東証グロース市場に上昇の勢いがシフト

小型株市場、新興市場が活気づいています。この原稿を書いている時点(2025年5月20日)で、東証グロース市場指数は8日続伸を記録しました。

ゴールデンウイークをはさんで東証プライム市場では、TOPIXが4月22日から5月13日にかけて13連騰を記録するという堅調な値動きを示しました。米国のトランプ大統領が言い出した「相互関税」が本当に発動され、世界中が激震に見舞われたショック安からの立ち直りが上昇の原動力となっています。

そのプライム市場の戻り歩調は先週(5月12日週)でほぼ一巡したと見られますが、その動きと入れ替わるように小型株の集結する東証グロース市場に上昇の勢いがシフトしています。

このタイミングでなぜ、小型株が好まれるのでしょうか。そこには小型株が持つ固有の特徴が関連しているためと考えられます。

今好まれる理由、小型株の特徴3点

小型株に備わっている固有の特徴として、次の3点が挙げられます。

(1)内需系企業が多い(為替相場の影響が少ない)
(2)金利低下局面に強い(逆に言えば、金利上昇局面に弱い)
(3)政策保有株が少ない(法人からの売り圧力が小さい)

(1)内需系企業が多い(為替相場の影響が少ない)

内需系企業が多い、という点では、東証グロース市場に上場する小型株のほとんどが新進気鋭のIT企業です。デジタル技術に特化したビジネスモデルを引っ提げて上場した企業が多くを占めています。したがって為替相場の影響を受けにくいという特徴があります。

(2)金利低下局面に強い(逆に言えば、金利上昇局面に弱い)

これは金利上昇に弱いという小型株の最大の弱点をひっくり返したものです。米国ではFRB(米連邦準備制度理事会)による歴史に残る政策金利の引き上げで、根強い物価上昇をどうにか食い止めたばかりです。

トランプ関税の影響が新たな引き金となってインフレが再燃する恐れも残っていますが、物価の上昇はいったん沈静化しています。政策金利の引き上げはすでに一巡して、次は利下げの時期がいつになるか、市場では盛んに議論されています。

日本では、日銀が次の利上げのタイミングを計っていますが、株式市場が4月の急落から立ち直ったばかりという現在、簡単には利上げには踏み込めません。その時期を見計らってすかさず小型株が活躍し始めています。

(3)政策保有株が少ない(法人からの売り圧力が小さい)

この点こそ小型株の最大の特徴と言えるかもしれません。上場企業は、東京証券取引所の通達により「資本コストを意識した経営」が求められています。資本効率を改善するためにも、上場各社は競うように政策保有株(持ち合い株)を売却、削減しています。それがプライム市場に上場する大手企業の株価への売り圧力となっています。

対照的に、グロース市場に上場する小型株は政策保有株とはほぼ無縁の存在です。上値に控える売り物も少なく、株式供給上の不安が少ないことも小型株の支援材料と見ることができます。

デジタル領域に特化した事業を展開する小型株

上記のような性格を持つ新興市場の小型株には、最大の特徴としてもうひとつ、デジタル領域に事業が特化しているという大きな側面があります。

社会のどこを見わたしてもデジタル・トランスフォーメーションが急速に進行しています。クラウド、生成AI、量子コンピューティング、自動運転、核融合など、あらゆるデジタル革命が堰を切って実社会に押し寄せています。

旧来型の社会の仕組みを、デジタルを活用してまったく新しいプロセスに作り替えてしまう。そのような新興市場の小型株だけが持つ優位性が発揮されつつあります。東証グロース市場指数の連騰記録はどこかで途切れるでしょうが、新興市場に上場する小型成長株の人気は根強く残るような気配が漂っています。

小型株4銘柄をピックアップ

東証グロース市場、東証スタンダード市場に上場する企業をご紹介します。

Finatextホールディングス(4419)

証券、保険、投信運用会社向けの基幹システムを、クラウドを通じてSaaSで提供。従来の大規模な基幹システム構築とは異なり、SaaSでの収入や従量課金が収益の中心。IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を育成する準大手クラス級の証券会社、システム開発の負担の大きな地方銀行に向けて、金融インフラのニーズは大きい。新たにビッグデータ解析事業も立ち上がりつつある。「金融サービスを再発明する」とのミッションの意味は大きい。

【図表1】 Finatextホールディングス(4419):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年5月22日時点)

dely(299A)

料理レシピの動画アプリ「クラシル」を運営。2018年にヤフー(現在のLINEヤフー)の傘下に入った。アプリのダウンロード数が4400万人、利用者数が5500万人という視聴者からの圧倒的な支持をバックに、課金収益や広告収益を得る。また「クラシルリワード」は特売のチラシを見たり、買い物をしたレシートを送信するとポイントが貯まる。ユーザーにお得感を感じてもらいながら企業発の広告を上手にユーザーに届ける。購買意欲を喚起する技術に秀でる。

【図表2】dely(299A):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年5月22日時点)

クリアル(2998)

複雑で高額な資金のかかる不動産投資を、クラウドファンディングの手法を通じて個人でも1万円から投資できるシステム「CREAL」を開発。投資家登録から投資の実行まですべてオンラインで完結するのが特徴。同時に1億円から投資できる富裕層・機関投資家向けの運用サービスも展開する。2025年3月末で投資家数は9.7万人、累計投資金額は700億円に達した。低金利の続く環境で不動産市況は堅調。業績は急拡大している。

【図表3】クリアル(2998):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年5月22日時点)

MIC(300A)

2024年12月に東証スタンダード市場に上場。小売店を中心に販売促進(マーケティング)に関する業務をトータルでサポートする総合支援サービス会社。クライアントの中心はドラッグストアだが、携帯ショップ、コンビニ、飲食チェーン、日用品メーカーなど幅広い。顧客の業務活動を深く分析し、コンサルティングを行い、販促ツールを提案する。販促物の制作から業務プロセス、商品の在庫管理、配送までフルにサポートする点が特徴。全国のドラッグストアの半数が同社システムを採用しているとみられる。

【図表4】MIC(300A):週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年5月22日時点)