFOMC(米連邦公開市場委員会)が開かれるが、6月7日からFRB高官は公式発言を自粛するブラックアウト期間に入る。FRBは利下げに慎重な見方を維持しているが、5月会合以降に米中間の暫定合意がなるなど状況も変化している。6月5日(木)のクック理事とクーグラー理事による発言が注目される。
こうした中で総じて方向感には乏しいものの、NY金およびJPX金ともに高値圏でのレンジ相場を基本に、関税を巡るトランプ発言や雇用データの振れにより値動きが拡大するパターンが続きそうだ。NY金は3,300ドルを挟み上下50ドル幅、JPX金は1万5300円を挟んで上下200円幅をコアとする取引を想定している。