先週(5月5日週)の振り返り=週後半は「世界貿易戦争」懸念後退で円安に
週前半はアジア通貨高へ連動、142円までの円高
先週の米ドル/円は一時142円台まで下落したものの、その後は関税交渉で米国が英国と最初の合意に達するなど、「世界貿易戦争」への懸念後退を主な手掛かりに一時146円を超えるまで米ドル高・円安へ戻す展開となりました(図表1参照)。

「世界貿易戦争」への懸念が後退する中で、株価が大きく反発し、米金利も上昇しました。日米金利差(米ドル優位・円劣位)は拡大しましたが、146円以上への米ドル/円の反発は、そうした金利差拡大で説明できる範囲を超えたものであったようです(図表2参照)。

週後半はアジア通貨高に連動した円高の反動が入った
先週(5月5日週)前半、142円台まで米ドル/円が下落したのは、中国の通貨である人民元などアジア通貨の急騰に連動したものでした(図表3参照)。5月に入ってから、米国との関税交渉でアジア通貨高誘導が要請されるといった思惑が浮上したことを受けた動きとの解説が一般的だったようです。

人民元などアジア通貨の急騰は先週半ばにかけて一段落となりました。そうした中で、「世界貿易戦争」への懸念が後退し、株高、米金利上昇となったことから、アジア通貨高に連動した円高の反動が入ったということだったのではないでしょうか。では、「世界貿易戦争」への懸念後退を受けた米ドル高・円安へ戻る動きはさらに続くかと言えば、私は違うのではないかと思います。
「世界貿易戦争」懸念後退=円安は続かない?
米ドル/円が3月にかけて150円を割れるまで下落した動きは、日米金利差縮小に沿ったものでした(図表4参照)。ところで、日米金利差縮小は、本来「世界一の経済大国」である米国の金利の影響を強く受ける日本の金利が、米金利低下傾向を尻目に急上昇するという異例の動きで起こったものでした(図表5参照)。


上記のことから考えられる1つのシナリオは、3月にかけての異例の日本の金利上昇が主導した円高は、米国からの円高圧力を受けた日銀の「タカ派化」がもたらした結果だったということです。ところが、4月に入り、トランプ米大統領の相互関税発表以降、「世界貿易戦争」への懸念から、特に米国からの資金流出、「米国売り」が急拡大した。こうした中での円高圧力は、米ドル安を通じて「米国売り」を深刻化させかねない懸念があったので、円高圧力は中断されたのではないでしょか。
以上のような仮説から、先週にかけて「世界貿易戦争」、そして「米国売り」リスクが後退したということは、逆にトランプ政権が円安など外国通貨安への不満を再燃させる可能性があるのではないでしょうか。そもそもすでに見てきたように、5月に入ってからの人民元などアジア通貨の急騰は、そうしたことの前兆のようにも感じられます。そうであれば、「世界貿易戦争」や「米国売り」リスクの後退も、それを受けた米ドル高・円安への戻りには自ずと限界があるように思います。
今週(5月12日週)の注目点=米景気減速懸念の後退は本当か
米第2四半期GDP予想はプラスを回復=GDPナウ
一方で米ドルにとってプラス要因の可能性があるのは、米景気への懸念が少し後退してきたということです。2025年第1四半期の米実質GDP・速報値は、前期比年率でマイナス0.3%と2022年以来のマイナス成長となりましたが、第2四半期については定評のあるアトランタ連邦準備銀行の経済予測モデルのGDPナウが5月8日に更新した予想値は2.3%とプラス成長を回復するとの予想となりました。
今週(5月12日週)はCPI(消費者物価指数)などのインフレ指標、そして小売売上高など注目度の高い米経済指標の発表が多く予定されています。これらの結果を受けて、米景気減速への見方がどの程度修正されることになるかは、米国株や米金利の動きを通して米ドル/円の行方を考える上での注目テーマの1つと言えるでしょう。
ただしそうは言っても、トランプ政権発足後の米ドル/円は、関税政策等の影響を強く受ける状況が続いてきました。基本的には円高など外国通貨高を要請する、そして「米国売り」の拡大によりそれを控える局面でも米ドル安・円高リスクは続くという具合でした。そうした構図は、まだ変わらない可能性が高いのではないでしょうか。
今週(5月12日週)の米ドル/円予想レンジは142~147円
以上を踏まえると、米ドルの反発は限られ、きっかけ次第で米ドル安・円高に反応しやすい最近の流れは今週も大きく変わらないと思います。したがって、今週の米ドル/円は142~147円で予想したいと思います。